ぼくの働くアパートの裏に「近野水産」がある。府中市片町一丁目。
今日はアパート掃除の最終日にしてこの「近野水産」が10時から正月用鮪の販売をする日である。
三浦半島三崎港直送鮪がここの売りである。
8時40分にこの店を見に行くとはや行列ができている。
開店を待つ百人の息白し
まだ開店まで1時間20分もある。列に入るかどうか迷ったが今日のぼくはこの鮪を買うために存在する。
本を持って列に加わる。
寒風が吹きすさぶ。
行列を嫌うぼくが行列の中にいるのは本日、この鮪を買う以外にはない。
足踏みをして鮪買ふ列にあり
ほとんど進まない行列にいてかの社会党の「牛歩戦術」を思ったりする。
簡単に買える店で買えばいいじゃないかと思わないでもないが、かくも大勢の人が待つ時間をいとわないのは、品物がよく値段も安めという二つの理由ではないか。そう決めてじっと耐える。
「近野水産」で鮪を買うことが1年のしめくくりのイベントとなった。小晦日というのがいい。
立ち続ける体力とおしっこをもらさない健康と、今年また週4回のパートタイム労働を続けて来られたことを青天白日に感謝する。
それにしても寒い。
店の人がホッカイロを列のわれらに配ってくれる。
列をなす我等に懐炉を配る人
懐炉をくれるこの店の人が恵比寿様に見える。
中トロ、赤み、ホタテ貝、蛸、あわせて5500円程度買う。
行列についてから買うまでに2時間15分。せっかちなぼくが考えられないほど耐える貴重な1日である。