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一応、秘密の…ホミンのお話置き場です。

その6

2020-02-29 | Beauty and the beast




「んん…」

無意識に頬擦りした時、違和感を覚えた。何となく、目を開けると…異変に気付く。

「あれ…?」

僕は野獣ユノさんの背中に埋まっていた筈なのに、何故だろう。今は誰かの背中に寄り掛かり、眠っていたようだ。


「…ユノさん?」

声を掛けると、僅かに返事はある。身体を起こし、覗いてみると…シュッとした横顔が目に入る。

「…うわ。滅茶苦茶カッコいい人だな…。ん?でも、野獣ユノさんは何処へ行ったんだろう…」

辺りを見回してみたけど、それらしき姿はない。僕を置いて何処かに行くなんて、酷いじゃないか。プウッと頬を膨らませ、探しに行こうとした。でも、そのカッコいい人の手が僕の制服を握りしめている事に気付く。

無理に引っ張ると、起こしてしまいそうだ。気持ち良さそうに寝ているから、起こすのは気が引ける。よく見ると、僕の本を手にしているから、余計に離れられないと思った。


「…この人、野獣ユノさんの知り合いだろうか。なら、きっと悪い人じゃないよな…」 

そう決め付けた僕は、その人に寄り掛かってみる。

「…ん。何だか、不思議。よく眠れそう…」


言葉では説明できない安心感に包まれた僕は、警戒心なんて微塵も無く、また簡単に意識を遠ざけていた。







 
***

「あの、ユノさん」
「何だ?」
「お昼休みの時間。僕を置いて、何処へ行ってましたか?」
「…は?」
「あの人はお友達ですか?」
「何の事だ?」
「ユノさんが置いてった人の事です!」
「…?」

放課後。背中にしがみつくチャンミンから、そんな事を聞かれた。何を言ってるのか、分からない。俺はずっとチャンミンの隣にいた。でも、眠ってしまった時間もあった。その時に、俺の知らない何かが起きたって事だろうか。

「凄くカッコいい人でしたね!」
「…何?」
「何ていうか、横顔美人って言うんですか?ああ、正面から見ていないだけで…多分、前から見ても綺麗な人なんでしょうけど。どんなお知合いですか?」

誰の事を言っているのか、分からない。でも、チャンミンが興味を示すなら…放置できない気がしてくる。

「そ、その人が気になるのか?」
「気になるっていうか…カッコいいなって思ただけです。ユノさんのお知り合いなら、挨拶くらいした方が良いのかなって思うくらいで…」
「……」
「その人の肩にもたれ掛かった時。よく眠れそうだなって思ったんですよね!」
「……」

チャンミンの言葉、一つ一つに心がドクンと騒ぐ。

「あ!でも、一番はこの背中です!!」
「…え?」
「この背中の気持ち良さに叶うものはこの世に存在しないと思います!!」
「そ、そうか?」
「はい。回数を重ねるごとに…魅力に嵌ってますよ…」
「……」
「野獣ユノさんの背中は…僕にとって無くてはならない必需品です!」
「そ、そうか…」

ご機嫌な声が届くなら、それで良いのだろう。そう思った俺は安堵の溜息を付きながら。背中のチャンミンを落とさない事に意識を集中させていた。









その5

2020-02-29 | Beauty and the beast
  



「あの、野獣ユノさん!」
「な、何だ?」
「どうしていつも、そんなに警戒していますか?」
「…え?」
「誰かに追われているとか…?あ!もしかして、人に見つかっちゃ駄目な…スパイ活動でもしてますか?」
「な、何を言っている…」


昼休みに屋上で、今も俺の背中に埋まるチャンミンは、突飛な事を言う。

人目を避けるのは、余計な恐怖感を周りに与えない為。それと、向けられる好奇の目から、俺が逃れたいからだ。

チャンミンは愛読書に影響され、妄想が過多だ。この見た目を気にしないのはチャンミン位だ。そんな自覚は本人にないのだろう。

「スパイじゃないなら…何が理由ですか?」
「そ、それは…」
「あ!分かりました!!僕みたいな子が近寄ってこないようにしてくれているんですね!そうですよね。この背中を独占出来なくなると、僕は困りますものね!ありがとうございます!ユノさん!!」
「…いや」


勝手に繋がった解釈を否定しないのは…問題だろうか。でも、納得している様子を見れば、余計な事を言うのは止めようと思ってしまう。


「そういえば、ユノさんは知っていますか?この学園に居る、怖い風紀委員長の事」
「何だ?それは…」
「見た目も唸り声も兎に角、恐ろしい…猛獣が風紀を正しているらしいですよ」
「…そうなのか…」

聞いただけでは想像が出来ない。でも、俺より恐ろしい見た目の奴など、そうそういないだろうと思っていると、何処からか…獣の鳴き声が響く。


「あ!今の!ユノさんも聞こえましたか?」
「あ、ああ…」
「何処で鳴いたんでしょうかね。どんなに恐ろしいのか、見てみたいですよ!!」

興味を示すチャンミンを見て、俺は思った。

チャンミンの好みが恐ろしさを基準としているなら。その風紀委員長は…俺のライバルになり得るのか?だとすれば、対面したくない。   

チャンミンは…俺のだと…心のどこかで思ってしまう。


「…俺は見たくない」
「え?そうですか?」
「…誰とも対峙したくない」
「そうですか…」

残念そうに呟く様子が心にチクっと刺さる。俺の事は気にせず、探しに行けば良い。そんな心にもない事を口にしようとした時。チャンミンの明るい声が響く。


「風紀委員長に興味はありますけど、僕はユノさんの背中から離れたくないですからね!また今度にします!」
「…俺の背中は…逃げないぞ?」
「ユノさんは知らないでしょうけどね!ユノさんの背中には時間帯によって気持ち良さの種類に差があるんです!今の背中を堪能するのは、この時間帯しかないですからね!あ!ユノさん!今度は一日中、背中を堪能させてください!!」
「あ、ああ…」
「ありがとうございます!!」

チャンミンの執着心はかなり変わっている。そう思いながらも、悪い気はしない。頷くと返される笑顔に、心を掴まれていた。




「…チャンミン?そろそろ、教室に戻らねば…」
「……」
「チャンミン?」

声を掛けても返事がない。覗き込んでみると、穏やかな寝顔が見えた。


「…呑気に昼寝をするのは…問題だと思うが…」

起こすのも可哀そうな気がして、チャンミンの手から落ちた本を拾い上げ、そのままの体勢を維持した。


「転校したばかりで…授業をサボるとは…。俺一人では絶対にしないだろうな…」

そう呟いてみても、チャンミンの為なら、悪い事だと思わない。それ自体が問題だ…と、心の何処かで思いながら、手にした本を広げてみる。


「…小さな文字を眺めていると…眠くなる…」

背中の温かさに意識を運ばれ、俺も眠ってしまっていた。












その4

2020-02-28 | Beauty and the beast



「あの、ユノさん」
「…な、何だ?」
「少し休憩しますか?」
「……」
「この学園内に、素敵なカフェがあるみたいなんですけど!」
「…そうなのか?」
「はい。クラスメイトに聞きました。あ、でも、ユノさんは行きたくありませんか?」
「…まあ。出来るだけ、人の多い場所は避けたいような…」
「そうですよね!なら、このまま、早く帰りましょうか!」
「ああ」

俺が会話しているのは、背中に乗るチャンミンとだ。

一体、何がどうなって…同じ場所へ帰る事になったのだろうか。数日経ってはいるが…未だに謎は多い。

チャンミンと離れると、俺は人の姿を維持できる。でも、対面を果たしてしまうと何故だろう。呪われた姿になってしまい、人目を避けなければならない。

相変わらず、チャンミンは人でない姿を恐れない。それどころか、こちらの姿が気に入ったと…今日も背にしがみついてきた。

「あの野獣ユノさん。今日の晩ご飯、何が良いですか?」
「…チャンミンが作る物なら、何だって構わない」
「ユノさん!その答えじゃ駄目です!質問の答えになってません!」
「…そ、そうか?」
「もっと具体的に言って下さい!じゃないと、何を作れば良いか、悩みます!」
「…なら…」

同居を始めた日から、チャンミンは手料理を振る舞ってくれている。得意だと良い、家事も熟してくれる。慣れない1人暮らしで色々と困っていた俺は助かった。でも、負担が多いだろうと心配になり、チャンミンに負担だろうと何度も尋ねた。平気だと言い張るチャンミンに食い下がると、代わりに提案をされた。

「やっぱり、この広い背中!気持ち良いです!」
「…そうか」

チャンミンが望む時、俺の背中を貸す。そんな交換条件で納得するチャンミンは…やはり変わり者だろうと思っていた。






「なあ、チャンミン」
「何ですか、ユノさん」
「…チャンミンは…その…何者なのだ?」
「え?」
「…俺と同じように…何か、深い闇を抱えているのか?」
「え?」
「だから…謎が多くて…不思議なのか?」
「僕は何も抱えていませんよ?って、ユノさん!?ユノさんは闇を抱えていましたか!?」
「…あ? ああ…」


急にそんな事を言われて、僕は驚いた。ユノさんが闇を抱えているなら、僕に出来る事はないだろうか。そこが気になり、焦って問い掛けてもユノさんはハッキリとした返事をくれない。


「ユノさん!!詳しい事情を教えて下さい!」
「…それは…無理だ」
「どうしてですか!?」
「秘密を自ら口にすると…呪いは永遠に解けなくなる」
「え!ユノさん、呪いを掛けられていますか!?」
「あ…。今のは聞かなかった事にしてくれ」

ユノさんは只ならぬ事情を抱えている!そんな話を聞き、興奮してしまう僕は…おかしいのだろうか。

「あの、ユノさん」
「何だ?」
「僕は昔から…本を読むのが好きでした」
「…そうなのか?」
「はい。これまで沢山の本を読んできましたけど。一番、好きな話があります」
「そうか」
「その話は…呪いを掛けられた王子様と恋に落ちた子が…真実の愛に気付き、闇を打ち消し、幸せになるって話です」
「……」
「その話に出てくる野獣さんに…ユノさんはよく似ています」
「…そ、そうなのか?」
「はい!だから、僕…嬉しくて!」
「嬉しい?」
「昔見た夢の世界がこうして現実になった!そう思うだけで、心が跳ねて仕方がないです!」
「…そう…なのか」

僕が憧れていたのは見た目とは違う、優しいのに不器用な野獣さんだ。僕が今、しがみついている野獣ユノさんも…あの本の王子様のように、悪い呪いを掛けられているのだろうか。

だとしたら、呪いを解く為の相手が必要だ。心を通わせて…真実の愛を見つけ出し、悪者と戦い、勝利しなければ。

膨らむ想像を止めるのは、ユノさんの咳払いだ。


「あのな…チャンミン」
「野獣ユノさん!!僕はいずれ、呪いを解く事に協力します!けど!今はまだ、野獣ユノさんの背中を満喫したいので!秘密はそのままにしておきましょう!!」
「あ?  …ああ」

勝手な事を言う僕に、野獣ユノさんは戸惑った返事をくれた。







その3

2020-02-28 | Beauty and the beast


「…あのな」
「何ですか?」
「…チャンミンは…俺の姿が恐ろしくないのか?」


出会い頭に衝突してしまった事を悔い、申し訳無い気持ちで一杯だった。だから、望まれるまま、背負い歩いているが…気になる事が口から出てしまう。

聞いておいて、後悔した。この姿を恐れない人なんて、いないと分かっているのだから。

「恐ろしい?何がですか?」
「…醜く、得体の知れない野獣だぞ?何処を見ても…恐ろしいだろう」
「え?ユノさん、恐ろしい方ですか?」

反応が今一で、問い掛けの意味を理解していないのかと不安になる。顔を向け表情を窺うと、可憐な笑みを返された。

「ユノさんの瞳!!とても澄んでいて綺麗ですね!」
「…何だと?」
「僕の想像以上の美しさです!!ああ、心根の優しい方だから、こんなにも美しい瞳を持っているのでしょうね!」
「…何を…」

返される言葉が理解不能だ。一体、誰の事を言っているのだろうか。怪訝な顔をしてしまう。

「大きな背中もフカフカの胸元も!!その鋭い牙も、尖った角も!!どれも本当に素敵です!」
「……」
「だから、僕、もっとユノさんと仲良くしたいです!」
「…そ、そうなのか?」

チャンミンはかなり趣向が変わっているのだろうか。今までにない反応を返されて…俺は動揺して戸惑っていた。








「…この大きな背中…。凄く…気持ち良い…な…」

そんな独り言が聞こえたと思ったら、直ぐに寝息らしき音も聞こえ始める。
 
呑気に背中で眠る人なんて、この世にいるのか?疑いたいけど、信じられない事が連続して起きているのは間違いない。これを奇跡と呼ぶのだろうか。呆けながらも真っ直ぐに歩いていく。


昇降口まで辿り着き、少々、悩んだ。帰る方向が全く異なるなら、もう起こさなければならない。でも、心地よさそうな眠りを妨げる事に、心が痛む。

どうしようか。どうすれば良いのだろうか。じっくり考えたい気もする。けれど、視線が集まることは避けたい。チャンミンを背負っているから、人の姿に戻れそうにない。

だとすれば…答えは一つしか無いか。俺にしては早めに答えを出し、急いで昇降口を駆け抜けた。 









「…んん」

チャンミンをベッドへ降ろし、ホッと一息つく。目覚めたら、チャンミンを自宅へ送っていく。それまでは俺の住処で眠って貰おう。それが俺の出した答えだ。

一人では広すぎる屋敷だから…誰かを招き入れたかった。そんな想いがあったとは言わない。知らない人を招待する気なんて無かった。

でも、チャンミンなら。俺の姿を恐れない…変わった子なら、良いかも知れない。そんな判断を下してしまった。

それにぶつかってしまった負い目もある。もし、見えない部分で問題を生じさせているのなら、きちんといた対応を取りたいと思った。


穏やかな寝顔を見つめていると、言い訳のような考えが幾つも浮かんでくる。勝手に触れては駄目だろう。そう思っている筈なのに。何故だろう。人の姿に戻れた事に安堵感もあるのだろうか。俺は手を延し、額にかかる前髪をそっと払っていた。

不思議だ。まさか、こんな風に穏やかな気持ちを抱けるなんて、思ってなかった。

一人が寂しいとは思っていない。それでも、こうして誰かがいる事に…安堵感を覚えている。


「…このまま、ここで暮らして欲しいと言ったなら…」
どうにかなるなんて有り得ない。そう思った瞬間。

「はい、良いですよ」
俺とは違う声が響く。

「……」
「でも、お父さんに連絡だけしても良いですか?」
「え?」
「僕のお父さん、忙しいので。電話連絡だけで良いんですけど!」
「あ?」

ハッキリ聞こえた声は…チャンミンのか?一気に動揺が駆け抜け、人ではない姿へと変容してしまう。それと同時に目を見開いたチャンミンはニコリと微笑み、電話を貸せと言ってくる。言われるままに電話を差し出すと、チャンミンは操作する。


「あ、父さん?僕、今日からお友だちのお家にお世話になるから!うん、お友だちも一人暮らしで寂しいんだって!僕も一人で生活するなら、一緒の方が色々楽しいと思うから!え?うん。学校にはきちんと通うよ?うん、必要な物があればいつでも連絡為れば良いんでしょ?分かってる!父さん、お仕事頑張ってね!!」


終始、和やかに話していたチャンミンは電話を切ると、俺を見上げる。
「という事で、野獣ユノさん!!今日からお世話になります!」
「…あ、ああ」


何が起こったのか、よく理解出来ない。呆ける俺を置き去りにして、チャンミンはもう少しだけ眠りたいと言い、目蓋を閉じて俺の枕に顔を埋めてしまった。













その2

2020-02-27 | Beauty and the beast



「…あの大きな背中。心地良かったし…素敵だったな…」


廊下を歩きながら、僕は独り言を洩らした。

僕は少し変わっていると言われる。本ばかり読んで、空想が大好きで、現実を直視しないと言われる。

そんな事を言ったって…読書が好きなのだから仕方ない。転校するとなった時、馴染めるか不安もあったけど、最悪、本があれば良い。そんな風に思っていた。

でも、まさか…転校初日に運命的な出会いがあるとは思わなかった。本で読んだ世界の中じゃなくて、素敵な野獣さんは目の前にいた。人と関わるのは少し苦手。でも、あの大きな野獣さんとなら、もっと話をしてみたい。そう思った。


無我夢中でしがみついた後、野獣さんは丁寧にしゃがみ込んでくれた。名残惜しさを感じつつ、背中を離れた時に、もっと詳しく話をすれば良かった。友達になってとお願いして、了承して貰えたけど…それだけ。名前も聞いたけど、次に会える約束なんてしていない。

自分の手際の悪さを嘆き、思い切り項垂れてみた。

「っつ!」
「っつ?」


その瞬間。額に激痛が走る。運悪く、何かと激突してしまった。出会い頭の衝突事故に驚きながら、慌てて謝ろうとした。

「ご!ごめんなさい!!」
「…っ」
「あ!!貴方は!!」

これは運悪く…じゃなくて、幸運だった。目の前には会いたいと願っていた大きな身体の野獣さんが僕を見て、固まっているじゃないか!


「あ、あの!!」
「ぶつかってしまい、申し訳無い…」
「いえ!僕の前方不注意でした!ごめんなさい!!」

先に謝られ、慌てて僕も謝った。額はジンジンするけど、大した痛みじゃない。それより早く話をしなければ!急く気持ちが邪魔をして、言葉が詰まって出て来ない。

何か言いたい!
でも、何を言えば良いのか分からない。互いに硬直し、沈黙が流れていると、背後から何かが迫る気配がした


「あ?」
「ん?」

視線を向けたその先にいるのは…立派なライオンと…白衣を着た誰か?

何をしているのだろう。唖然として、見つめていると、ライオンは物凄い勢いで廊下を駆け抜けていった。

何が何だか、分からないけど…僕は思った。猛獣の背に乗るなんて…羨ましい。あの白衣の人は、他に何も身に付けて居なかったように見えたけど、気のせいだろうか。羨望と冷静さと動揺とが入り混じり、僕は思ってもみない行動を取っていたようだ。


「…あの」
「あ!」

気が付けば、僕は野獣ユノさんの胸元へしがみつき、大胆にも埋まっているじゃないか! 

背中も気持ちよかったけど、胸元も中々のものだ。って、そんな事を思っている場合じゃない。早く離れて謝らなければ!そう思うのに、口から出た言葉は何故か、違う事だ。


「お、お願いがあります!」
「…何だ?」
「また負ぶって頂けませんか!」
「…え?」

しがみついたままで訴えると、野獣ユノさんはハッとしたように呟く。

「…もしかして、気分が悪いのか?」

さっき衝突したせいかと聞かれ、違うと言わない僕は狡いのだろうか。答えを濁していると、野獣ユノさんは身を屈め、背を向けてくれる。

「ありがとうございます!!」
遠慮無く大きな背中に飛び付いた僕は、勝手にニマニマしていた。