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一応、秘密の…ホミンのお話置き場です。

よん。

2020-10-31 | とある学園の話。会議編。


「…次は…何処から回ろうか」

独り言を漏らしつつ、廊下を歩く。
交渉は順調に進んでいる。カフェを営む夫婦も農業科の教師夫妻もすんなり了承してくれた。彼の方も順調だと連絡があった。後は生徒に声を掛ける必要があると、手元の資料を確認する。

「…ああ、そうだ。あの問題児達にも声を掛けておかなければ…」

時計を見遣り、屋上へと向かう。そこには予想通り、いつも連んでいる例の問題児達の声が響いていた。


「あっ!!ママっ!!」
「あっ!竜ちゃんのママだ!」
「ぼくたち、まだわるいことしてないからね!!」

パッと笑顔を咲かせる竜とは対照的に、問題児達は悪い顔をして叫ぶ。

「まだ…という事は…何かする気だったのか!」

「あのね!ママ!チーちゃんがね!」
「ちょっと竜ちゃん!まだひみつだっていったでしょ!」
「そうだよ、竜ちゃん!とくに、ママにはナイショだって!」
「あっ!そっか!ママ!なんでもないよ~!」

「お前達!また竜に余計な事を吹き込んだのか!!」

近寄りながら声を荒げると、問題児達は悲鳴に似た奇声を上げる。


「ママっ!おこらないの~!」
「怒っていない!」
「ヒミツはひみつだから!またこんど、おしえてあげるからね~?」
「今、白状しろ」
「んん~?」
「白状しないと、会議は開かないぞ!」
「んんん?」

勢い良く飛び付いてきた竜は、僕の発言の意味が分からないと言いたげに首を傾げる。その横から声を上げるのは興味津々な様子の問題児達だ。

「竜ちゃんママ!かいぎってなに!?」
「もしかして、竜ちゃんが言ってたやつ!?」

「…お前らは…立ち入り禁止にしようか」

「えー!!」
「えーっ!!」
「えー!!!」

竜も声を揃えて叫ぶから、賑やかさは増す一方だ。

「…お前を立ち入り禁止にしては意味がないだろう」

竜だけは特別だと囁いた途端、問題児達は竜の手を掴み、抜け駆けは駄目からとギャアギャア叫んだ。
必死な問題児達とは異なり、竜はニコニコして楽しそうだ。

笑顔に気を取られている間ではなかった。状況は変化してしまう。
 
「ママっ!チーちゃんとチャミナくんも、いっしょがいい!」
「いい!」
「いいー!」

「……」

強請らる前に対処すべきだった。竜の煌めく笑顔には敵わない。交換条件も引き出せないうちに、参加を認めると…頷いてしまった。






さん。

2020-10-30 | とある学園の話。会議編。



竜の願いを叶える為。それだけじゃなく、竜が何より大事なチャンミンの願いも叶える為に、俺も頑張る必要がある。チャンミンと手分けして、各組み合わせから了承を得ようとしている。


白狼と理事長は…特別枠にする必要があるかも知れないな…。他の皆と同じように…とはいかないだろう。別室での監視…なら納得してくれるだろうか。

他の組合せへの説明はそれ程に難しくないか?僅かでも離れたくないと…拒まれるか?どちらのパターンも有りそうだと思いながら、先ずは生徒会室を訪ねた。







「…え?みんなで話し合いをするんですか?」
「ああ。それぞれに分かれて、親睦を深めるのも良いと思って」

白狼は別枠として、理事長の次に力があると言えば、語弊があるか?それはさておき、厳しい風紀委員長に納得して貰う事が重要だ。

互いの相手と離れるなら、風紀が乱れる事はない。だから風紀委員長が怒り狂う状況には至らない筈。そうだとしても…予期せぬハプニングが起こる可能性がある。その時、一番…危険な存在は風紀委員長だ。今から納得させておくべきだと思っているが、難しい顔をされている。

もしも、生徒会長を借りるだけだ…なんてと言えば、怖ろしく威嚇されそうだから…緊張する。



「…俺は群れる気など微塵も無い」

予想通りに否定的な返事をされた。威圧感のある低い声にたじろぎそうになる。でも、簡単に引き下がれない。早く困惑する生徒会長を味方に付けるべきだと、急いで口を開いた。


「え?竜ちゃんがお話ししたいんですか?」
「ああ、そうなんだ。色々な勉強会も兼ねているような…」
「みんなで勉強するんですか?」
「ああ。情報交換をして…」

「それは何の勉強会だ。議題を述べて頂きたい」
「ユノお兄さん!怒らないで…」
「俺は怒ってなどいない…」

生徒会長の声掛けに、風紀委員長は険しさを若干、和らげる。でも、まだまだ駄目だ。ここでの出方次第で結果は変わる気がする。


「議題は…大切な相手への想いを語り合う!だ!!」

「…え?」
「…何?」

「いつも抱いている想いを…言葉にして他者に伝える。その事により、気付きや刺激や…その他諸々を感じ合う会に出来ればと思っているんだ」   

嘘を言っても仕方ない。そう判断したけど、反応はどちらに転がるか、緊張しながら様子を窺う。

頬を赤らめる生徒会長はどう返事をしようか、思案しているようにも見える。

「気負いせず、参加して貰えればこちらとしても嬉しい。良い機会だと思って…」

風紀委員長にギロリと睨まれ、言葉が詰まる。

「…戯言に付き合う気は…」
「ユノお兄さん!僕、勉強会に参加したい…!」
「チャンミン…?」
「…お願い、ユノお兄さん…」
「……」
 
こちらの猛獣も…大事な相手にはとことん弱い。興味を示してくれた生徒会長のお陰で、了承を得る事に成功出来た。







に。

2020-10-29 | とある学園の話。会議編。



竜の願いを叶える為に、先ずは招集を掛けなければいけない。その前段階として…一番の権力者を懐柔しろ。研究者の彼女からそう言われた僕は理事長室へと向かった。

立派な扉をノックして、暫し待つ。中々返事を貰えずに困惑していると、扉は開かれる。直ぐに視界に入るのは…理事量の秘書の顔だ。分かり易い顰め面で、何かしてしまっただろうかと更に困惑する。

「タイミング悪いですけど…何のご用でしょうか!」
「タイミング悪い…?」

戸惑っていると、理事長の声がする。

「…不躾な態度で申し訳無い。シム。そんな態度は失礼だろう」
「失礼だとしても!良いところを邪魔したんですからタイミング悪いでしょう!」

どうやら秘書は二人の時間を邪魔されたと怒っているようだ。理事長は苦笑いをしているだけで、秘書の態度を心底咎めているようには見えない。

…まあ、これはいつもの事だ。気を取り直して、用件を口にした。
   


「はあ?室長…じゃなくて、理事長と離れて会議に出席しろって?そんなのお断りです!」

不機嫌な秘書には即、拒否された。唖然としていると、理事長は対照的な穏やかな笑みを浮かべる。

「…面白ろそうだな…」
「全く面白くないですよ!」
「…そうか?」
「そうです!…僕は少しも離れたくないのに。そうせざるを得ない要求を呑めと言われても、頷ける訳ありません!」
「……」

これ程に拒まれるとは思わなかった。でも簡単に引き下がる気も無い。会議には特別な茶菓子が用意されて、堅苦しいものではない。日頃から抱えている相手への想いを言い合う場だと伝えれば、少しは納得してくれるかと期待した。

けれど、秘書は頑ななだ。僕が何かを言う度に、眉間に深く皺を刻み、威嚇している。

これでは埒が明かない。現状打破を期待して、ゆったりと構える理事長に視線を向けると低い声を返された。

「…その会議の様子は記録されるのか?」
「え?あ…はい。そう希望されるのなら対処します」

「なら、参加しろ、シム」
「え!?どうしてですか!?」
「…お前がどんな風に惚気るのか。この目で見てみたいと思ってな…」
「…え」

理事長がそう言うと、秘書の様子が明らかに変わる。困惑と動揺と…何か期待しているような顔をしている。

「…まさか、俺への想いは他者に対して口に出来ない程のものだとは…言わないよな?」
「あ、当たり前です!!室長…じゃなくて理事長への熱い想いは短い言葉では表現出来ない程!この胸へ渦巻いていますからね!!」
「なら、それを聞かせて貰おうか…」
「え…」
「…楽しみにしている」
「あ…あの…」
「と言う事で、その件は了承したからな」

「あ、ありがとうございます」

軽く下げた頭を上げ、視線を向けると、秘書はあからさまに不服そうな顔をしている。

でも、理事長の言い付けには逆らえないのだろう。渋々ながらも、最終的には納得して感化すると言質を貰えた。






いち。

2020-10-28 | とある学園の話。会議編。


「ねえ、ねえ、ユノ!」
「…どうした、チャンミン」

可愛い甘えた声を上げ、白狼に埋まる竜の様子を視界の端に見ながら朝食の用意をしている。ご機嫌な竜と多少、寝起きの悪さがあるらしく顰め面をする白狼が仲むつまじいのは良い事だ。そう思いながらも唇が尖るのは…一体、何が理由だろうか。

竜が羨ましい?それとも白狼が羨ましいのか?僕も同じように彼の胸元へ埋まりたい…だなんて、思っている訳じゃない。ブツブツ呟き言い聞かせる。

「チャンミン、おはよう。何から手伝おうか…」

そんな時に声を掛けてこられると、動揺するのは当たり前だ。しかも至近距離で囁くなんて有り得ない。僕は手にしたナイフを持ち上げ、ギロリと睨んでしまう。

「朝から物騒だな」
「う、煩い!」
「そんなに怒らないでくれ」
「さ、触るな!」

危険な行為でも彼にとっては慣れた事なのか。動じる様子もなく優しく微笑み、腰に手を回してくる。

「今朝は冷えるよな。少し暖まっても良いか?」
「良い訳ないだろ!!」
「まあ、そう言わずに…」

背後からくっつかれ、僕は顔を歪めて呻る。でも、突き放さないのは…温かさに心地良さを感じているから。何て事は認めたくない。抗議活動として低い声を洩らしていると、竜が元気な声を上げて飛び込んで来た。


「ママとママのダーリン!きょうもラブラブだね~!!」
「は、はあ?!何を言う!!」
「そうしてくっつくとあったかいもんね~!」
「それは…確かにそうかも知れないが…」
「もっっとくっついても良いけどね?おなかすいたから~!ごはん、わすれないでね!!!
「勿論だ!」

僕達の様子を確認して笑顔を弾けさせた竜はまた白狼の元へと駆けて行く。可愛さの余韻に浸っていると、更なる温かさに包まれた。

「もっとくっつけば良いと言われたよな…」
「っつ!!」

そう呟いた彼が首筋に唇を押し当てる。

何をするんだ!激しく動揺した僕は肩を思いきり跳ねさせて、何をすると叫び、彼の頬を叩いていた。





用意した朝食を味わっていると、ジャムを口の端に付けたまま、竜がいきなり叫ぶ。

「ねえ、ママとママのダーリン!おねがいがあるの!」
「お願い?何だ?それは…」
「あのね!みんなのおはなしをききたいの!」
「お話し?何の話だ?みんなとは…誰の事だ?」
「ん~とね!」

竜の説明は要領を得ず、分かり難い。首を傾げていると、彼が助け舟を出した。


「要するに…チャンミンと名を持つ者達と、その相手がそれぞれに集まり…互いに惚気合って欲しいと言う事か?」
「よく分かんないけど、きっとそう!!チーちゃんとチャミナくんがね?おべんきょうになるからって言ったからね~!」

またあの問題児達が…余計な事を吹き込んだのか…。
苛立ちを覚えても対処法はない。竜の懇願を拒絶する事は誰にも不可能だ。

直ぐさま、段取りが始まり…実行される運びとなった。













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リクエストありがとうございます!
(^o^)




22。

2020-10-12 | とある学園の話。憩いのカフェ編。


自分達の事で一杯になっていても、周りからの声は賑やかで…自然と耳に入ってくる。

どこの組み合わせも褒め言葉しか口にしていない。でも、それは大袈裟でなく、本当の事だ。どちらの嫁も料理の腕は間違いない。何処の旦那か分からないけれど、商品として提供出来る程だと言った。


「ああ、そうかもな。チャンミンの作ったこの煮物。ランチの一品にしても良いくらいだな」
「え?そうですか?」
「これ程美味い料理なら…評判になるだろうな…」

そう言った所でまた違う言葉が聞こえてくる。美味い料理を他の誰かに与えるのは勿体ない。全部、独り占めしたいと叫ぶ声に…俺も重なる部分がある。

「でも…確かに、そうかも知れないな」
「ん?ユノ様?どうかしました?」
「俺も…出来れば、独り占めしたい…か…」
「ユノ様?」

一人で呻る俺を見るチャンミンは首を傾げる。

「チャンミンはどう思う?」
「え?」
「…チャンミンは…この煮物を…」
「これはユノ様の為に作ったんです!ユノ様が美味しいって言ってくれたから、それだけで嬉しいです!!」
「そうか…。そうだよな」

チャンミンは満面に笑みを浮かべる。

「なら、チャンミンの愛情を…俺が独り占めしても良いか?」
「え?」
「…これは俺の我儘だろうか…」

一人で何を言っているのだろう。可笑しな事をしていると自嘲している俺に向けられるのは、チャンミンの愛らしい笑顔だ。


「僕の全部!ユノ様が遠慮なく独り占めして下さい!」
「……」
「僕の全部はユノ様のですからね~!」
「…チャンミン」

弾ける笑顔の余りの可愛さに言葉が出て来ない。不思議そうにまた首を傾げるチャンミンを引き寄せていると、咆哮が響く。

「あっつ!!風紀委員長さんが怒ってますます!!ユノ様っ!!」
「ここがどこだか忘れるのは…もう特技になっているな…」


怯えるチャンミンを引き寄せるのはセーフのようだ。

あちこちから悲鳴やら奇声やら歓声やらが交錯するここはいつもより沢山の幸せが漂っていた。









おしまい。