kenroのミニコミ

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民主主義の最後の砦 「パブリック 図書館の奇跡」

2020-07-24 | 映画

public(名詞)1 一般の人々、一般大衆2 〜界、仲間(研究社「新和英中辞典」)。日常的に使っている辞典だが、使いこなしていない。publicにはその後にいろんな単語がついてその見出し語30超。あるいはこのブログでも紹介したが、美術の世界だがメトロポリタン美術館では所蔵作品の知的財産権の期間が切れた(70年)作品の画像は自由に使用していいとなっている、これもpublic domainというが、「共有財産」と訳される。

原題の「public」には「公的」と感じる意味以外に様々な意味や概念、社会、集団そしてそれらを構成する人たちの理念などが包含されている語だ。そしてpublicの前に、当然だがTheという定冠詞がつくところがミソだ。

おそらく原題だけでは伝わらないので日本題「図書館の奇跡」とついたのは故なしではない。図書館には奇跡をもたらす何かがあるのだから。自分では買えないような本も図書館では借りられる。出版されたことをそもそも知らなかった本に出会える。新聞をいくつも読み比べられる。そして小さな子どもから老人まで色々な人が出入りしている。そして無料だ。

シンシナティの公共図書館の館員スチュワートは地味で実直。図書館で昼間過ごし、閉館後は道端に帰っていく顔なじみのホームレスにからかわれながらも充実した日々。大寒波が襲った夜、馴染みのホームレス、ジャクソンが「帰らない。ここを占拠する」と告げる。街では凍死者が続出しているのにシェルターが満杯なのだ。無策の市政にうんざりし、これ以上犠牲者を出さないため約70人のホームレスとともに図書館にこもることを決めたスチュワートと同僚のマイラ。市長選に出馬する検察官ディヴィスは人気取りのために強硬策を主張し、息子がホームレスとなって探している市警察の幹部ラムステッドが交渉役に。視聴率を取りたいメディアは「人質事件だ」「武装しているかも」とどんどん煽る。最初はスチュワートに冷たかった館長のアンダーソンも同意して立てこもりに加わる。地味なスチュワートが思い切った行動に出たのは、自身が若いころ、酒とドラッグに溺れ、ホームレスとなり逮捕歴もあったが、本に救われ、立ち直り図書館に雇われたからだ。雇ったのがアンダーソンだった。いよいよ警察が強行突入してくると察したスチュワートらの行動は。

おとぎ話である。アメリカらしいといえば、らしい。しかし、そのらしさを見習わなければならない部分がある。図書館の役割だ。図書館は本を貸し出し、ネットが使えるだけの場所ではない。市民に情報を届けるだけではない、どんな情報を欲しているのかを手助けし、時にはビジネス支援までするという。ビジネス支援というのは、あるホームレスが図書館のパソコンでビジネスを始めたのを禁止するのではなく、必要なサポートをするというのだ。「彼がホームレスのままでいるより、自立した方が彼にとっても市(社会)にとっても有益だ」ニューヨーク公共図書館の話だ。市民のニーズは書籍やネットだけではない。そこから広がる知見や希望に寄り添うがのが「公共」の役割というのだ。

ニューヨークは毎年の冬、多くの凍死者の報道がなされ、そもそもホームレスの数が日本などおよびもつかないほど多い。しかし、冷たさという点では2019年、台風19号が首都圏を襲った際、東京都台東区がホームレスの避難所への受け入れを拒否した。「公共とは、誰かを排除するものではなくて、誰であっても受け入れるという考えに基づかなければならない」(武田砂鉄)。そして「図書館は民主主義の最後の砦」(館長のアンダーソン)なのだ。

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