「ユノ~っ!!」
辺りに大きな叫び声が響く。徐に身体を起こし、いつもの体勢を取る。
勢い良く駆けて来たチャンミンは何かを手にしている。そのまま突撃されると…中身が散乱するんじゃないか。不意に浮かんだ予想図は直ぐに現実となった。
「うわあっ!!」
力加減を間違えた事に、後になって気付くのはよくある事だ。中身をぶちまけて唖然とするチャンミンは慌てて俺を見上げた。
「どうしよう!ユノ!!はちみつ、こぼれちゃった!!」
「…ああ、そうだな。ベタベタだ…」
「ママが分けてくれたのに!!」
「…蜂蜜か?また厄介な物を…」
チャンミンの身体だけでなく、俺の毛にも蜜はベッタリと貼り付いている。他の誰かなら…消してしまう理由になる。
けれど、チャンミンは別だ。眉を下げ、チャンミンが項垂れるなら…そのままにしておく選択肢は無い。
「…ユノと…おいしいはちみつ…ペロペロしたかったのに…」
唇をへの自に曲げるチャンミンを引き寄せ、そっと囁きかける。
「…してしまった事を悔いても仕方ない。そんな顔をするな」
「…でも…」
「…このままでも味わう事は出来るからな」
「え?そうなの?」
「…こちらの姿では舐め難いか。少し待て…」
人の姿に変わり、チャンミンを引き寄せて、先ずは頬に飛んだ蜂蜜を舐め取ってやった。
「っ…ユノ!くすぐったい!」
「…こうすれば、甘さを味わえる。チャンミンも同じようにしてみろ…」
「う、うん!わかった!!」
返事をしたチャンミンは意を決したような顔をして、俺の胸元へ顔を寄せる。
「んん…っ」
羞恥心より食欲が勝るのか。チャンミンは案外、大胆に舌を這わせてくれる
「んん!!ユノ、おいしい!!」
「…そうか」
「もっとペロペロしてもいい?」
「…ああ。好きなだけ舐めろ」
表情を緩ませたチャンミンは遠慮無く肌を舐め上げていく。一心不乱に吸い付くチャンミンを見守っていると、後方から何やら視線を感じた。
覗き見するのは不躾だろう。目で忠告をしてやる。それに気付いたのだろうう。チャンミンが母と慕う人物は隣の奴の手を掴み、その場から居なくなった。
「…今度は俺の番だ」
「あっ!」
恍惚とするチャンミンを引き剥がし、今度は俺が舌を這わす。
「ユ、ユノ!!くすぐったい!!」
「…チャンミン、そんなに逃げるな」」
「だ、だって…っ!」
身を捩り、抵抗するチャンミンは可愛い声を漏らす。少しだけ、手加減しながらも…離す気はない。あちこちに唇を押し当て、肌の柔らかさを堪能していると、チャンミンは一際大きく仰け反った。
「も、もうだめ!!」
「…まだ綺麗になっていないだろう」
「それでもだめなの!!」
チャンミンは頬を膨らませ、それまでより強めの抗議をする。
「…でも」
「のこりのはちみつで…もっといいことしたいの!!」
「…何?」
俺の想像した良い事と、チャンミンが言う良い事には隔たりがある。
何かを思い出したチャンミンがさっきの奴らの元へ駆けて行ったせいか、悲鳴と破裂音が響く。
それから暫くして、違う食べ物を手にして戻って来たチャンミンは俺の膝を占領し、蜂蜜を垂らしたデザートを口まで運ばれ、ご満悦だ。
「…これを食べ終わったら、湯浴みだからな」
「うん!!いいよ~!」
無邪気に返事をしたチャンミンは、俺の自制心を擽るように、小さな声で囁く。
「ユノの好きなとこまで、ぺろぺろしていいからね~」
意味深な笑みを浮かべるチャンミンは、まだ残る蜂蜜と俺の肌にも吸い付いていた。
おしまい。
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