俺はどうしたいのだろう。
決意は変わっていない。チャンミンの成長を待つと決めた。
でも、姿を変え、大きく美しくなったチャンミンを目の前にすると、決意は容易く揺らいでしまう。こんな葛藤は止めにしてしまえば良いのだろうか。チャンミンは俺の意思を尊重してくれる。時折でも大きくなって欲しいと思うのは本心だ。だから、チャンミンは奴に協力を求め、努力をしている。
でも、それは…俺の決意を揺るがす結果に至る。
答えを出したいようで、逃げていたい。また迷路に迷い込んでいると、チャンミンの声がした。
「ユノ?どうしたの?」
「…ああ、チャンミン」
食事中に動きを止めてしまうのは、問題だ。苦笑いして謝ると、膝に居るチャンミンはジッと俺を見上げてくる。
「ユノはどうして、そんなに悩むの?」
「…え?」
「したいことをすれば良い。それじゃ駄目なの?」
「それは…」
話を逸らそうと、パンをちぎって差し出しても、チャンミンは首を振り、拒否する。
「僕とユノが良いって思えば、それで良い。ユノがそう言ったんだよ?」
「ああ、そうだな」
「僕は良いって思っても、ユノは思ってないって事?」
「…そんな事は」
「僕は大きくならない方が良い?」
「…チャンミン」
不安を抱く、澄んだ瞳を見返していると、素直な自分を晒したくなる。
「…正直に言えば…俺は怖いんだ」
「怖い?何が怖いの?」
「…全ての幸せを掴んでしまうのが…」
「え?」
「俺はチャンミンに恋をしてきた。それはとても長い時間だ。ずっとずっと、片想いを続けてきたんだ」
「…うん」
「その想いを忘れてしまったのかと思う程、長い時間を一人で生きて来た。住む世界も変わり、生き方も変え…無に近いような時間を過ごしてきたんだ」
「…うん」
チャンミンは小さな声で返事をし、俺の告白を受け止めてくれる。
「長い片想いが報われて、今、こうしてチャンミンと過せている。それだけで、感謝しきれない程の幸せを感じられているんだ」
「…うん」
「その先には、これ以上の幸せが待っていると分かっている。でも、一気にそこへ到達するのは…勿体ない気がする」
「勿体ないの?」
「ああ。大きくても、小さくてもチャンミンはチャンミンだ。それは分かっている。それでも、何かの力の影響を受け、得られる喜びだとすれば、俺は抗いたいような気もする」
「…ユノ」
心境を吐露すれば、自分勝手でしかないと痛感する。要するに、俺の心の準備が出来ていない。そう言えば、チャンミンは表情を緩め、笑ってくれる。
「ユノは大人に見えて、まだ中身は子供って事?」
「…ああ。そうだな」
チャンミンに言われると、素直に認めたくなる。
「遙か昔に、チャンミンに恋をした時から、俺の成長は止っているのだろう」
「なら、ユノ!やっぱり練習しなくちゃ!」
「え?」
「僕もユノと一緒に…大人になる練習をするよ!」
「…チャンミン」
無邪気な笑顔には、同じような笑顔を返したい。笑い返す俺に、チャンミンはよじ登り、可愛い口づけを与えてくれた。
***
「ねえ、カラスさん!苺のジャム、作りたかったんだけど…」
「けど?けど、どうしたんだ?」
「全部、そのまま食べちゃったの…」
「あはは」
カラスさんに駆け寄って、僕は嘆いた。ジャム用に置いておきたかった苺は、そのままユノの口へ運んでしまった。全てを説明しなくても、カラスさんは察してくれて、困ったように笑っている。
「それは残念だったな」
「そうなの!それにね!僕、また大きくなれるかと思ったんだけどね。大きくならなかったよ?」
「そうなのか?」
「大きくなれたり、なれなかったり…。僕の力って不安定なのかな」
「…そうだな」
首を傾げると、カラスさんは抱き上げて、また優しく笑ってくれた。
「チャンミンの力とあいつの願いと…微妙な駆け引きの結果が不安定な現象を引き起こすのだろうな」
「え?」
「どちらの想いも影響し合って、予想外の変化が起こる。あやふやだが…それがお前達二人の望む事。そういう事なのだろう」
「それって、どう言うこと?」
カラスさんに聞き返していると、後ろでユノの咳払いが聞こえた。ユノの顔を見たカラスさんは、僕に耳打ちしてくる。
「まだ暫く、攻防戦が続くと言う事だ」
「え?」
「…予想以上に純情な元天使と、チャンミンと。どちらが先に大人になるだろうな」
カラスさんの言葉を聞き、僕はハッとして声を上げる。
「僕とユノは一緒に大人になるから!」
「何だと?」
「その為に僕はユノと一緒に練習するんだからね!」
「そうなのか?」
大きな声で宣言していると、僕の身体はユノの腕に絡め取られる。
「チャンミン。そいつに心を許しすぎだ!」
「ユノ、そんなに怒らないで?」
目くじらを立てるユノに唇を当てると、カラスさんの笑い声が響く。
「チャンミン。弟から聞いたんだが…他にも似たような夫婦は居るらしいぞ?」
「え?」
「我慢強くて純情で、妙な部分が頑なで…信念を貫き、嫁を困らせる旦那はそいつだけではないらしい」
「そうなの?」
「今度、弟に言って紹介して貰うか?」
「紹介?」
「旦那の不要な決意を打ち砕く方法を相談するのはどうだ?」
「勝手な事を言うな!!」
「ユノ、落ち着いて!」
カラスさんの提案には興味があった。でも、怒るユノをどうにかしたくて、考える余裕はない。急いで唇を押し当てて、ユノの怒りを鎮める事に夢中になる。
その様子を見て、カラスさんは笑い声を響かせる。
その笑い声も嫌いじゃない。それに、ユノにくっつける理由があるのは嬉しいから。
僕はまだまだこのままで良い。そう思いながら、抱き寄せてくれるユノにしがみついていた。
***
一旦、ここで
この話は止まります(^-^)
お付き合い下さり、ありがとうございました!
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