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再掲 HPVワクチン 多事争論

2011-01-10 | 毎日いんふぇくしょん(編集部)
昨年は新型インフル祭でしたが、今年は不活化ポリオと“子宮頸がんワクチン”(HPVワクチン)祭的様相です。ワクチンはいままで話題になってこなかったので、日本の過渡期ですね。

感染症のネタ帳ブログとしては後の記録としていいのかな、です。
予防接種制度が整い、「あんな頃がありましたね」と振り返る日が早くきますように。


HPVワクチンについてはいろいろな意見があります。

保健医療関係者は根拠として、疫学情報や臨床試験データをエビデンスとして検討しますが、その数字さえ疑う人もいます(話はそこですでにかみあいません)。

大まかに分類してみました。(本当はもっとサブグループがあります。わかりやすいよう、おおまかに、です)

【究極の反対・否定・無関心群】
ワクチンそのものに反対。ホメオパシーにはまっている人。ナチュラル系の方。

このグループの特徴:HPVワクチンの情報そのものを詳しくは検討していません。
補足ですが、全てを否定しているのではなく、麻疹と三種混合だけはやっておこう、という中道派もいます。“女性の健康”として関心を寄せている人、周囲にがん患者がいたというような個人的な体験から、接種に関心を持っている人もいます。

でも、この人達には接種を勧めても笑顔でスルーされる可能性が高い(「ウチはいりません」)。


【アンチHPVワクチン群】
反対の理由はいろいろ。

このグループの特徴:科学的、医学的根拠に乏しい、統計データ含め解釈がまちがっている(意図的かもしれないが)。
しかし、この根底には、若い人に健康でいてほしい、幸せになってほしい、安全であってほしいという願いがあるので、疑問や質問にていねいに答え誤解の修正をはかる意義は大きい。

「乱交をみとめるかのように受け取られる」「そもそも安全かどうかわからない」「道徳破壊」「効果が長続きしない」「ほとんどの人が副作用が出て危険」
Youtube 渡部昇一&新井裕子対談
新井裕子氏は過激(ってなんだ?)な性教育やジェンダーフリー思想に反対の立場。

THINKERはインフルワクチンも反対していますが、HPVワクチンも反対の立場です。どのような理由かを理解するのも大事です。

「ワクチンのアジュバントは家畜の去勢のためにつくられた薬剤を使用しており、1回接種すると不妊になって危険」
いわゆる“陰謀説”なので、そのワールドから違うストーリーに目を向けてもらうのはなかなかたいへん。
デマじゃないか?と検証した人も「子宮頚がん予防ワクチンの危険性」提言に対する調査結果

このグループの特徴:「危ない」「接種しない方がいい」とアピールしていますが、もともとはワクチンを攻撃するのが第一義的ではなく、まじめで危険情報に感度がよいひとたちなので、ワクチンで考えるべき本来の危険因子の話は通じます。


【誤解・混乱群】
「処女じゃないと意味ないらしいよ」等に代表される誤った情報ベースでの消極派。
イタい。周囲にいたら修正を。


【疑念・不安群】
一般に予防接種は大事だと考えており、性教育も子どもの将来の健康のため重要と考えているが、公費化のプロセスが不透明であることや、様々な政治的動きがみえかくれするためにワクチンそのものに不信を抱くにいたっている。
新しいワクチンであること、ネットでみた「痛い」「失神が多い」といったネガティブ
情報をみて不安になっている。

このグループの特徴:接種延期・様子見。「もう少しデータが集積されてから再度考えよう」。納得できる根拠や動機付けを模索中。継続的な情報支援や個別相談が大切。


【慎重論】
予防接種そのものは重視しているが、情報・知識共に多いゆえにHPVワクチンそのものの慎重論と、接種の義務化や公費化の慎重論がある。

例えば公衆衛生の立場 Dr.木村 Blog「メディカル・ジオポリティクス」
HPVワクチンの公費助成にかかるもう一つの懸念

Blog「海蛍の昼行灯」
子宮頚癌ワクチンの問題点

反対をしているのではなく、接種をする人達に対する十分な説明、特に限界を伝える事を重視。
サーバリックスにできることとできないこと

Blog「病院家庭医を目指して」 
家庭医の先生が研修医向け参考資料でまとめた情報
たぶん、現時点で出ている情報にていねいにあたると、こんなところに落ち着くようにおもいます。また新しい情報が出てくれば変化もあるかもしれませんが。

家族に癌の人がいて不安が強い(子宮頸がんは乳がんとちがって遺伝の話は出てませんが)、
もともと健康管理に関心が高く、やれることはなんでもやっておきたい、投資はおしまない、という人たちは接種をすればいいのでしょうし、ライフスタイルとして、コンドームは使いたくない、パートナー限定も難しい(年齢的に、心情的に、職業的にetc.)というような話があれば積極的に検討してもいいのでしょう。

推奨も20代前半くらいまでで、それ以上は医療者側から勧める根拠もみあたりません。

小学校6年生や中学1年生には、「急いで接種する必要はない。でも性交開始前にメリットがある。勉強して考えてみないか?」ということで、先に性教育や健康管理の話をするのが妥当なライン。

おそらく詳しい人はここがボリュームゾーンになるのでは。

ちなみに、“集団接種”慎重論には公衆衛生の立場(費用対効果等)と、学校教育関係者(負荷と責任増大)等あり。

もうひとつの慎重論は「薬害」をたくさんみてきた立場の人たち。
ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン接種に関する当会議の見解(薬害オンブズパースン会議 2010年11月)


【無風群】
「無料でよかった~」「無料ってことは国がすすめているんでしょ?」「ってことは安全で有効ってことだよね?」 基本的に性善説にもとづいている。
積極的に情報収集をしていないので、ポジティブ情報にもネガティブ情報にもアクセスしていない。
おそらく一般人口ではここがボリュームゾーン。


【推進・積極 群】
製薬会社、製薬会社のバックアップのあるNPO、製薬会社とは関係なくこの疾患にとりくむことをミッションとしているNPO、医療関係者(どの程度かは不明)。
一部政党(熱心に署名活動を展開)、一部議員、一部首長「私のおかげで公費になりました」と成果と宣伝中。
一般の人のなかには友人や知人の娘にも接種推奨を個人的にしている人もいる。

婦人科系、思春期系の学会も接種を推奨しています。
いまのところ、学会推奨は一般の人にはあまりインパクトがなさそうです。

このほかに、
【玉虫色系】
厚生労働省:緊急促進予算をつけたが接種は「勧奨せず」。


【苦悩系】
地方自治体:独自の政策ではなく、上から突然ふってきて、「半額は自前でなんとかするように」「しかし国が勧奨しているわけではないので責任は自治体でとるように」といわれて苦戦中。予算確保、情報提供準備におわれている。

・・・・早いところで1月から、遅いところで春以降の公費接種だそうです。
接種記録をどうするか、前後の疫学データ収集をどうするか、という各国が念入りに準備をして導入にそなえたことは、考えついていないか無視の状況。

このワクチンの効果評価は長期においかけるコホートデータになるので、接種前からの登録・長期間のフォローアップが必要なんですが。

Registration Programがないですよ!
接種した人達が誰か、分母がわからないと、そもそも効果評価できないですよ!

接種された人達も「注射された」けど「何を接種したかわからない」状況に置かれている人が少なからずいます。
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2 コメント

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Unknown (Unknown)
2011-01-10 21:08:28

Youtube 渡部昇一&新井裕子対談見ました。
ここに出てくるアジュバンド関節炎、アジュバンド病の心配はないんでしょうか?
返信する
「誰」が言っているか (編集部)
2011-01-15 09:56:23
ネットでアクセスできる情報が増えたため、今度はどの情報を選んで採用するかという課題が増えましたね。

私は病気や医学の専門でない人達が語る話よりは、ドクターや研究者の話を信用します。

すでに海外でたくさん接種されており、データも不足はしていますが、数年分は蓄積があります。そういったものをみるかぎり、お書きになっているようなことは問題になっていません。

しかし、不安そのものがあちこちであるように、娘に接種したくないと思っている人がたくさんいることも事実です。

「別にいいや」とか「なるべくワクチンはしたくない」という人達に、無理にすすめるようなワクチンでもないということもこのワクチンの特性だとおもいます。
返信する

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