お恥ずかしながら、私は「小説」が苦手である。
まあ、あの別世界に連れていかれるような、あの感触が苦手なわけだ。
そして、模試でも苦手であった。
しかし、それが解けるようになったのは、ある日、悟りを得たからである。
要は国語「業界」の言葉で作られていたのだと考えたのである。
具体的に言うと模試の解答や解説文である。あれのノリがわかるようになると解答者が望んでいるような解答が出てくるのである。
そこで今回企画したのが秋元先生の作られた歌詞を小説として読むことで入試小説入門をしてしまおうというものである。
実際には解説を読もうとしても、小説も難しく解説も難しいという二重苦で、頭が「わあ」となりかねないのだが、幸い、秋元先生の歌詞だと読みやすいということ、解説も短めにできるということ、そのわりにはさすが秋元先生、技法がきちんと使われているということで「苦」も少ないのではなかろうか。
以下に歌詞の一部が引用されるが、教育目的での引用である。
【問題】
次の文章は秋元先生による「メロンジュース」の一部である。読んであとの問いに答えなさい。
あなたにあげたいメロンジュース
走る電車 連結のあたりで
前の車両ずっとちらみしてた
つりかわつかまるあなたの右腕
昨日より日に焼けて
①太陽近づいた
だからメロンジュースちょっと大人ジュース恋は汗をかくもの
夏はメロンジュース
それは夢のジュース
思いすべて絞って
あなたにあげたいメロンジュース
こんな②そばで憧れている
女子がいるといつか気づいてよね
③ガタガタゴトンとハートは揺れてる
いくつ駅を過ぎたら
何かが起きるかな
愛はメロンジュースだけど切ないジュース目と目合えば満足
一人メロンジュース
たまに涙ジュース
私片想い中
青春100%(ひゃくぱー)
メロンジュース
問一 傍線部①「太陽に近づいた」とあるが、ここではどういうことをあらわしているか。
問二 傍線部②について、ここでの「そば」という表現が何を表しているかを説明しなさい。
問三 傍線部③「ガタガタゴトンとハートは揺れてる」は何を表現しようとしているか。
【解説】
確認だが、これは小説の練習になっているのである。
冒頭部「あなたにあげたいメロンジュース」の「あげたい」の主語は省略されているが、「あなた」とあるので、「わたし」であろう。つまり、この問題は基本的に一人称小説の読み方が可能なのである。なお、一人称小説の「わたし」はあくまでも登場人物であり、作者や筆者ではないことに注意しよう。随筆の場合は筆者であるのだけれど。要はここで秋元先生自身が「あなたにあげたいメロンジュース」と語っているわけではなく、架空の「わたし」がいて、その心情を読み解いていこう。
(入試)小説は物語を読み取ることだと石原千秋氏(早稲田大学教授)がおっしゃっていたような気がする。この詩を小説のように読むと、こんな物語にまとめられるだろう。
「電車で話したこともない男の子に片思い中の女の子が夏にふさわしいメロンジュースを象徴として青春や恋への思いを語る物語」
こういう物語を読み取っては書く癖を作っておくと小説攻略は簡単である。要練習。
なお、小説は人物の心情を読みとることも重要であり、以下の解答解説もそれを前提にしている。
【設問】
問一 「太陽に近づいた」とあるが、ここではどういうことをあらわしているか。
【解答】
好きな男の子の右腕の日焼けが昨日より濃くなったことに気づいたことで、昨日の太陽の強い日差しの様子がありありと感じられたということ。
【解説】
「太陽」を男の子と解釈してしまうと、別解が出るが、ここでは「日に焼けて」という直前を根拠にしておこう。あくまでも本文に根拠を持った解答にしよう。また、物理的に近づいていないことは、わかるはず。直後に「恋は汗をかくもの」なので暑い情景との関連もあるはず。
【設問】
問二 ここでの「そば」という表現が何を表しているかを説明しなさい。
【解答】
違う車両という異なる空間にいるにもかかわらず、直線距離は近いという状況が、思いがまだ通じていない片思いをしている女の子の状況と一致していることを表している。
【解説】
直接的に考えると、「そば」は空間表現であることは理解できると思う。その空間を冒頭部分から具体的に理解する。このように前の部分にあるさりげない描写(「連結のあたり」「前の車両」)が、後方に影響を与える部分を伏線という。また、こういう問題のときは、具体的事実でも心情と関連させておくことが重要である。これを情景一致(心情+景色は一致するということ)と言う。この設問を作り、解説を書いいて、秋元先生、さすがと思ったよ。
【設問】
問三「ガタガタゴトンとハートは揺れてる」は何を表現しているか。
【解答】
電車で会った男の子への恋の行方が電車内の振動のように不安定で、期待感と不安感をもった少女の心情を表現している。
【解説】
「ガタガタゴトン」という電車の動くさま(景色)と、「ハート」=恋(心情)の関係を読み取る。「電車」「いくつ駅を過ぎたら 」から「行方」という表現を連想し、「片思い中」なので不安、「何かが起きるかな」なので期待をそれぞれ補う。
以上で国語「業界」の感覚を何となくでよいのでつかめただろうか。
なお、この曲を聞いたことがないよ、あるいは、また聞きたいよという方は下↓の動画をぜひぜひ。
【MV full】メロンジュース / HKT48[公式]