「女神様!!おはようございます!」
「朝食をお持ちしました!」
「お好きな物を好きなだけ、お召し上がり下さいね!」
静かだった空間に、賑やかな声が幾つも響き渡る。
「…ん?」
先に反応したのはチャンミンだ。もぞりと動く気配がした。
「うわ!」
「綺麗…!」
間髪を入れず聞こえた歓声を無視出来ない。慌ててチャンミンを抱き寄せた。
「あ!旦那!!隠すな!!」
「綺麗な女神様を独り占めするな!」
「…少し、黙ってくれるか?チャンミンがそう言ってる」
「え?」
「本当!?女神様!」
「…ごめんね?もう少しだけ…このままでいさせて?」
「はい!」
「どうぞ、ごゆっくり!」
「でも、旦那!!天井の修理は忘れるなよ!」
「…分かってる」
肌を晒す無防備なチャンミンを見せたくなくて、相変わらず態度の悪いリス達を追っ払った事は…大人げなかっただろうか。眠気を引き摺り、大きく息を吐きながらも…取り敢えず、チャンミンを強く引き寄せる。
「…もう朝が来ちゃったのか…」
「もう少し、このままが良いよな…」
「…うん。僕もそう思う…」
素肌を合わせていると心地良さに支配される。二人とも同じ意見なら、動かないでいよう。そう思っても、これ以上の我が儘は許されないのか。今度は違う声が聞こえた。
「お休み中のところ、失礼しますが…ちょっと、宜しいか?」
「…はい、どうぞ…」
チャンミンの返事に明るい笑い声を響かせたのは、長老と呼ばれていたフクロウだ。
「そのまま戯れていると…その先には永遠の別れが待っていると言う事、お忘れではあるまいな?」
「…っ!」
「…あ!」
フクロウの指摘に、忘れていた事を思い出す。そうだ。任務を完遂出来なければ、俺はチャンミンと離れ離れになってしまう。既に知らされていた重要事項を思い出した俺達は、同時にばっと飛び起きた。
「とは言え、今すぐに飛び立つ事は無理でしょう。日が暮れるまではここで、お過ごし下され。その間に、役立つかも知れない知識をお伝えしましょう」
「あ、ありがとうございます!」
「そんな悠長にしていて間に合うのか!?」
「今は焦りより、置かれた状況の把握が大事じゃろう」
焦っても仕方ないと言われ、素直にそう思えたのは、フクロウの柔らかな物腰と…未来まで見通すような深く穏やかな眼差しが理由だろうか。
「…にしても…もう少し、知識を与えておけば良いものを…。最近の使者どもは、どうにも不親切じゃのう…」
フクロウは大きな溜息を吐く。その様子に何かを感じたのか、チャンミンが問い掛けた。
「もしかして貴方は…神様や使いちゃん達とお知り合いですか?」
「奴らは儂の教え子じゃからな」
「え?」
「まあ、ここに落ちてきたのも何かの縁じゃろう。普通なら知り得ない、とびきりの秘策をお教えしよう」
頼もしいフクロウは優しく、高らかに笑っていた。