「んん…」
無意識に頬擦りした時、違和感を覚えた。何となく、目を開けると…異変に気付く。
「あれ…?」
僕は野獣ユノさんの背中に埋まっていた筈なのに、何故だろう。今は誰かの背中に寄り掛かり、眠っていたようだ。
「…ユノさん?」
声を掛けると、僅かに返事はある。身体を起こし、覗いてみると…シュッとした横顔が目に入る。
「…うわ。滅茶苦茶カッコいい人だな…。ん?でも、野獣ユノさんは何処へ行ったんだろう…」
辺りを見回してみたけど、それらしき姿はない。僕を置いて何処かに行くなんて、酷いじゃないか。プウッと頬を膨らませ、探しに行こうとした。でも、そのカッコいい人の手が僕の制服を握りしめている事に気付く。
無理に引っ張ると、起こしてしまいそうだ。気持ち良さそうに寝ているから、起こすのは気が引ける。よく見ると、僕の本を手にしているから、余計に離れられないと思った。
「…この人、野獣ユノさんの知り合いだろうか。なら、きっと悪い人じゃないよな…」
そう決め付けた僕は、その人に寄り掛かってみる。
「…ん。何だか、不思議。よく眠れそう…」
言葉では説明できない安心感に包まれた僕は、警戒心なんて微塵も無く、また簡単に意識を遠ざけていた。
***
「あの、ユノさん」
「何だ?」
「お昼休みの時間。僕を置いて、何処へ行ってましたか?」
「…は?」
「あの人はお友達ですか?」
「何の事だ?」
「ユノさんが置いてった人の事です!」
「…?」
放課後。背中にしがみつくチャンミンから、そんな事を聞かれた。何を言ってるのか、分からない。俺はずっとチャンミンの隣にいた。でも、眠ってしまった時間もあった。その時に、俺の知らない何かが起きたって事だろうか。
「凄くカッコいい人でしたね!」
「…何?」
「何ていうか、横顔美人って言うんですか?ああ、正面から見ていないだけで…多分、前から見ても綺麗な人なんでしょうけど。どんなお知合いですか?」
誰の事を言っているのか、分からない。でも、チャンミンが興味を示すなら…放置できない気がしてくる。
「そ、その人が気になるのか?」
「気になるっていうか…カッコいいなって思ただけです。ユノさんのお知り合いなら、挨拶くらいした方が良いのかなって思うくらいで…」
「……」
「その人の肩にもたれ掛かった時。よく眠れそうだなって思ったんですよね!」
「……」
チャンミンの言葉、一つ一つに心がドクンと騒ぐ。
「あ!でも、一番はこの背中です!!」
「…え?」
「この背中の気持ち良さに叶うものはこの世に存在しないと思います!!」
「そ、そうか?」
「はい。回数を重ねるごとに…魅力に嵌ってますよ…」
「……」
「野獣ユノさんの背中は…僕にとって無くてはならない必需品です!」
「そ、そうか…」
ご機嫌な声が届くなら、それで良いのだろう。そう思った俺は安堵の溜息を付きながら。背中のチャンミンを落とさない事に意識を集中させていた。