クニの部屋 -北武蔵の風土記-

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“長渕剛”の詞と重なる「THE 有頂天ホテル」は? ―三谷幸喜―

2006年12月31日 | レビュー部屋
三谷幸喜脚本・監督の映画「THE 有頂天ホテル」。
2006年1月14日に公開され、
同年12月30日に早くもテレビでオンエアされました。

この映画は“群像”の物語。
舞台がホテルなのでたくさんの人物が登場するのは当然ですが、
著名な俳優ばかりだったせいか、さらに多く感じられました。
役所広司・松たか子・香取慎吾・伊東四朗・戸田恵子・川平慈英・
石井正則・佐藤浩市・篠原涼子・津川雅彦・オダギリジョーなどなど、
この映画の場合主人公はひとりに限定されません。
強いて言えば主人公はホテル「アヴァンティ」でしょう。
その中で過ごす人々のドタバタ劇が描かれているわけです。

なので、ホテル内のあらゆる場所でのシーンが映し出されます。
物語とは小さな事件の積み重ねです。
それぞれのキャラが各々の事件を通過して、
最後の「カウントダウンパーティー」に集約されるわけです。

ところで、物語の日にち設定は「大晦日」。
年が変わるまでの数時間が描かれています。
三谷幸喜はなぜ大晦日に設定したのでしょうか?
このことは「THE 有頂天ホテル」を観る上で重要なことであり、
物語のテーマに直結しています。

すなわち、この映画は「生まれ変わり」を描いた物語です。
年が終わり、また新しい1年が始まるように、
それまでの自分から新しい自分へと生まれ変わる過程が描かれています。
最初に述べたように主人公はホテル「アヴァンティ」。
ひとりだけが生まれ変わるのではなく、
客を含めたホテル内の従業員たちも一緒に、
それまでかぶっていた古い殻を破っていくのです。
このテーマは、ホテルの屋上で「ヨーコ」(篠原涼子)が
「武藤田勝利」(佐藤浩一)に言った言葉に表れていました。
「大晦日は新しい1年を迎えるためにあるのよ」(大意)

さて、生まれ変わるためには、
それまでの自分に何らかの不満を抱えていなければなりません。
現状に満足なら生まれ変わる必要がないし、最初からハッピーエンドです。
最もわかりやすいのは、崖っぷちの議員「武藤田」(佐藤浩一)と、
夢を諦めようとしていた「只野憲二」(香取伸吾)、
カリカリしていた接室係「竹本ハナ」(松たか子)が挙げられるでしょう。
彼らは大晦日という“通過儀礼”を通って、
最後は新しい自分へと生まれ変わっていきました。
すなわち、それまで抱えていた心の隙間をそれぞれの形で埋めたのです。
この“通過儀礼”なくては、武藤は自殺、憲二は帰郷、
ハナは電話で不平不満を言いっぱなしだったことは容易に想像できます。
こうした人間模様・生まれ変わりを描く上で、
「大晦日」という設定は絶対に必要だったわけです。
これがもし何でもない平日に起こった物語だったとしたら、
彼らが生まれ変わることはなかったかもしれません。

では、三谷幸喜はこの「生まれ変わり」を描くことで、
何を伝えたかったのでしょうか?
それはハナ(松たか子)が「坂東健治」(津川雅彦)や、
「憲二」(佐藤浩一)に向かって言ったように、
「人にどう思われようと自分のやりたいことをやればいい」(大意)
の言葉に集約されると思います。
これは、脚本と監督を手がけた三谷幸喜自身が発するメッセージそのものでしょう。
人は世間や他人の目を気にして自分を押し殺しがちだが、
もっと自分の気持ちに素直になろうよ、と……。
そんな殻を破った人たちが「カウントダウンパーティー」に集まり、
大団円を迎えるのです。

「生まれ変わり」というと、
ときとして死んだあとの人生として使われることがあります。
しかし、人生は1度しかありません。
そう簡単に事がうまく運ぶわけではありませんが、
自分を裏切るようなことはしたくないものです。

 もしも人生がやりなおせるのなら
 誰も人生を悔やみはしない
 だけど人生は一度っきりだから
 生まれかわるなら生きてるうちに
 (「人生はラララ」作詞作曲長渕剛 アルバム「Keep On Fighting」収録)

さて、この記事を書いているいま「大晦日」。
おそらくホテル「アヴァンティ」は満室でしょうが、
せめてカウントダウンパーティに参加できるかどうか、
これから電話をかけてみようと思います。

参考web
ウィキペディア(Wikipedia)

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