「良いか!!絶対に何処へも行くなよ!!勝手に竜を攫ったら地の果てでも追いかけて行くからなっ!」
「ああーん!」
遂に我慢が限界に達したのか。顔を歪めるチャンミンが叫んだ。すると子虎が目を覚まし、泣き始める。
慌てて子虎をあやすチャンミンの焦り具合は微笑ましい。何て呑気に構えている場合ではない。チャンミンの怒りを多少は考えて欲しい。保護者に懇願しようとしたが、その必要はないらしい。直ぐに低い声が返された。
「……何処へも行かないから騒ぐな」
「そうだよ、ママ?これからおひるねのじかんだからね!しずかに~!だからね~」
「……っ」
「良かったな、チャンミン」
珍しく保護者が優しい。それは保護者にも予想外の貴重な今の状況が影響しているのかも知れない。そんな風に思うけれど、敢えて口にしないでおこう。
チャンミンの謝罪を受け入れ、泣き止んでくれた子虎はスヤスヤと穏やかに眠っている。そこには安堵しても心配事はある。心が休まらず、忙しいチャンミンは竜達を凝視し続けている。
やはり何処か呑気な俺はチャンミンとの距離を詰め、更に肩へ手を延ばし、引き寄せてみた。
ギロリと睨まれても平気だ。幸せを感じて微笑みを浮かべると、チャンミンの耳が赤くなる。
「ユノ…。ママとママのダーリン…なかよしだね~」
「……」
「…白とらちゃんをだっこするママ…ステキだね~」
「……」
保護者に抱き着いたまま、竜は似たような事を呟く。温和な表情を見せる竜の頭を撫でる保護者は返事をしないが…拒否反応を示している訳ではないようだ。
保護者に埋まる竜が更に呟く。
「…ぼくも… ママに… なろうかな…」
今のは聞き間違いか?視線を上げ、竜を見つめる。
視界に入るチャンミンにも聞こえたのか。目を見開き、開けた口を閉じられないようだ。
「…ぼくも…ママみたいに…なりたいな… …ユノといっしょに…ママみたいに…なかよしして…」
竜の呟きは次第に小さくなり、欠伸が伴う。
誰よりも反応を示すと思ったが、保護者は何も言わない。変わらずに往復する手のひらの動きに笑う竜は、目蓋を閉じ、寝息を立て始めた。
隣を見ると、チャンミンは唇を噛み、難しい顔をしている。問題発言を聞き流せない。しかし、寝てしまった竜を起こす訳にいかないと、小さく唸るだけだ。
心配しなくても良い。そう言いたくて顔を近付けると、打たれる事はなかったが…代わりに鼻先を囓られてしまった。