「ママ!!ママのおべんとう!すっごくよろこんでくれたよ!!」
「そ、そうか… 良かったな」
「ん?ママのダーリン、どうして、ころがってるの?」
「あっ!!いつの間に…」
「それでね、ママ!!ママにおねがいがあるの!!」
「な、何だ?」
チャンミンと良い感じになると、必ずと言って良い程、邪魔が入る。
俺が吹き飛ばされたって事は…間違いなく、保護者の意思が介在している。涼しい顔をして、窓辺に立つ保護者は壁際を陣取り、腰を下ろす。
「遅くなるなと言ったが…随分、早かったじゃないか…」
「ん?もっとおそいほうがよかった?」
「い、いや!そんな事はない!」
「かえりはユノにおまかせだから!もっとおそくがいいなら、ユノにおねがいするけど…」
「そ、それより何だ?次のお願いは…」
チャンミンはかなり動揺しているのだろう。さっきまでの可愛いチャンミンを思い出し、複雑さに襲われていると、竜の大きな声が響く。
「ママ!おうた、おうたって!!」
「…は?」
「ママもおうた、じょうずでしょ?」
「いきなり何を言い出すんだ…」
「ぼく、ママのおうた、ききたい!!」
「歌えと言われても…」
「ききたいの!!」
「……」
叫ぶ竜の勢いに押され、チャンミンは頷いていた。
俺も聞けると、期待した。でも、竜のリクエストは子守唄らしい。そのまま、昼寝がしたいと言う竜に、チャンミンは連行されていく。
俺は保護者と共に、取り残されてしまった。
肩を落とし、項垂れていると…不思議な現象が起こる。
リビングと寝室は距離があり、隣り合っていないのに…そこでの光景が目の前に現れる。
もしかして、これは…保護者の力か?離れていても、竜から目を離さない為に、こんな事が出来るのか…。
何故か、追い出される事はない。留まる事を許され、俺も盗み見が出来そうだ。
『…ママ』
『どうした?』
『ぼくがいいっていうまで、やめないでね?』
『ああ。分かった…』
『ママ。…また、おべんとう、つくってね…』
『…ああ』
『…こんどはおかしをもっていくって…やくそくしたの…』
『…そうなのか?』
『…ぼくのも…いっぱいいるから…』
『…ああ、分かっている。作るなら…更に大量だな…』
『…ありがとう、ママ…』
残念ながら、小さな歌声は聞き取れない。でも、竜の安心しきった寝顔と、チャンミンの慈しむような表情を目にした俺は、珍しく保護者に感謝したくて、頭を下げた。
「…あの、出来れば次回は…遅くに帰ってきてくれないか?」
調子に乗るなと言われたのだろうか。返事の変わりに貰ったのは、ぴしゃりと叩かれるような風だった。
おしまい。