「…っとに、何だったんだろう」
ユノ君を教室まで送り届けてから猛ダッシュした。授業が始まるギリギリに戻れたけど、走ったせいで割増された嫌な焦りは中々消えてくれなかった。
何だか、食べた気がしない。ゆっくりと過ごすばかりだった…今までとは違う時間を過ごした結果、授業に集中出来ないで、色々な事を考えてしまう。
ユノ君の方が早く終わる。僕が自由になるのは掃除してからだし…放課後に会えないと言うべきだったか?待たせるとは言わなかった。でも、迎えに行かないと…ユノ君は悲しむだろう。
きらきら光る笑顔を曇らせなくない。でも、僕は今まで通りに過ごしたいんだ。
ぐるぐる考えている間に、授業は終わっていた。
早く行かないと…って、思っている訳じゃない。でも、交わしてしまった約束を守ならいと…人として終わる。そんな風に思うから?何だか、忙しなく動いてしまう。
それでも掃除を放棄したくない。いつも通り、真剣に掃き掃除をしていると…いつもはしない明るい声が響いた。
「ユノ君!」
「ここに花嫁さんが居るわよ!」
「親切な方々!感謝申し上げる!チャンミン!待ちきれなくて会いに来た!」
「ユ、ユノ君!」
昼間に来た生徒を引き連れて、ユノ君が現れる。
「チャンミンは何をしているのだ?」
「お掃除みたいね」
「花嫁修業とか?」
「母上も掃除が大好きだ!ボクも手伝うぞ!」
「ちょっと、ユノ君!?」
元気に飛び込んで来るユノ君に、周りからの視線が集まる。だけど、見知らぬ生徒達が人払いをしたから…。何故か、教室内には僕とユノ君だけになった。
「チャンミン、ここを拭けば良いのか?」
「ユノ君は掃除しなくて良いって!」
「そんな事は言わないでくれ!ボクも手伝いたいのだ!」
チャンミンは何もするなと繰り返す。だけど、ボクは引き下がれない。ジッとなんてしていられなくて、チャンミンの傍に駆け寄る。
「チャンミンは綺麗好きなのだな!」
「そんな事ないから」
「ならば、人の役に立つのが好きなのか?」
「それも違う。ただ僕は…与えられた役割をきっちり果たしたいだけで…」
「チャンミンが与えられた役割なら、ボクも担うぞ!」
「だから、ユノ君は関係ないでしょ!」
「何を言う!チャンミンの伴侶としてその位の責任は負うぞ?」
「ユノ君!!ふざけないで!」
ボクはいつだって本気だ。ふざけてなどいない。そう言ってもチャンミンは、納得してくれないようだ。
気にせずにいても良いのか、もっと真摯に訴える方が良いのか。どちらが適切な対応なのか分からず、黙っていると…それまでプリプリしていたチャンミンが少し優しい口調で言葉をかけてくれる。
「急に黙られると… 気になるんだけど」
「気にしてくれるのか!」
「どうしたのかなって、思うだけ!」
「チャンミンに想われて、ボクは嬉しいぞ!」
「想ってないし!」
チャンミンからの告白に、ニマニマしていると…ガラガラと音がして、扉が開いた。
「ユノ様、お迎えに上がりました」
「あ!爺や!」
聞き慣れた声にハッとして、振り向く。
「爺や!ボクが見つけた花嫁のチャンミンだ!」
「ちょっと、ユノ君!」
「おお、貴方様が!ユノ様のお相手でございますか。なるほど。血は争えないものでございますな…」
嬉しげに目を細める爺やに駆け寄り、ボクは得意気に報告をした。
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