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生きたい

2020-06-23 16:48:16 | ④映画、テレビ、ラジオ、動画
「裸の島」の成功で、近代映画協会は解散をせずに済んだ。
1998年、近代映画協会製作(公開は1999年)、新藤兼人監督「生きたい」を観る。
乙羽信子が生きていらしたら、老婆の役だっただろうか。
この映画の老婆役の吉田日出子は素晴らしかった。
22年前の映画なので54歳のはずだが、70歳の老婆にしか見えない。

この映画は三國連太郎扮する、所かまわず大便をもらす老人の日常と、
老人がたまたま手にする「姥捨て伝説」を描いた本とがオーバーラップしている。
吉田日出子扮する老婆は、「姨捨て伝説」の方に出てくる。
老人ばかりが多い小さな寒村では、70歳になると姥捨て山に行かなくてはならない。
この村の息子二人には、嫁になる若い女性がいない。それが心残りだ。
嫁をもらうチャンスは、夫を亡くした人が出た時だけだ。
夫を亡くした人が出ると、村中の人たちが集まってくじを引く。
くじを当てた家が、その人を嫁として迎えることができるのだ。

今回はこの老婆がくじを引き当てて、嫁を迎えることができた。
これで心置きなく姥捨て山に行ける。
一家はその準備に取りかかる。老婆をおぶう背負子(しょいこ)、
息子が履いてゆく草履、姥捨て山で敷く筵(むしろ)。
いよいよその日を迎える。
嘴太鴉(はしぶとからす)が巧みに使われている。
鴉は生きているうちは人間を喰わない。
山を登り谷を下り、やがて老婆と息子は鴉や野犬が待ち受ける仏が谷に着く。
息子が去った後、雪の降る中を老婆は筵に坐り合掌する。
その姿は、この世の物とは思えぬほど神々しく美しかった。

三國連太郎扮する老人は、躁鬱病を抱える娘(大竹しのぶ)、バーのマダム(大谷直子)、
医師(柄本明)などと騒動を引き起こす。
これだけだったら、騒々しい物語に終わってしまっていたことだろう。
だが「姥捨て伝説」を入れることで、映画に深みが出たように思う。
老いるとはかくも残酷なものか、と姥捨て山に行く年齢になり痛切に思う。
せめて排泄が一人で出来るうちに、あの世に行きたいものだ。

老人ホームの院長役で麿赤児が出ている。
このワンシーンだけで映画が引き締まる。
また、菊地凛子がこの映画でデビューしている。   (敬称略)








(画像はお借りしました)

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