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一応、秘密の…ホミンのお話置き場です。

taste of love 94

2018-11-16 | 恋の味



 

 

 

俺はどうしたいのだろう。

決意は変わっていない。チャンミンの成長を待つと決めた。

でも、姿を変え、大きく美しくなったチャンミンを目の前にすると、決意は容易く揺らいでしまう。こんな葛藤は止めにしてしまえば良いのだろうか。チャンミンは俺の意思を尊重してくれる。時折でも大きくなって欲しいと思うのは本心だ。だから、チャンミンは奴に協力を求め、努力をしている。


でも、それは…俺の決意を揺るがす結果に至る。

答えを出したいようで、逃げていたい。また迷路に迷い込んでいると、チャンミンの声がした。

 


「ユノ?どうしたの?」

「…ああ、チャンミン」

 

食事中に動きを止めてしまうのは、問題だ。苦笑いして謝ると、膝に居るチャンミンはジッと俺を見上げてくる。

 

「ユノはどうして、そんなに悩むの?」
「…え?」
「したいことをすれば良い。それじゃ駄目なの?」
「それは…」


話を逸らそうと、パンをちぎって差し出しても、チャンミンは首を振り、拒否する。





「僕とユノが良いって思えば、それで良い。ユノがそう言ったんだよ?」
「ああ、そうだな」
「僕は良いって思っても、ユノは思ってないって事?」
「…そんな事は」
「僕は大きくならない方が良い?」
「…チャンミン」


不安を抱く、澄んだ瞳を見返していると、素直な自分を晒したくなる。

 



「…正直に言えば…俺は怖いんだ」
「怖い?何が怖いの?」
「…全ての幸せを掴んでしまうのが…」
「え?」
「俺はチャンミンに恋をしてきた。それはとても長い時間だ。ずっとずっと、片想いを続けてきたんだ」
「…うん」
「その想いを忘れてしまったのかと思う程、長い時間を一人で生きて来た。住む世界も変わり、生き方も変え…無に近いような時間を過ごしてきたんだ」
「…うん」

 

チャンミンは小さな声で返事をし、俺の告白を受け止めてくれる。



「長い片想いが報われて、今、こうしてチャンミンと過せている。それだけで、感謝しきれない程の幸せを感じられているんだ」
「…うん」

「その先には、これ以上の幸せが待っていると分かっている。でも、一気にそこへ到達するのは…勿体ない気がする」

「勿体ないの?」

「ああ。大きくても、小さくてもチャンミンはチャンミンだ。それは分かっている。それでも、何かの力の影響を受け、得られる喜びだとすれば、俺は抗いたいような気もする」

「…ユノ」

 

心境を吐露すれば、自分勝手でしかないと痛感する。要するに、俺の心の準備が出来ていない。そう言えば、チャンミンは表情を緩め、笑ってくれる。

 


「ユノは大人に見えて、まだ中身は子供って事?」

「…ああ。そうだな」

 

チャンミンに言われると、素直に認めたくなる。


「遙か昔に、チャンミンに恋をした時から、俺の成長は止っているのだろう」

「なら、ユノ!やっぱり練習しなくちゃ!」

「え?」

「僕もユノと一緒に…大人になる練習をするよ!」

「…チャンミン」

 

無邪気な笑顔には、同じような笑顔を返したい。笑い返す俺に、チャンミンはよじ登り、可愛い口づけを与えてくれた。

 

 

 

 

 

 





***
 

「ねえ、カラスさん!苺のジャム、作りたかったんだけど…」

「けど?けど、どうしたんだ?」

「全部、そのまま食べちゃったの…」

「あはは」

 

カラスさんに駆け寄って、僕は嘆いた。ジャム用に置いておきたかった苺は、そのままユノの口へ運んでしまった。全てを説明しなくても、カラスさんは察してくれて、困ったように笑っている。

 

「それは残念だったな」

「そうなの!それにね!僕、また大きくなれるかと思ったんだけどね。大きくならなかったよ?」

「そうなのか?」

「大きくなれたり、なれなかったり…。僕の力って不安定なのかな」

「…そうだな」

 

首を傾げると、カラスさんは抱き上げて、また優しく笑ってくれた。

 



「チャンミンの力とあいつの願いと…微妙な駆け引きの結果が不安定な現象を引き起こすのだろうな」

「え?」

「どちらの想いも影響し合って、予想外の変化が起こる。あやふやだが…それがお前達二人の望む事。そういう事なのだろう」

「それって、どう言うこと?」

 

カラスさんに聞き返していると、後ろでユノの咳払いが聞こえた。ユノの顔を見たカラスさんは、僕に耳打ちしてくる。

 

 


「まだ暫く、攻防戦が続くと言う事だ」
「え?」
「…予想以上に純情な元天使と、チャンミンと。どちらが先に大人になるだろうな」


カラスさんの言葉を聞き、僕はハッとして声を上げる。



「僕とユノは一緒に大人になるから!」
「何だと?」
「その為に僕はユノと一緒に練習するんだからね!」
「そうなのか?」
 

大きな声で宣言していると、僕の身体はユノの腕に絡め取られる。

 


「チャンミン。そいつに心を許しすぎだ!」
「ユノ、そんなに怒らないで?」

 

目くじらを立てるユノに唇を当てると、カラスさんの笑い声が響く。

 



「チャンミン。弟から聞いたんだが…他にも似たような夫婦は居るらしいぞ?」
「え?」
「我慢強くて純情で、妙な部分が頑なで…信念を貫き、嫁を困らせる旦那はそいつだけではないらしい」
「そうなの?」
「今度、弟に言って紹介して貰うか?」
「紹介?」
「旦那の不要な決意を打ち砕く方法を相談するのはどうだ?」

「勝手な事を言うな!!」
「ユノ、落ち着いて!」




カラスさんの提案には興味があった。でも、怒るユノをどうにかしたくて、考える余裕はない。急いで唇を押し当てて、ユノの怒りを鎮める事に夢中になる。

 

その様子を見て、カラスさんは笑い声を響かせる。

その笑い声も嫌いじゃない。それに、ユノにくっつける理由があるのは嬉しいから。


僕はまだまだこのままで良い。そう思いながら、抱き寄せてくれるユノにしがみついていた。

 

 

 





 

 
***

一旦、ここで
この話は止まります(^-^)


お付き合い下さり、ありがとうございました!

 

 

 

 


taste of love 93

2018-11-16 | 恋の味


 

「泣くな、チャンミン」
「だって…ユノ様。楽しみにしていたユノ様の苺が…」

 
「ごめんなさい!!大事な苺を食べちゃって…」
「本当に、済まない」

 

現われた二人は苺を育てていた夫婦だった。どうやら手違いと勘違いで、俺とチャンミンは予定とは異なる場所へ案内されていたらしい。落ち度を認める奴も共に謝っている。




俺とチャンミンと同じ名前を持ち、容姿も似ている夫婦は関係性も似ているのだろか。

申し訳無いと涙を浮かべるチャンミンを抱き寄せ慰めていると、そちらの夫婦も同じように泣く嫁を旦那が慰めていた。

 

 





「あれ!?チャンミン!!どうしたの!!って、可愛いチャンミンも!!って!兄ちゃん!何してんだ!!」


何処からやって来たのだろう。奴の弟と名乗る、例の煩い鳥がやって来て、勝手に騒ぎ始める。



「え!?場所を間違えた?そんな事ってある!?」
【…あるからこんな事態を招いたんだろう】
「兄ちゃんって、時々、やらかすからな!」
【……】


煩い鳥に向かい、声を掛けるのは農夫の嫁だ。



「キュちゃん、そのカラスさんと知り合いなの?」
「あ!チャンミンには紹介してなかった!これが一番上のお兄ちゃん!兄ちゃん!ボクの親友の可愛いチャンミン!」


そちらの夫婦の知り合いだと言う煩い鳥の登場で、状況は一気に好転してくれた。

 

 

 




 

「え!ジャム屋さんなんですか!?」
「はい、お手伝いをしてるだけですけど…」


感謝したくはないが、煩い鳥が間を持ったお陰で、俺のチャンミンとまだ何処かにあどけなさを残す嫁は会話を交している。

それだけじゃない。苺を食べてしまった事は、問題にしないと笑う、気前の良い旦那は残りの苺も持って帰れと言う。



「でもユノ様!」
「苺ならまた育てれば良いだろ?」
「そうですけど…」
「苺以外にも楽しみにしている物はあるだろう?だから、チャンミン。ここの苺は譲ろう」
「…はい」


旦那の言う事に頷く嫁に、俺のチャンミンが声を上げる。


「ジャムにしたら、お礼に贈ります!」
「え!本当ですか?」
「あ!苺ジャムをミルクに溶かして飲むと、美味しいって知ってますか?」
「えっ!知らないです!」


苺ジャムに興味を持つ嫁を見つめる旦那の眼差しは優しい。

思いがけない出会いに気を取られ、チャンミンと絡む機会を失った事への落胆は、まだ自覚しなかった。




 



 

「え!?双子ちゃんのお母さんなんですか!?」
「はい、そうなんです!」
「双子だけじゃない!チャンミンには…」


チャンミンの声だけでなく、嫁の発言にも驚いた。俺のチャンミンよりは年上に見える。でも、まだ子を持つようには見えない。二人の間に割り込む鳥が大きな声で夫婦の出会いの経緯を説明するから、聞き入ってしまった。



…奥手な旦那と幼い嫁。それでいて子持ちの幸せ夫婦か…。黙って考えていると、奴が余計な事を口走る。

 



【…良い手本となるじゃないか】
「……」
【…相談に乗って貰えるよう、頼んでみるか?】
「余計な事を言うな」



冗談じゃない。俺は俺のやり方でチャンミンと心と身体を繋げるんだと、奴を突き放す。けど、余計な存在はまだ別に居る。

 

「そっちのだんなも奥手なんだって!チャンミン、こっちの可愛い小さなチャンミンに協力してあげたら?」
「え!?そうなんですか?」

 

視線を向けられると、対応に困り、固まる。黙っていると、俺のチャンミンが協力を要請する気がした。急いでチャンミンを抱き上げ、それ以上会話が進展しないように遮った。

 

 






 

思いがけずに知り合った夫婦と、またの再会を約束して、帰路につく間。奴は大きな独り言を洩らす。

 

【…あの大きな苺は…また別の力を宿していたのだろうか】
「え?」
【…思っていた物とは違っても、チャンミンの変化に力を貸した訳だろう?】
「ああ、そうだよね」
【…あの夫婦も特別な力の持ち主なのだろうか】
「そうなの?」
【だとすれば、また世話になるかも知れないな…】
「お世話になるなら、お礼もいっぱい必要だね!」

 

勝手に、俺のチャンミンと会話をするな。そう叫びたい。けど、楽しげなチャンミンの邪魔はしたくない。




「ねえ、カラスさん!この苺をジャムにしたら、やっぱり特別なジャムになる?」
【…恐らくは】
「毎朝、ミルクに入れて飲むと、毎回、僕は大きくなれるかな」
【…可能性は否定出来ない】
「毎朝、大きくなれば、僕はユノと練習出来るよね!」
【…練習とは…具体的に…】


「チャンミン!早く帰るぞ」


大声を上げ、会話を止めた俺に何かを思うのだろう。チャンミンは思い切りしがみついてきた。











 


taste of love 92

2018-11-16 | 恋の味


 

 

「ほら、口を開けて…?」
「……」
「どうしたの?」
「……」

 

苺を差し出したのに、ユノは全く動いてくれない。強く引き寄せ過ぎた?そう思い、腕の力を弱めてみた。

でも、ユノは口を開けてくれなくて、苺は少しも減らない。…このやり方は違うって事?ハッとした僕は苺を口に咥えた。


そう言えば、さっきもこうした。ユノはこの食べさせ方を望んでいる。どうしてそれが分からなかったのだろうって、もどかしさも感じた。僕は苺ごと、ユノに近づき、唇を押し当てる。少しだけあった抵抗感はスッと消え、苺はユノの口内へと押し入ってくれた。

 

柔らかな果肉は解れていく。そして、濃厚な甘い香りを一気に放ち、幸せな気持ちを与えてくれる。

 

「…どう?ユノ…」

「…あ、ああ」

「まだ足りない?」

「…ああ」

 
ユノの返事を聞き、僕はやる気になる。摘み取った苺をまた咥え、ユノに口移ししていく。

 

苺の香りだけじゃない。違う種類の…甘い香りがする。

これはユノの香り?何だか、身体の奥が熱くなって…心臓がバクバクと煩く鳴っている。

 

「…ねえ、ユノ。熱くない?」

「…何?」

「熱いのは…僕だけ?」

 

頬も耳も何だか熱い。溜息に似た深呼吸をすると、急にユノが動きだし、僕を強く抱寄せる。

 

 

「…ユノ?」

「…チャンミン…」

 

僕だけじゃなくて、ユノの肌も熱い。ユノの胸元へ張り付くと、それを実感出来たから。

僕は嬉しくなって、勝手に唇を押し当てていた。

 


 

 

「…ユノ」

 

耳に届く声が刺激となる。熱いかと問われれば、同じだと答えたい。強く引き寄せると、チャンミンの身体は腕に収まる。


大きさなんて関係ない。どちらにしても、チャンミンはチャンミンだ。愛しさが込み上げて、どう扱えば良いのか、分からなくなる。

 


「…チャンミン」

 

名前を呼べば、胸が苦しくなる。心地良い苦しさと言えば良いのか。切ない吐息だけでなく、違う何かも溢れそうだ。



瞳を揺らせるチャンミンに吸い込まれ、どうにかなりたいと思った瞬間。背後から誰かの声が上がる。










「ユノ様!大っきな苺の収穫!楽しみですね!」


…これは誰の声だ?動きを止める俺にしがみつくチャンミンは震える声を出す。


「…ユノ?」
「チャンミン、今…」




「ああっ!ユノ様っ!大変です!」



賑やかな叫び声の持ち主は、俺と同じ名前を連呼して、騒ぎ立てる。胸元に張り付くチャンミンも異変に気付いたらしい。あっと、短い声を上げ、するすると元の姿へ戻ってしまった。










 

 


taste of love 91

2018-11-15 | 恋の味




「…んっ?」
「ん…」

強引なチャンミンと苺を味わったと思った瞬間。抱き心地が変わった。もしやと思い、目を見開くと…予想は的中していた。



「チャ、チャンミン!?」
「ユノ。この苺、思った以上に美味しいね」
「っ!」


ただでさえ艶めく唇が苺の果汁を纏うから、更に眩しく煌めいている。何と魅惑的な色香だろうか…。息をするのも忘れ、時間が止まってしまう。



「ユノ?どうしたの?」
「……」
「苺、もっと食べない?」
「……」


真っ赤な唇に見とれている間も、チャンミンは鈴を転がすような声で、俺を誘惑してくる。



「ねえ、ユノ。大丈夫?また膝枕しようか?」
「……」
「僕が大きくなると、ユノはおかしくなる?」
「……」
「やっぱり、大きな僕は何処か変?」
「そ、そんな事はない!」


否定には全力を尽くす。ハッとする俺に向けられるのは…美しいチャンミンの笑みだ。



「ユノ。僕は何をしたら良い?」
「…そ、それは…」
「まだ僕がユノにしてない事。何でも良いから言ってみて…?」
「…あ、ああ」


チャンミンに囁かれると、心が何処かへ飛んでいきそうだ。乱れる呼吸を整えながら、美しいチャンミンから目を離せずに、相変わらずな俺は激しく動揺していた。





 

 

僕が大きくなると、ユノは少し変になる。落ち着きをなくし、声を詰まらせて、動揺している。

それはきっと、変化に慣れていないから。僕も慣れたとは言えないけど、同じ事を繰り返していても、進歩はない。だから、言ってみた。


まだしていない事。ユノが僕に望む事。頬を赤くして、唇を震わせるユノを見つめ、答えを待つ。


 

「…な、何でも良いのか?」

「うん、良いよ」

 

 

ユノが何を望んでも応えたいと思う。でも、僕にも分からない事を望まれたらどうしようって、急に思った。ああ、そうだ。その時はカラスさんに聞けば良い。若しくはユノに聞いてみよう。自問自答を終えて、ユノの言葉を待ち望んだ。

 

 

「だったら…俺は」

「何?」

「…苺を  食べさせて  欲しい…」

「苺を?」

 

苺のように赤い顔をして、言いにくそうに望みを口に為るユノを可愛いと思った。身体が大きくなると、心も感じ方も変わるのだろうか。いつも守ってくれる頼もしいユノを甘やかせたくて仕方ない。

 



「ただ食べさせるだけなら、つまらないよね」
「…え?」
「ほら、ユノ。僕がギュッとしてあげる。いつもユノがしてくれるように」
「…あ」

  

手を引けば、ユノは力なく倒れ込む。僕は胸元へ押し込め、新たに手にした苺をユノの唇へ当てた。

 

 



 

 。






taste of love 90

2018-11-14 | 恋の味



 

 
「ねえ、ユノ」
「どうした?チャンミン」
「僕の力って…不思議だよね」
「ああ、そうだな」
「でもね。僕が自分でどうにも出来ないからね。困る事もあると思うんだよ」
「…ああ」
「でもね、そんな時はユノが助けてね」
「俺が?」
「ユノとくっつけば、モヤモヤも消えるし、不安もなくなる。嬉しさだけでいっぱいになると、幸せが広がるんでしょ?」
「ああ、そうだな」
「幸せを感じるのは僕だけじゃ、無理だから。ユノが僕を助けてね」
「ああ、分かった」



返事をして微笑むと、チャンミンは満面に笑みを浮かべる。同じような事を繰り返しているようでも、互いに成長して、愛を育んでいる。そう思えた事も嬉しくて、また身体を引き寄せ、唇を押し当てた。

 

離れられない俺達を見守る奴は、苦笑いして、余計な事を言う。

 


「…にしても、チャンミンに与えた力はどれ程のものなのか。…お前の父は本当に過保護…」
「カラスさん!!それって、どう言う事!?」


チャンミンは奴の発言に食い付き、大声を上げる。

 
「僕の力って、ユノのお父さんがくれたの?ユノのお父さん、僕の事、知ってるの?ユノのお父さんって、どんな人?僕も会いたい!」



興奮するチャンミンに、奴は困惑しきりだ。チャンミンはこれまでの経緯を知らない。その方が良いと言ったのは、奴自身だ。

黙っていると、奴の視線が助けろと懇願している。無視してやろうと思ったが、仕方ない。



「それより、チャンミン。大きな苺を刈り取るなら、大きな籠が必要だよな」
「え?」
「帰りに探してみようか」
「うん!凄く大っきな籠がいるものね!」



話題を変える事に成功した俺を見て、奴は珍しく視線を下げていた。

 

 

 










***




「ユノ、味見してみる?」
「俺は後で良い。チャンミンが味見してみろ」
「僕はユノの後で良いよ?」
「俺はチャンミンの…」


大きな苺を手にして、同じ事を言い合う。



【お前達。同じやりとりばかりで飽きないか?】

「飽きないよ?カラスさん」
「余計な事を言うな」


ユノと一緒に答えると、カラスさんは苦笑いする。


【愚問だったか。それより、早く摘まないと、長居は出来ないからな】


「あ!そうだったね!ユノ、急ごう」
「ああ」



楽しみにしていた約束の日。

カラスさんが案内してくれた場所には、僕の手のひら位ある、大っきな苺が沢山、実っていた。神聖な場所だとも聞いていたから、何度も頭を下げ、苺を分けて下さいってお願いしてから、ユノと苺狩りを始めた。



真っ赤で大っきな苺は甘い香りを放っていて、凄く美味しそう。だから、ユノに差し出してみるけど、僕が先に味見しろって言われて、カラスさんに笑われる。そんな事を繰り返していた。



「カラスさん、この苺をジャムにしたら、僕は大っきくなれる?」

【…恐らくな】

「それだけ特別な苺って事?」 

【…試してみるか?】

「え?」

【…同時に味見してみろ】

「同時に?」



カラスさんの言った意味が分かった僕は、苺を咥えてユノに飛び付いてみた。


勢い余り、僕とユノの口の間で苺は潰れる。更に濃い香りが満ちたと思った瞬間。僕はいつもよりしっかりと、ユノに巻き付く事が出来た。