kenroのミニコミ

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遠いジェノサイドの丘  ホテル・ルワンダ

2006-02-13 | 映画
1994年の4月からわずか3ヶ月の間に人口の約1割にあたる100万人が虐殺されたルワンダで、1200名の命を救ったホテルマンの物語。「アフリカのシンドラー」などとも呼ばれるが、ルワンダ虐殺がこれほどまでの規模に広がってしまったのは西側の無視、黙殺が原因、相対する民族(ただしツチ「族」もフツ「族」も違う「民族」ではない)に対する憎悪を煽ったのはラジオというプロパガンダであるとされている。本作が公開される以前ルワンダ虐殺を体系的にあつかった著作は少なく、筆者も「ジェノサイドの丘」(フィリップ・ゴーレヴィッチ 2003年)を読んでいたためたまたま知っていただけである。これが映像になるとすさまじい迫力だ。虐殺のシーンではなく、今殺されるという瀬戸際でのポール・ルセサバギナやその家族ら、国連平和維持軍の駐留大佐、政府軍の将軍、その他登場人物の言動、心のうちが見事に描かれているからだ。
西側が途上国の人権蹂躙(の最たるものが殺戮)に目をそらし続けているのはルワンダだけではない。9・11でやっと目を向けた(というか、アメリカが軍事攻撃をしかけた)アフガニスタン。ソ連の侵攻、そして撤退以降も独立国としての体制を見守らなかったアフガンを支配したのはイスラム原理主義と言われるタリバンで(しかもいまだアルカイダとタリバンの関係は明らかになっているとは言いがたい)、そのタリバンの圧政を放っておいたくせにイスラム原理主義イコールすべて悪とアフガンを攻撃。また、「人道的介入」が「成功」したと言われるコソボにおいてもそのタイミングについて、もう少し早ければミロシェビッチの暴走に歯止めをかけられたのではとの評さえある。そして、国連の決議を無視したアメリカのでっちあげである「大量破壊兵器」を理由としたイラク攻撃。要するに西側はいつもタイミング悪く、「人道的」な「介入」をしてほしい時にはしてくれず、してほしくないときはする。特にアメリカ。
クリントン政権もルワンダの惨状は把握していたにもかかわらず、自国にあまり権益の関係ない地域に目を向けようとはしなかったし、欧州もまたしかり。ルワンダの旧宗主国ベルギーは、ツチ「族」とフツ「族」の反目を作った張本人であるくせに逃げるばかり。現地人の殺戮などないかのごとく振る舞い、国連そのものが西側白人の安全さえ確保できればルワンダの市民などどうなってもいいという姿勢。これでは助かる人も助からないし、逆説的であるけれどポール・ルセサバギナが英雄にならざるをえなかったのも宜なるかなというところ。
ただ、国連や欧米が積極的に介入(というのは無法化、無謀化した「民兵」たちを押さえる=殺戮するということ)しなかったことと、「民兵」が何の言われなく(たとえあっても)他族(=少数ではあるが支配者側であったツチ「族」)を殺戮したことは分けて考えなければならないだろうし、仮に長年の憎悪の気持ちがあったとしてもそれが「殺戮」に結びつくことに対する躊躇の念といったものはルワンダの人が学ばなければならないものであったろう。
それは「民主主義」とか「人間主義」とか活字で表せば簡単に見えるが、要するに「隣人を殺さない」というもっとも基本的、本源的な愛の姿とも思える。だが、これは「近代的」ではない。というのはそういった他者を殺さない、ましてや隣人は、というヒューマニズムはホロコーストの時代に十分破壊されたからである。
ルワンダの虐殺がプロパガンダに載せられ、刀で切り裂くという方法に未開の人間の「後進性」によって説明することは容易い。けれど、イラク攻撃になんの正当性もなかったのが明らかになったのに2万人の非戦闘員が亡くなっていることを悲しむアメリカの姿がないように、アメリカもそれに加担している日本や西側諸国も十分に「後進的」である。
ルワンダではラジオがプロパガンダの役目を担い、それに踊らされた民衆が狂気となった。インターネットなど様々な情報を個人が選択して受け止められる時代にプロパガンダに踊らされることなどあり得ないか。否。中国の「反日」言説、あるいはその逆の「反中」言説を見よ。それらは一定広がることもあるし、無視されることもあるし、それら言説自体が何らかの意図を持ったものであるならば。
おそらくはルワンダの「戦後」はもちろん終わってはいない。そしてもはやほんの10年前のルワンダ虐殺が「歴史」になっているならば、私たちはこれからも殺し続け、殺している人を止めようとはしないだろう。ジェノサイドの丘は遠いのだ。

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2 コメント

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はじめまして (オギノフ)
2006-02-13 23:03:11
なんか上手いこと書けないのですが、なかなかリアルな映画だったように思います。

「国連」ってあんなもんなのでしょうか?

あの組織に対して、より懐疑的になりました。

コメントありがとうございます (kenro)
2006-02-14 23:36:03
オギノフさん、ありがとうございます。配給権の関係で、この作品の公開が遅れたこと、上映する映画館が少ないことを残念に思います。それにしても日本のジェノサイド(南京「事件」とか)をあつかった映画って、記録映画を除いてはないですよね。

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