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一応、秘密の…ホミンのお話置き場です。

今日は何のひ。

2019-11-22 | 財団の話。




「なあ、チャンミン。この書類だけど…」

「……」

「ん?何をそんなに真剣な顔をして見ているんだ?」

「静かにしろ!今、大事な所だ!」



監視用モニターに映るのは、屋上での光景。竜といつも連んでいる子達の様子だ。

ニコニコしながら、寄り添い…今日はどんな会話をしてるのだろうか。チャンミンの後ろから観察してみる。





『ぼくとダーリンは良いふうふだし~!』
『ぼくとユノもいいふうふだよ~!』
『ぼくとユノだって!そのうち、いいふうふになるもんね!!』

きらきら光る笑顔と共に夫婦というキーワードが繰り返されるのは、今日が良い夫婦の日だからなのか。そう言えば、前にもそんなやり取りをしていたような…。考えている間にも会話は続いていく。







『ぼくとダーリンは~ パパとママにまけない、いいふうふになるもんね~!』
『ぼくとユノも…パパとママよりラブラブになるもんね!!』


養護教員の子息と、可愛い兄弟の弟はお互いに目標やお手本とする両親の仲の良さを自慢し合っている。興味津々な眼差しを向ける竜はどんな言い方をするのか。気になるから目が離せない。





『ん~と。ぼくもママとママのダーリンにまけない…』


同じ台詞を口にした竜は監視カメラの位置を把握しているように顔を上げ、満面に笑みを浮かべる。


『やっぱり、ぼく、ママとママのダーリンとおんなじくらい!いいふうふになるもんね~!!』

『おんなじ?』
『かたなくていいの?』

『いいの!!』


竜の発言を聞き、他の二人は不思議だと首を傾げる。竜の気遣いをチャンミンはどう思うのか。聞いてみたいと思うからか、身体が勝手な動きをした。



「なあ、チャンミン」
「な、何だ」


後ろから手を回し、そっと抱き締めてみる。肩が跳ねたけれど抵抗はない。だからもう少しと、耳元で囁いてみた。



「あの子達の両親に負けないくらいに…俺達も仲良くしないか?」
「は、はあ?」
「いきなりそれは…ハードルが高いか…」
「何を言っている…」
「今は熟練夫婦には及ばなくても…成長の余地は俺達の方があるよな!」
「訳の分からない事を言うな!」


竜が気を遣わなくて良いように。遠慮なく、目標となり手本となれるような睦み合いを見せよう。そう言いながら唇を首筋に押し当てると、可愛い声を聞かせてくれたチャンミンから、頬へと容赦ない痛みを貰った。

















おしまい。







今日は何の日。天使の日。

2019-10-04 | 財団の話。
 

 




「ママ-!!」

 

今日も竜の雄叫びが響き渡る。瞬時に身構え、突撃に備えてみるが…やはりと言うか、竜は想像以上の現れ方をする。

 

「うわっ!」
「ママ!ママ!!」
「何処から入って来たんだ!いつも言っているだろう!窓からじゃなく、玄関から帰って来いと!」
「あのね!ぼくね!!」
 

キッチンの小さな窓から飛び込んで来た竜は背中にしがみつき、喚く。

 

「おやつなら、直ぐに出来る。そんなに慌てるな」
「ぼくね!チャミナくんとユノくんみたいに、てんしになりたい!!」
「はあ?」
「まっしろなはねと、ふわふわのふく!!どこにあるの!?」
「急に何を言い出すんだ…」
「ママ!!」


興奮気味の竜の話は理解出来ない。必死に押さえ付けていると、違う方向から彼の声がする。

 

 

「今、手配しているからな。少しだけ、待ってくれ」
「まてない!!」
「そんな事を言わずに。おやつを食べなから待ってくれ」
「んもう!ちょっとだけだからね!!」
「ああ、助かる」

 

彼は竜の要求を理解しているようだ。訳も分からないまま、おやつを仕上げろと言われる。不本意ながら彼に従い、竜を一旦、大人しくさせる事に成功した。

 






 

 

「はあ?天使のコスプレ?」
「ああ。そうみたいだ」

 
彼の説明を聞き、僕は呆れた声を上げる。


また問題児の発言に竜が多大な影響を受け、同じようにしたいと言い出した光景は容易く目に浮かぶ。


 

「何でも今日は天使の日らしい」
「だからって、天使のコスプレをして楽しむ日じゃないだろ!」
「でも、あの子達の家では恒例行事らしい」
「……」
「まあ、直ぐに衣装や小道具一式が届くからな。チャンミンも一緒に楽しんでくれ」
「…はあ?」
「ああ、これも竜のリクエストだからな?勿論、俺も嬉しいが…」
「何を一緒に楽しむんだ」


彼を睨み返していると、空の皿を手にした竜が駆け戻ってくる。

 



「ママ!どーなっつ、おかわり!!」
「なあ、チャンミンにも変身して貰いたいんだよな?」
「そうそう!ママはきれいなメガミさまだから!!」

「はあ!?」

「チャミナくんのママもきれいなメガミさまみたいだけど…ぼくのママもまけないもんね!!」

「因みに、俺は悪魔になるらしい」

「…全く、意味が分からない」

 

ハロウィンにはまだ早い。それなのに、仮装を要求されてしまい…拒否をした。けれど、いつものように突き放しきれなかった。




「ママ~!みてみて!ぼく、てんし!」

 

届けられた衣装を纏い、真っ白な翼を背負い天使になった竜は予想以上に可愛い。

それは良しとするが…ヒラヒラとした衣を着せられた僕は、笑顔になれない。恥ずかしさを誤魔化す為に、脹れ面をする他ない。


「ユノにみてもらおー!」

そう叫ぶ竜は翼をはためかせて駆けていく。


「チャンミン、見てくれ」
「……な」


仮装した彼が現れると、言葉を失う。

何というか…余りにも似合っていて、正直…見とれた。でも、それを悟らる訳にいかない。

表情を緩ませる彼に八つ当たりをしながら、内心では…それなりに楽しんでいた。

 

 







 

 

おしまい。

 

 


28

2019-04-18 | 財団の話。




「おっにく!おっにくっ!ママ、おにくっ!!!」

創作鼻歌を奏でる竜は、リズムに乗り元気に飛び跳ねる。  

いつもの調子を取り戻した事は素直に嬉しい。俺よりチャンミンの方が強く思うのだろう。身体を起こし、竜を連れて部屋を出て行ってしまった。



直ぐに追い掛ける気にならなかったのは…多少の心残りを解消したいと思うからだ。

自分の意思に従ったつもりでも、先延ばしになった事への不満さはある。でも直ぐに消し去れるだろう。心地の良いマットに沈み、天井を見つめ…大きく吸い込んだ息を吐き出していると、誰かの気配がした。


徐に視線を上げると、保護者の姿が目に入る。余計な事だと思いながらも、昨夜の配慮に感謝したくて、礼を言ってみた。


「…流石に、あんないじらしさを見せられると…何も出来ないよな」


苦笑いでこう言うと、保護者は相変わらず、抑揚のない声で呟く。

「…抜け駆けは…許さないからな…」

尖る視線付きで耳を疑うような言葉を投げ付けてきた。


「…まさか、お前…」

竜の為ではなく、自分の想いを優先させただけなのか?驚きながら問い掛けようとして、感じた殺気で声を詰まらせる。


「…い、いや。何でもない。取り敢えず、まだ暫くは…お互いに我慢手事だな」


苦笑いで誤魔化すと、保護者は踵を返し、行ってしまった。






俺達は更なる任務を押し付けられた。竜と保護者の世話は引き続き行うのは予想出来た。でもそこに雪豹夫婦の世話も加わった。

無事に上手く繋がれて、良かったと思いながら…消した筈の心残りが燻る。

しかも、雪豹夫婦が既に懐妊したと聞き、驚きと共に悔しさが込み上がったのは…内緒の話だ。




「ぼく、れんしゅうする!ママといっしょに、ユキヒョウお兄ちゃんのおせわする!!」


やる気満々なのは竜だけじゃない。念願叶うと、鼻息荒い研究員の彼女に逆らえない。

巻き込まれた事に憤るチャンミンの機嫌を取ろうとして、勝手に身体が動き…ビンタを食らう。

賑やかな時間はまだまだ続いていく事を認めたくないと言いながら、チャンミンは何処か嬉しそうだ。だから俺も楽しみだと、口元を緩ませるしか出来なかった。











とりあえず、終わり。





27

2019-04-17 | 財団の話。




「…んん」


チャンミンの唸り声が聞こえる。

勝手に抱き締めているから寝苦しい。目覚めたチャンミンはそう言い、俺を責めるだろうか。

先に目覚めた俺は、そんな想像をしながら、静かな時間を楽しんでいる。


もう、朝と言える時間だろう。いつもなら、朝食の用意だと言い始める頃か。竜はいつ帰って来るのだろう。チャンミンの前髪を指先に絡めながら、そんな事を考えていると、何処からか風が入り込む感覚がした。

頭だけを起こし、視線を向けると、ドアに隙間があった。もしかしてと声を掛ければ、予想通りに竜が顔を覗ける。いつもなら、遠慮無く突撃してくる竜は、何故か申し訳なさそうに様子を窺っている。


「どうした?入って来ないのか?」
「…だって…ママとママのダーリン…くっついてるんでしょ?」


返された言葉が予想外で、思わず吹き出してしまいそうだ。でも、グッと堪える。竜は真剣に気を遣っているんだ。笑うべきじゃない。

深呼吸を繰り返してから、まだ繋がって居ないと正直に告げた。その途端、竜は血相を変えて飛び込んで来た。




「どうして!?ママ、すなおになれなかったの!?」

竜は驚きと戸惑いを露わにして、詰め寄ってくる。

「いいや、素直になってくれた」
「なら、どうして!?」

焦る竜を落ち着かせるように、穏やかな口調で答える。


「繋がるのはもう少し先で良いと言ったんだ」
「え?」
「俺だけじゃない。チャンミンも同じ想いだ」
「……」

竜は困惑して動かなくなる。本音を知ったからだと言えば、竜は自分を責めるだろう。それは望まない。だから、それらしい理由を口にする。



「俺もチャンミンも…もう少し、練習してからにしようと思ったんだ」
「…れんしゅう?」
「ああ」
「それって…なに?」
「俺達が良い親になれるように…。子育ての経験を積んでから、その時を迎えたいと思ったんだ」
「……」
「悪いが…これからも付き合ってくれるか?」
「え?」
「チャンミンはもっともっと理解ある母親になりたいらしい」
「…ママは…もう…良いママだよ…」

竜は寂しげな顔をして、視線を落としてしまった。いじらしさに胸を打たれる。まだ眠るチャンミンの気持ちを代弁したくて、勝手な説明を止められない。


「確かに良いママだと思う。でもな、チャンミンはまだまだ満足していないんだ。だから、もっともっと甘えて欲しいと言っていた」
「え…」
「だから、遠慮なく抱き着けば良い」


腕を緩め、隙間を空けてみせると、竜は俺を見上げてくる。


「ママにあまえても良いの?」
「ああ」
「ママにギュッとしても良いの?」
「ああ」

何度も頷き答えると、竜は漸くチャンミンへと視線を向ける。

「…でも…ママは…」


まだ何かを躊躇う竜が呟いた時。チャンミンの手が動き、竜の身体を抱き寄せた。


「うわっ!」
「…遠慮なんて…し慣れない事をするな…」
「ママ…?」

いつから起きていたのだろうか。チャンミンは竜を胸元へ押し込め、小声で呟く。


「…お前も…練習が必要だろう」
「え?」
「…だから…良い兄になれる自信がつくまで…暫くこのままで居ろ…」
「このままで…?」


聞き返す竜に、チャンミンは叫んだ。

遠慮せず、甘えたいだけ甘えろ。心配は不要だ。既に我が子だと思っていると知らせるように…なのか、容赦ない口調も混じらせながら、竜に言い聞かせる。


「良いか?お前と僕の間には遠慮は要らないからな!」


チャンミンがはっきり言い切ると、いつもの笑顔を煌めかせた竜は、肉が食べたいと大絶叫していた。












26

2019-04-17 | 財団の話。
 


竜が泣けば、世界が泣く。それを知らせるように、こちらでも雷鳴が轟いた。

竜は泣きじゃくりながら叫んでいた。そこには多少の誤解や知識不足と言ったものもあった。でも、一番に伝わってきたのは…チャンミンへの思慕だ。繋がる事と懐妊は同等の意味じゃない。そこを説明し、納得して欲しいとも思った。けれど、竜は保護者の言葉に耳を貸さないで自分を責める。

誰も竜の想いを責めない。そう囁く保護者に同感だ。俺の言葉も竜に届けて欲しい。強く願えば、届くのか。心配そうに鳴いていた子虎は這い上がり、竜の頬を舐める。子虎に負けないように、保護者も涙を拭うから…竜は次第に泣き止む。


「…ぼくは…ママが…だいすき…」

微かに聞こえた竜の呟きの後、映し出されていた光景は見えなくなった。





雷鳴と共に聞こえていた雨風の音は消えている。竜は泣き止んだ。そう思えると、安堵感が広がる。それと同時に蹲っているチャンミンに気付いた。


「…チャンミン?」

手を延し、声を掛けるとそこでまた気付く。チャンミンも竜と同じように号泣している。竜から示された想いが嬉しい。そして、気付いてやれなかった事を悔しがっている。


「母親失格だ…」

心の底から吐き出される呟きを聞けば、苦笑いしたくなった。強引に腰に手を差し込み、チャンミンを抱え上げる。


「な、何をする!!」
「…何もしない」

「…み、見るな…っ!」
「それは難しいな…」


チャンミンは顔を逸らし、つれない事を言う。



「弟が欲しいと言い出したのは竜だよな…?」
「……」
「言い出した時には…感じていなくても…いつからか覚えた寂しさを隠していたんだろうか…」
「……」
「さっきの言い方だと…俺とチャンミンが一度でも繋がれば、子宝に恵まれるって事だろうか」
「……」
「そんな事は無いかも知れないし…そうなったとしても竜への態度に変化が生じるとは思えないよな?」
「……」
「そうだとしても…。もう少し先でも良いと俺は思う。チャンミンはどう思う?」


独り言のような呟きを繰り返しながら、チャンミンに問い掛けてみた。

勿論、名残惜しさはある。触れ合いたいと訴える本能も否定したくない。複雑さを抱えていても、それをどうにかしたいとは思えない。

チャンミンを引き寄せ、首元へ顔を埋めると、絞り出したような声が返される。


「…残念だが…仕方ない」


残念と聞こえた瞬間。身体が反応した。嬉しさに負けチャンミンに吸い付くと、ビンタを食らった。驚く俺が目にしたのは悔しがるチャンミンの顔だ。


苦笑いをして、唸るチャンミンを抱えたまま寝転がる。離せと言われ、無理だと答えた。

いつもと同じようで、いつもとは違う。俺達は意味のある時間を過ごした。