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STAP細胞論文の感想(2)・・・論文を鵜呑みにした私が悪かった

2014年04月03日 | 病理のこと、医療のこと、仕事のこと

不肖コロ健の、あの感動の感想文(『STAP細胞論文の感想・・・(二)十年一昔』2014年02月11日)から50日足らず。もし、お時間があれば、まずは息子まで巻き込んで楽しく勉強させてもらった一読者の興奮の記を読んでいただきたい。

今回のSTAP細胞に関する問題について、独立行政法人理化学研究所(理研)が報告書をまとめ、4月1日に発表した(『研究論文(STAP細胞)の疑義に関する調査報告について』)。そのうち、消されてしまうのだろうが、報告書は16ページにも及ぶので、ここではその報告書の最後の”まとめ”だけ、抜粋して記録としてとどめる(後記)。



ユニットリーダーなる人物が「胎盤にもなるんです」と得々と述べている映像を見た時に、私自身が感じた違和感、「一度でも体細胞へ分化した細胞が、栄養膜細胞へ分化するものなのか」を信じなければいけなかった。そういった”現象”が存在するかしないかはわからないが、そんなに簡単にいくのだろうか。昔私が行った研究ではそんなこと、みじんも思えなかったのにという感想を大事にすべきだった。

だけど、何よりも、Nature誌に掲載された論文であったということで、「そんなこともあるのか」と鵜呑みしてしまった。
それに、理研、である。大学を離れた機関であり、医者も何も関係のない世界で、いろいろの分野から集まってきた科学者がしのぎを削っている厳しい場、というとてつもないイメージがあった。

理研から出たNatureの論文に対して、20年以上昔の発生学者が、どうやって反論できよう。
今にして思えば、どれも出来過ぎの話。ほかにも「これまた、ホント?」と思える記載があったが、書いてあることに噓はないと思い、まるっきり信じてしまった。
まあ、NHK(『時論公論 「新しい"万能細胞" STAP細胞 可能性と課題」』2014年01月31日)(後記)も朝日新聞(『天声人語』2014年4月2日)(後記)もコロッとだまされ、大いに感動していたわけで、不肖コロ健がその眼力の無さを卑下することでもないか。それとも、やっぱりダメか。

STAP現象は本当にあるのだろうと私は思っている。だけど、論文の中で言われていたようなわずか1週間で大量の未分化細胞が生まれるということは無く、ごく少数の細胞が採取されるに過ぎないと思う。それでも、そういった細胞が数個でも捕まえることができたら、たいしたものだろう。ただ、胎盤にはならないのではないかと。

さて、このプレスリリースはどこまで信じていいのか?
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理化学研究所『研究論文(STAP細胞)の疑義に関する調査報告について』
3 まとめ
2つの点について小保方氏に研究不正行為があったという結論に達した。研究不正は科学の本質を歪め、研究という行為そのものだけでなく研究者コミュニティーに対する一般社会からの信頼を大きく損ねるものである。研究不正が禁止されるのは、研究者間の健全な情報交換による真理の探究を確保し、科学の進歩を推進するためである。小保方氏は、科学的に許容しがたいプロセスによる2枚の異なるゲルのデータの切り貼りや条件が異なる実験データの使用など、到底容認できない行為を重ねて行っている。これは研究者としての未熟さだけに帰することのできるものではない。一方、実験ノートの記述があまりにも不足しているなど、第三者が小保方氏の実験内容を正確に追跡し理解することが困難な状況が明らかとなり、この点も健全な情報交換を阻害していると判断される。このような行為やずさんなデータ管理の背景には、研究者倫理とともに科学に対する誠実さ・謙虚さの欠如が存在すると判断せざるを得ない。他方、担当研究者(小保方氏)以外の研究者(本件共著者等)が慎重にすべての生データを検証するという、当然発揮することが予定されている研究のチェック機能が果たされていなかったと判断される。確かに、小保方氏以外の調査対象者について、研究不正は認められなかったが、若山、笹井両氏については、シニアの研究者でありながら、上述したとおり、データの正当性と正確性等について自ら確認することなく論文投稿に至っており、そのため、過失とは言え、研究不正という結果を招いたものであって、その立場や経験などからしても、その責任は重大であると考える。なお、研究のチェック機能が果たされなかったことについては、小保方氏が他の機関で行った研究を若山研において客員研究員の身分で継続し、その後、自らがリーダーを勤める研究室において発展させたという研究環境の変遷や、成果とりまとめに近づいた段階に入って笹井氏と丹羽氏というそれぞれ若山氏とは独立した立場のシニア研究者がデータの補強や論文作成のために協力することになったなどの事情もあるのではないかとうかがえる面がある。
研究所は、所内の異なるグループ間の共同研究における各自の責任の在り方や、共著者の果たすべき役割等も含めて、通常行われるべき研究のチェック機構が、なぜ機能しなかったかについて検証するとともに、研究所における実験ノートなどのデータ管理や、研究の立案から実施、成果の取りまとめと発表に至るまでのプロセスを点検し、このような研究不正の再発を防止するために必要な具体的措置を早急に執るべきである。
以上



NHK 時論公論 「新しい"万能細胞" STAP細胞 可能性と課題」2014年01月31日
理化学研究所の30歳の女性研究者が、これまでの常識を覆す研究成果を発表し、国内外のから注目されています。細胞にストレスを与えて、皮膚や筋肉など、どんな細胞にもなれる万能細胞を作り出すことに成功したのです。
万能細胞といいますと、ノーベル賞を受賞した京都大学の山中伸弥教授のiPS細胞を思い出す人も多いと思いますが、iPS細胞より、「簡単」に作り出すことができるなどの特徴があり、再生医療への応用が期待されています。
「STAP(スタップ)細胞」と名付けられたこの細胞の可能性と課題について考えます。
STAP細胞は、神戸市にある理化学研究所で研究ユニットリーダーをしている小保方晴子さんらの研究グループが作成しました。小保方さんは、趣味はペットとして飼っているカメの世話とショッピング、理科系の女子「リケジョ」の研究成果は、イギリスの科学雑誌「ネイチャー」に掲載されました。
STAP細胞は、どんな細胞にもなれる万能性をもっています。
研究が注目されているのは、
▽細胞の再生の研究で、「多くの可能性」を持っていると期待されていること
▽ほとんどの研究者がこれまでの常識では考えられないとする、その「意外性」です。
STAP細胞は、どのようにして作られるのでしょうか。
実験はマウスを使って行われました。マウスのリンパ球を取り出して、弱い酸性の液体に30分ほど浸して培養します。これだけで、万能性を持つSTAP細胞になったのです。
万能性を持つ細胞としては、ほかにiPS細胞があります。iPS細胞は、すでにヒトの細胞で作れるようになっていますが、ヒトの皮膚の細胞を取り出して、細胞にいくつかの遺伝子を送り込みます。すると、遺伝子の作用で、細胞が万能性を持つようになります。
いずれの細胞も、分裂して神経や筋肉、皮膚、肝臓の細胞などあらゆる細胞になる万能性があります。
では、STAP細胞の持つ「可能性」とは、どういった点でしょうか。
▽まずひとつは、「簡単にできる」ということです。弱い酸性の液体につけるだけです。さらにiPS細胞は作るのに2~3週間かかりますが、STAP細胞は1週間ほどです。また「効率的」に細胞を作ることもできるといいます。
▽「発がん性」です。iPS細胞は、遺伝子を入れてつくるため、がんになりやすいことが課題となっています。STAP細胞は遺伝子を直接操作していないので、iPS細胞のような、がんになりやすいということはないと考えられます。 
さらに、STAP細胞の特徴を詳しく見てみると、iPS細胞より、「高い万能性」を持った細胞と考えられています。
細胞が1つの受精卵という何にでもなれるものから、役割を持つ細胞になる様子を考えてみます。
細胞は、受精卵から、分裂を繰り返して、ヒトでいうと60兆個の細胞で、からだ全体ができています。これを木の幹に例えると、受精卵が細胞分裂するにつれて、次第に、細胞の役割が決まっていきます。下から上に、役割が枝分かれして細かく決まっていくのです。そして、血管や皮膚、神経などの細胞になります。
いったん役割が決まると別の役割の細胞にはなれません。例えば、「皮膚」の細胞が「すい臓」の細胞になるということはできないのです。ましてや、受精卵に近い状態に戻るということは、通常はできません。
iPS細胞では遺伝子の力を使って、人工的に、いわば「無理やり」受精卵に近い状態に戻しているのです。
STAP細胞は、iPS細胞より、受精卵に近いところに戻っていると考えられています。
では、この研究の「意外性」とは、どのような点でしょうか。
いったん役割が決まった細胞が、受精卵に近い万能性を持つことは、植物の細胞で起きることは知られています。しかし、動物では、細胞の外の環境を変える程度のことでは、万能性を持たせることはできないと考えられていました。
実際、小保方さんの周囲の研究者も、にわかには研究結果を信じられなかったと話しています。また、ネイチャーに論文を投稿した際も、当初は「あなたは過去数100年に及ぶ細胞生物学の歴史を愚弄にしている」と指摘され、受け付けてもらえませんでした。論文が掲載されるまで、データが確かであることを示す実験を繰り返したということです。
その「細胞生物学の歴史」では考えられないようなことに、小保方さんたちの研究グループは、どうして気づいたのでしょうか。
小保方さんは、細胞が万能であるかどうかが、細胞の大きさに関係あるのではないかという点に注目して研究をしていました。
その研究の中で細胞を細いガラス管に通す実験をしたところ、管を通った細胞の中から、万能細胞がみつかったのです。細胞生物学の常識からすると、もともと管を通す前に万能細胞が混ざっていたと考えがちです。しかし、小保方さんは、現象を確かめる実験を行って、管を通った後に万能細胞に変化していることを確認しました。
そして、狭い管を通すというストレスが、「万能」につながると考えました。
そこで、細い管とは別に、例えば細胞膜をこわす毒の刺激などのストレスを細胞に加えてみました。刺激が強すぎると細胞は死んでしまいますが、刺激を弱めると、毒などのストレスで一部の細胞は万能細胞になったといいます。いろいろなストレスを試した結果、弱い酸性の液体に浸すというストレスだと効率的に万能細胞になったのです。
今回の研究の重要性をまとめると、
▽iPS細胞のように遺伝子の力を使うといったことをしなくても、細胞には受精卵に近い状態になるという能力が潜在的に備わっている
▽その能力をストレスを与えることで引き出すことができる
ということを示したのです。
 この研究は、再生医療の発展につながると期待されています。
▽がんになりにくいことから、臨床の応用しやすい細胞である可能性があります。
▽iPS細胞の研究とともにSTAP細胞の研究を進めることで、細胞がどのようにして万能性を獲得しているのかという、そもそもの謎の解明が進むかもしれません。
そして、現在は、マウスでの実験結果ですが、ヒトの細胞でこうしたことができれば、再生医療実現に大きく貢献することが期待されます。
一方、課題もあります。
ヒトの細胞でできるかという点もありますが、
▽ひとつは、細い管などのストレスを受けるだけで、なぜ万能細胞になるのかはわかっていません。マウスの実験は、生まれたばかりのマウスで行っていて、大人のマウスではうまくいかないといいます。そのメカニズムの解明が必要です。
▽そして、もうひとつ指摘しておきたいのは、生命倫理についてです。
iPS細胞は様々な細胞が作れるといいますが、実は胎盤の細胞は作れません。これに対して、STAP細胞は胎盤の細胞になることもできます。STAP細胞は胎盤の細胞にも枝分かれでき、iPS細胞より受精卵に近い細胞だと考えられています。
STAP細胞は、万能性が高く、生命の源である受精卵に近いことから、その研究に生命倫理という観点から問題がないのかどうか。研究を進める中で、この点についても検討することが、今後求められると考えます。
30歳の研究者による今回の研究成果。実験の結果が、たとえ数百年来の常識を覆すようなことであっても、先入観なしに正面から取り組んで、たどりつくことができたのは、その若さゆえだったのかもしれません。
iPS細胞と並ぶ、再生医療をけん引するような研究につながるよう期待したいと思います。(中村幸司 解説委員)


朝日新聞『天声人語 2014年4月2日』
実存はしないが、知る人ぞ知る博士論文がある。「蛙(かえる)の眼球(めだま)の電動作用に対する紫外光線の影響」という。にやりとした方は漱石ファンだろう。小説「吾(わが)輩(はい)は猫である」に出てくる寒月(かんげつ)君の取り組む論文だ。そのモデルが物理学者の寺田寅彦なのは、よく知られている▼味わいの深い多くの言葉を、寅彦は残した。「科学者になるには自然を恋人としなければならない。自然はやはりその恋人にのみ真心を打ち明けるものである」。そんな一節を1月の小欄で借用したのは、「大発見」をなした小保方晴子さんへの賛辞だった▼喜びとともに報じた快挙を、カッコつきで書かねばならないのはやりきれない。所属する理化学研究所はきのう、研究に不正行為、それも捏造(ねつぞう)があったと調査報告を公表した。懲戒委をつくって、処分を検討するそうだ▼ただ、核心はなお藪(やぶ)の中にある。小保方さんは「このままでは、あたかもSTAP(スタップ)細胞の発見自体が捏造であると誤解されかねず、到底容認できません」と反論している▼細胞が本当に存在するのなら話は違ってこよう。重要な謎を残しつつ、理研側に、この騒動を、はた迷惑な独り芝居として葬りたい思いが透けていないか。最大の関心事を、つまびらかにする責任がある▼寅彦こと寒月君に戻れば、論文はいつ出来ると聞かれて「まあ十年か、事によると二十年」と呑気(のんき)に答える。そんな時代は遠く、科学者はいま、魂が追いつかぬ疾走を続けているようにも思う。顧みる必要はないか。



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