家はもうすぐ。
いつものように、見通しの悪いクネクネ道を走っていると、限界集落の夜、にしては珍しく対向車が向こうからやって来た。カーブミラーで確認し、車を停めて待つ。
ん?来ない。いつまでたっても来ない。
ははあ、ネ。
と了解したわたしは、車を進める。
運転手は・・・齢81になる我が母かもしれないと思ったわたしの思惑はハズレた。
そりゃそうだ。あの人ならもっとイケイケで突っこんでくるわ、と考えて思わず苦笑い。
実際は・・・四捨五入すると九十になんなんとする人が運転していた。ご苦労なことだ。
ふと、20年以上前の出来事を思い出す。
その当時の現場近く、側溝などに何度も何度も車を落っことすおジイさんがいた。あるとき、深い溝に片輪を落とし路上で途方に暮れる彼と出くわし、やっとこさ上げてやったあと、わたしは冷たくこう言い放った。
「もう車へ乗られんぜ。人に迷惑をかけるキ」
そのときは、至極当然、かえって親切なことを言ったと自分では思っていた。だが今となっては、そのとき吐いた言葉が恥ずかしい。
好き好んで車を運転している人ばかりじゃない。車がなければ日々の暮らしが成り立たないのだ。それをして、「モータリゼーションに毒されている」と言われようとどうしようと、それが日本の田舎の現実なのだ。
あのオジさんやこのオバさんは、わたしがいつか行く道。そんなに遠くはない未来である。
齢を重ねないとわからないことがある。
いやいや、若くてもちゃんと分かる人はわかるのだろうから、そういう言い草は卑怯なのかもしれない。なによりまず、おのれの不明を恥じるべきだろう。哀しいかなわたしという人間は、それほどにデキてはいない(ホントにカナシイ)。
限界集落の夜、けっして自分から動いてはなるものかと、対向車をじっと待つ老運転手の脇を通り過ぎながら、「ご苦労なことやなあ」と独りごちる。
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