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一応、秘密の…ホミンのお話置き場です。

Christmas 54

2018-12-25 | 財団関係者 クリスマス




「…ん」


違和感に襲われ、目を開ける。視界に入る光景に、一瞬、戸惑う。

僕はサンタの橇に乗っていた筈だ。なのに、ここは部屋の中。暗闇でクリスマスツリーの電飾だけが点滅している…リビングだ。

なら、今までのは夢か?ハッとして、立ち上がろうとする。


「…チャンミン?」


僕の身体に巻き付いていた彼の腕が動きを遮る。


「子虎は…」
「帰っただろ」
「だって、今のは…夢だろ!?」
「……」


認めたくなくて、彼の腕を振り払い、辺りを見回す。


「チャンミン」


彼は首を振り、僕を強く引き寄せた。



「…竜が起きる。静かに朝を待とう」

「…もう…子虎に会えないのか…」

「そんな事はないだろう。大丈夫だ」

「…何を…根拠に…」


覚悟していても、辛いものは辛い。あっと言う間に訪れてしまった子虎との別れを受け止めたくなくて、僕は涙を止められなかった。









涙を落とすチャンミンを抱き寄せ、背中をさすり続けた。

その間ずっと、大丈夫だと繰り返した。


根拠は…と、問われても答えはない。いや、違うか。竜も同じ事言葉を繰り返していた。だから、俺は何も疑わなかった。







泣き疲れたチャンミンを抱き締めたまま、知らぬ間に朝を迎える。浅い部分を彷徨っていた意識を引き戻したのは、竜の叫び声だ。



「ママ!みてー!!」

ドタドタと足音を響かせて、竜が突撃してくる。

「…なんだ?」
「これ!!」
「…あ」

竜が差し出す小さなものは…子虎かと思った。けど、よく見るとそれは違う。子虎によく似た…白虎の縫いぐるみだ。



「これは…」
「サンタのユノとまっ白トナカイがくれたの!くりすますぷれぜんとだって!」
「…そうなのか?」
「白とらちゃんみたいで、かわいいでしょ!」
「…ああ」


縫いぐるみは動かない。子虎の可愛い仕草を思い出すのか、腫れた目に、チャンミンはまた涙を浮かべる。



「…だいじょうぶだよ、ママ」

優しく微笑む竜が穏やかに囁いたのと同時に、電話がけたたましく鳴り響いた。












「は?何だって?」


受話器を手にした彼は、突飛な声を上げる。こんな時間帯から連絡してくるのは…財団関係者しかいない。

緊急事態に付き合わされるのだろうか。それなら…彼に頼もう。こんな顔をして、外出は出来ない。したくない。

竜を抱き寄せて、温もりに浸っていたいと目を閉じる。



「チャンミン、今すぐに出掛けよう!」

「…断る」


力無く答え、背を向ける。力を入れ過ぎたのか、竜は藻搔いている。


「っあ!ママ、くるしい!」
「…悪いな。でも…離せないんだ」


竜が居てくれて良かった。頼りなくても…構わない。ぽっかりと抜け落ちた穴を埋めるには…時間が必要なんだ。キ

ャアキャアと声を上げる竜をしっかり抱き締めたまま、転がっていると、彼が焦ったように叫ぶ。




「財団で急遽、保護した虎がいるそうだ!」

「…そうか。だから何だ…。僕達に…関係ないだろう…」

「その虎はつがいで、片割れは身籠もっている!」

「…そうか」

「今、産気づいて、もうじき産まれると…」

「…へえ」

「その虎は…白虎なんだ!!」

「……」




彼の叫びに動きが止まる。固まる僕に向けられる…竜の眼差しは煌めいている。



「ママ!白とらちゃんに会いに行こ!!」

「…は?」

「はやくしないと、まにあわないよ?」

「お…お前、知っていたのか…?」


ニンマリ笑う竜は僕の腕からサッと抜け出て、直ぐ傍まで来ていた保護者に飛び付く。



「ママ!ぼく、さきに行ってるからね!ユノっ!!行こ!」

「…ああ」


「ちょっと待て!どういう事だ!説明しろ!!」
「チャンミン、俺達も早く向かおう!!」




窓から飛び立つ保護者に叫んでも意味はない。


沢山の楽しさを噛み締め、沢山の涙を流した僕達のクリスマスは…まだもう少し、賑やかな続きがあった。












おしまい。






お付き合い、ありがとうございました!

白虎のお話…。
そのうちに(^-^)










Christmas 53

2018-12-25 | 財団関係者 クリスマス




唇を重ねようとした時、チャンミンの表情が変わった。突き飛ばす為じゃなく、何か怯えた顔をする。

シャンシャンと聞こえてくるのは…何の音だ?まさかと思いながら、窓を見遣る。



「まだクリスマスは終わってないだろ…」


チャンミンも俺と同じ事を思うのか、焦りを滲ませる。窓に映る光は大きくなり…近くで止まった。


「まだ早いだろ?まだ、今はクリスマスだよな?」
「…チャンミン」


サンタ達が子虎を迎えに来た。まだ心の準備が出来ていないと、チャンミンは震えた声を出す。




「…あちら側の事情にも予期せぬ変化があるのだろう。…余り、引き延ばすと…不測の事態が生じるかも知れない」


ムクリと顔を上げた保護者の声がした。事情を知るなら、説明しろと言いたかった。けど…それを聞いた所で結果は変わらない。深く吸い込んだ息を吐き出し、チャンミンの肩を引き寄せる。



「チャンミン」

「…でも、だって…」

「また会えるから、心配は要らないんだ」

「……だけど」


チャンミンの目には涙が浮かぶ。



「泣きながら、別れるなんてしたくない。そう言ったのはチャンミンだろ?」

「…涙が勝手に出て来るんだ。泣きたい訳じゃない」


強がる余裕もなく、震えるチャンミンを抱き寄せていると、保護者がまた呟く。



「…予定にはなかったが…同行させてやる」


保護者は風を起こし、眠る竜と子虎を俺達の胸元へと移動させる。それから眩い光に包まれた。咄嗟に閉じた目蓋を開けると、見える景色が変わっている。


部屋の中に居た俺達は…外へ連れ出され、大きな橇の上にいる。



「ん…?ママ?」

「…ウァ?」

「これは…」

「何が起こった!?」


目を覚ます竜と子虎に応えられず、俺達も驚くだけだ。



「さあ、行こうか」
「…白狼さん、道案内をよろしくね」


目の前にいたのはサンタと真っ白トナカイだ。

何もかもを知っているような穏やかな笑みを浮かべたサンタは、手綱を引く。



「うわあ!すごい!」
「ウァウァ!」


動き出す橇の上で、竜と子虎は無邪気にはしゃいでいた。







「ママ!すごいね!!」
「ウァ!」

「…そうだな」

「…ママ?」
「ウア?」

「い、いや、何でもない。お前達、寒くないか?」


「ママと白とらちゃんとくっついてるから、さむくない!」
「ウーア!」

「俺もいるだろ?」

「あ!ママのダーリンはママをギュッとしてね!」
「ウァ!」


竜と子虎は、俺達が今、何処へ向かっているのか知らずに無邪気に騒ぐ。折角、笑っているのなら…笑顔を曇らせたくない。そんな風に思うのだろう。チャンミンは無理矢理に笑顔を見せる。


俺は竜の指示に頷き、チャンミンの腰に手を回す。無理して寂しさを押し込めるなら、寄り添い支えたい。でも、余計な事は言いたくなくて、会話を黙って聞く。



「ママ、ゆきがきらきらしてキレイだね~」
「ウウッ!」

「ああ…」

「白とらちゃん、しってる?ふわふわなゆきはたべてもおいしいんだよ~?」
「ウア?」

「ママはしってる?」
「…ああ」


竜と子虎の会話に、何とか応えるチャンミンは、今にも泣きそうな顔をしている。


察しの良い竜は…何もかも分かっているような気がする。チャンミンや子虎の為に、わざと明るく振る舞っている。そう思うから、口を挟む。


「食べ過ぎるとお腹を壊すからな。食べ過ぎには注意だぞ?」
「そうそう!いっぱいたべると、ブルブルしちゃうからね!」
「ウァ!」


俺や竜からのアドバイスに、子虎は元気な返事をしていた。





雪が舞う夜空を走り抜けていたサンタの橇は、光の帯を残していく。幻想的な光景を眺め、時折、笑い合っていると、辺り一面が暗くなり…何かが映し出される。




一瞬だけ、煌めき消えていくのは…何だろうか。言葉では説明出来ない…儚い幻が見える。



あれは…きっと、子虎の両親だ。寄り添う白虎が微笑み合い、互いに愛情を示している。

その様子が見えるのは気のせいじゃない。チャンミンも同じように視線を向け、固唾を呑み、見つめている。



『…僕と…ユノの…大事な子…。早く…顔を見せて?』
『…俺とチャンミンの…大事な子…。早く…声を聞かせてくれ…』


白虎が人の姿に変わり、俺達と同じ名前を囁く。


子虎の両親をこの目で見て…運命を感じた。俺達の元に寄り道してくれた子虎に…感謝したくなった。




「白とらちゃん!こっちのママのことは、ぼくにまかせてね!」
「ウウッ!」

「白とらちゃんはあっちのママとパパをニコニコにしてあげてね!!」
「ウア!!」


竜の言葉に、子虎は元気よく返事をした。

それから…俺とチャンミンを見上げ、ニコリと笑い…ゆっくりと姿を薄めて…消え去った。


















Christmas 52

2018-12-25 | 財団関係者 クリスマス



「ママ、ママのダーリン!このしゅわしゅわのじゅーす、おいしいっ!」

「ジュースばかり飲み過ぎるなよ」
「お代わりは幾らでもあるからな」


竜は保護者の膝上で、炭酸ジュースを気に入ったと元気に叫ぶ。子虎はチャンミンに抱かれ、追加のミルクを強請る。俺は竜とチャンミンの指示に従い、大忙しだ。



「料理も楽しめば良いけど、時々でもクリスマスツリーも眺めてくれ」

「くりすますつりー、ちゃんとみてる!」

「気付いたか?散歩に行っている間、オーナメントクッキーの追加をぶら下げて…」

「クッキー、おいしかったよ!!」

「え?」


竜の言葉に振り向くと、さっきまでは確かにあったクッキー達が綺麗になくなっている。


「また全部、食べたのか?」
「うん!あ!白とらちゃんのぶんはのこしてる!」
「何処にある?」
「えっとね~、ここ!」


竜が保護者の懐にサッと手を入れ、取り出した包みを得意気に掲げる。



「いつの間に…」


「ママのダーリン!じゅーす、じゅーす!」

「ウァウァ!」

「おにくもおにくも!」

「ウマウマ!」


呆気にとられている間はない。急かされ、慌ててキッチンとリビングを行き来する。こんなに忙しないクリスマスは初めてだ。少しも落ち着けなくても、賑やかさが楽しい。


竜と子虎と…勿論、チャンミンも。笑顔を煌めかせているから、俺も幸せだ。



「ママのダーリン、ママにあーんしてあげてね!」

「ああ、分かってる」

「ママも、ママのダーリンにあーんしてよ!」

「…わ、分かっている」



クリスマスは特別な夜だ。チャンミンはいつもより、素直さが増している。竜の要求に応じる事で、俺達も…幸せを幾つも重ねていた。













「…もう駄目だ… 食べられない…」



満腹感に襲われ、呻き声を漏らす。楽しさが食欲を増した。遠慮なく味わった結果、苦しさに唸る。


竜は食い気の後には眠気に負ける準備をしたのか。子虎を抱いて、保護者の胸元で丸まっている。



多過ぎたかも知れないと思っても、食べ残しは殆どない。事あるごとにこれだけの食料を調達する必要があるなら…恐ろしさも感じた。


後片付けをしなければ…と、思ってみても…身体が拒否をする。隣に座り、また勝手に肩を引き寄せる彼の動きに逆らわずにいる。



「…楽しかったな」

「…ああ」


賑やかさは消え去り、穏やかな時間が流れていく。


ツリーが纏う電飾を見つめながら…小さな呟きを漏らした。



「クリスマスが楽しいと…今夜、初めて思った…」

「俺もだ…」

「これは竜の…いや、竜だけじゃなくて…子虎のお陰だろうな…」

「ああ、そうだな…」


彼の肩に寄り掛かり…素直な気持ちを口にする。今まで、特別に思わなかった聖夜が…これからは好きになりそうだ。そう言うと、彼は笑顔を見せる。


「来年のクリスマスはもっと賑やかかも知れないな」

「…そうだな」

「子供達が寝静まった後には…こんな風に穏やかな時間を楽しみたいな…」

「…そうだな」


流れで返事をしてしまってから、ふと冷静に考える。


「子供達ってのは…」

「チャンミン。今から…頑張るか…」



彼の顔が近づいてくる。それが分かっていても…僕は動きたくない。


自分でも不思議なくらい、素直になれるなら…クリスマスが好きになりそうだ。なんて事を思った時、何処からか…シャンシャンと音が聞こえてきた。














Christmas 51

2018-12-25 | 財団関係者 クリスマス



「…一体、何処まで行ったんだ…」



窓辺に立ち、暗い空を見上げ、独り言を呟く。

料理は完成し、所狭しと並んでいる。早く帰って来ないと、冷めるじゃないか。

チカチカ光るツリーを横目に見ながら、唇を尖らせる。



「チャンミン、そんなに心配しなくても…」

「…何かあったのかも知れない」

「保護者が一緒なんだ。危険な目には合っていないだろ」

「子虎も一緒なんだぞ。いつもと同じ感覚でいると予期せぬ事態が生じる可能性が…」

「大丈夫だって」



傍に立つ彼は吞気に笑っている。僕だけが過剰な心配しているなんて言われると、余計に。心配は不安に変わっていく。


「…もしかして…子虎に迎えが来たんじゃ…」

「まだクリスマスは終わってないだろ?」  

「竜も自分達の世界へ戻ったんじゃ…」

「チャンミン」


口にすれば、不安が増し…涙が浮かびそうだ。苦笑いする彼に、背を向け、ベランダへと飛び出る。


寒さが肌に突き刺さるから、不安は更に増す。勿論、その先へ飛び出るつもりはなかった。けど、慌てる彼に抱き寄せられる。



「チャンミン、中で待とう」

「嫌だ」

「ならせめて、上着を…」

「離せ!」


彼の腕を振り解きたくて藻搔く。自分でも制御出来ない不安感に苛まれていると、図上から賑やかな声が響き渡る。




「ママ~!クリスマスプレゼント!!」
「ウァウ!」


急いで見上げると、竜と子虎が揃って手を広げ、叫んでいる。



「こら、危ないだろ!!」

「ママ、みて!」
「ウァ~!」

「…あ…」



竜の叫びと共に、ゆらゆらと降り落ちて来たのは…白く小さな固まりだ。


「ゆきー!」
「ウウ!」
「ツリーだけじゃなくて、おそともまっ白なクリスマスだよ~!」
「ウァウ!」


竜の叫びに反応したのか。雪は更に増えていく。



「良いから、早く降りて来い!」


「わかってる!かぜをひくから、でしょ!」
「ウウ!」


僕の小言を繰り返す竜と子虎は、満面に笑みを浮かべ、元気一杯に叫んだ。









「ああ、やっぱり!身体が冷たいじゃないか!」

「ママ、ギュッとして!」
「ウァ!」

「つ、冷たいだろ!服を捲るな!」


「えーっ!だって、ちょくせつのギュッとがいちばんだって、ママ、いわなかった?」
「クア?」

「そんな事、言った覚えは…」

「ママのダーリン!ママがギュッとしてって!」
「ウウ!」

「ああ、分かった!」

「僕は何も…っ!」

「ユノもきてー!」
「ウァ!」

「…仕方ない…」


竜と子虎を抱き寄せた僕を彼が引き寄せる。その周りを包むのは…保護者が起こす暖かな風だ。


冷たさと柔らかさと…愛しさに温かさ。色んなものが入り混じり、複雑さはある。中でも…一番、強く感じるのは…幸福感なのだろうか。つい、顔が綻んでしまう。




「ママと、ママのダーリン!いまね、白とらちゃんのパパとママに会ってきたの!」

「え?」
「そうなのか?」

「ユノがつれていってくれたんだよ~!」
「ウァ!」


そんな話は聞いていない。驚きを隠せず、彼と共に視線を向けても、保護者は無反応だ。



「白とらちゃんのママはね!ぼくのママみたいに、きれいだった!」
「ウカっ!」
「それでね!白とらちゃんのパパは、ママのダーリンみたいに、カッコよかったよ~!」
「ウァ!!」
「白とらちゃんは、やっぱりパパににてるの!それでね!」

「…チャンミン」

「あっ!そうだった!これはないしょだった!」
「うあ!」


保護者は竜の話を止める。慌てて、手のひらで口を塞ぐ竜は明るい口調で囁いた。



「白とらちゃんのパパとママは、白とらちゃんに…はやく会いたいって言ってたよ。やさしいこえでね、はやく会いたいってね」

「…ウァ…」

「白とらちゃんはね。あっちのママもしんぱいだけど、こっちのママがしんぱいだって言ったの。でもね、ママ!だいじょうぶ!!白とらちゃんもだいじょうぶだよ!しんぱいはいらないよ~!!」

「ウァ!」



竜は元気な叫びを上げる。竜が直接、見てきたのなら。それで大丈夫だと言うのなら。何も思う必要はない。素直に微笑みを返す。



「そうか。優しいご両親で良かったな。でも、クリスマスが終わるまでは…竜の弟で…僕の子だからな。しっかりとミルクを飲んで…」

「白とらちゃんっ!!みて!!ものすごく、いっぱいのおにく!!」
「ウキャア!!」


語り掛けを邪魔されても、怒りは湧いて来ない。垂れてくる涎に困る子虎を抱き上げて、竜に突撃の許可を出す。


「ママ!ママのダーリン!めりーくりすますっ!!」
「ッァ!」


一際、大きな声を上げた竜は、保護者の名を呼びながら、肉塊に突撃していた。














Christmas 50

2018-12-24 | 財団関係者 クリスマス




「…どうしてくれる」

「な、何だ、いきなり…」


クッキーの追加注文をして、今日の分を受け取ってから監視室に戻ると、チャンミンの姿はなかった。モニターに映る光景で、その訳を知る。

竜に対して過保護な気もするが…今は子虎も一緒だから、余計に放置出来ないのだろう。

そこまでは予想範囲だ。

けど、いつもと違うのは…珍しく保護者だけが…俺の前に仁王立ちしている事だ。



これまでの積み重った不満を一気に解消する気なのだろうか。冷や汗を掻きながら、対峙する。



「…お前達だけ…どうにかなるのは…許し難い」

「だ、だからそれは何の事だ?」


焦りに襲われていると、モニターから竜の声が聞こえる。



『わかったよ~、ママ!ぼくの赤ちゃんはまだまだ、先ね!』
『本当に分かったのか!?』
『ママがダメだっていうから、まだまだ先でいいよ?』
『分かったのなら良い…』


話の流れが見えない。

けど、分かったのは…竜がその気になるのは、まだまだ先って事だ。


…それが怒りの理由なのか?

だとしたら、何故…俺が狙われる?


浮かぶ疑問の答えを竜が与えてくれる。



『ぼく、いい子だから、ママのいうこと、きくもんね!』
『ウァ!』

『いつもは聞かないだろ!』

『えー!そんなことないよ!』
『ウァウァ!』


チャンミンの発言が…きっかけか。

チャンミンを攻める訳でなく…俺に矛先が向けられたのなら、負ける訳にいかない。

恐れを振り払い、俺は口を開く。



「今…お前達と俺達は…同じ段階にいるらしいな」

「…….」

「で、でも、俺達は前に進むからな!」

「……」

「お、お前が邪魔をしても、俺は負けない!俺はチャンミンと必ず結ばれるからな!」

「…やれるものなら…やってみろ…」


保護者が放つ殺気に、息が止まりそうになっていると、またもや竜の声が聞こえる。




『あっ!ウサギせんせいだ!』


その叫びを聞いた瞬間、表情を変えた保護者はパッと姿を消す。



何とか、命は助かった。けど、この学園は、騒動には事欠かないらしい。次はチャンミンに危機が迫っていると知るまでに時間は掛からなかった。














***




「ママ!すごい!大っきなケーキ!!」

「そうだろう?五段ケーキは特注品だ。それぞれ、挟まれている果物が違う…」:

「いちばん上がぼくので、にばんめのがママので…さんだんめがぼくの!あと、ぼくのとぼくの!」

「何を言っている」

「あっ!白とらちゃんのと…ユノのとママのダーリンのぶんがたりないね!」

「割り当てがおかしいだろ!」

「ママ!ママのケーキ、分けてあげる?」

「こら!独り占めするな!」



待ちに待ったと言えば良いのか。それとも、余り来て欲しくなかったのだろうか。


クリスマスイブを迎え、パーティーの準備を進めている。


運び込んだケーキを目にしただけで、竜は涎を垂らす。料理が並ぶのはこれからだ。興奮状態の竜の動きを止める為、機転を利かす保護者はサッと姿を変え、子虎と竜を背に乗せた。




「ママ!ちょっとおさんぽに行ってくる!」

「カゥ!」


「遅くならない内に帰って来いよ」


「うん、わかった!」

「ウァ!」



竜達を連れ出してくれて助かった。そう思いながら、静かになると…寂しさに襲われそうだ。



いや、今は感傷的になっている場合じゃない。今のうちに、料理を仕上げないと。


急いでキッチンに向かい、オーブンの中を確認する。





「チャンミン、次は何をすれば良い?」

「これを運んで並べてくれ」

「ああ、分かった」

「追加注文のケーキはどうなっている?」

「それなら、彼女が届けてくれると…」



そう言っている間に、チャイムが鳴る。


財団からの差し入れも半端ない量だ。


けど、本気を出した竜の食欲を満たすにはまだまだ足りない。


次の塊肉をオーブンに入れ直し、ピザ生地にトッピングをしながら…カットしたフルーツの盛り付けを進める。寂しさを感じる余裕がない慌たださに感謝しながら、忙しさに追われていた。