語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】安倍政権の反知性主義  ~官僚の掟(11)~

2019年03月17日 | ●佐藤優
 安倍総理は、2014年11月と2017年9月の2回、衆議院を解散し、その後行われた選挙で圧勝しました。現在は第4次安倍内閣となっています。
 安倍総理は、長く続くデフレ、円高で輸出企業の業績は上がらず、株価は低迷という、停滞していた経済を成長軌道に乗せることを目的に、アベノミクスと呼ばれる経済対策を目玉として打ち出しました。安倍政権発足とほぼ時を同じくして日本銀行総裁に就任した黒田東彦(はるひこ)さんは、デフレ脱却のため消費者物価を2年で2%上昇させることを目標に異次元緩和を行うと大見得を切りました。株価は上がり、失業率も改善されましたが、庶民に景気回復の実感は乏しいと言われています。「2年で2%」は、いまだ達成されることはなく、異次元の金融緩和の出口戦略を立てることもできず、副作用が心配され、いよいよ行き詰まりが見えてきています。
 振り返れば、この政権だって決して平たんな道のりではなかったはずです。ところが、何度か政権維持の危険水位まで低下した支持率は、いつの間にか回復しています。
 政権発足からしばらく、私は安倍政権を反知性主義だとして批判的な立場から論評してきました。反知性主義は「客観性や実証性を無視もしくは軽視して、自分が理解したい形で世界を理解する態度」と定義できると思います。平たく言うと、自分のことが好きで好きでしょうがない人には、そもそも周囲を見るという選択肢がない。国会のような公の場で、安倍総理は感情的になって、非論理的な言葉をまくし立ててすぐムキになります。野次もとばします。安倍総理は64歳です。この歳になっても自分の感情をコントロールできないのかもしれません。しかし、その感情が安倍さんの政治的原動力でもあるのです。
 ロシア文学者の内村剛介氏の著書に『ロシア無頼』(高木書房)があります。エッセイですが、内村氏が体験し、見聞きした事実に基づいた作品で、ロシア人の内面を深く見つめた作品です。この本の中にロシア人のものの考え方の特徴を言い表した「無法をもって法とする」という一文があります。これこそ安倍政権のあり方に重ね合わせて読むべきものと思います。権力の凄みは法的枠組みにとらわれないところにあります。
 反知性主義との戦いは非常に困難です。なぜなら、反知性主義者は知識が足りないだけではなく、知識や知性を憎んでいるからです。憲法をめぐる閣僚の答弁には、知識や知性に対する敬意が感じられません。このような人たちに対して啓蒙による説得は不可能です。しかし、そうだからこそ安倍政権は「強い」のだと思います。「自分が理解したい形で世界を理解する」ために都合のいい要素以外は、いくら正論であっても、雑音にしか聞こえないのでしょう。

□佐藤優『官僚の掟 競争なき「特権階級」の実態』 (朝日新書、2018)の「第1章 こんなに統治しやすい国はない」の「出口戦略も立てられず」を引用

 【参考】
【佐藤優】内閣支持率42%の心理的根拠  ~官僚の掟(10)~
【佐藤優】世論と信頼  ~官僚の掟(9)~
【佐藤優】「劣位」の元キャリアの特徴  ~官僚の掟(8)~
【佐藤優】どの上司に評価されたか  ~官僚の掟(7)~
【佐藤優】官僚は年次がすべて  ~官僚の掟(6)~
【佐藤優】官僚に「落選」はない  ~官僚の掟(5)~
【佐藤優】ソ連官僚の鉄のモラル   ~官僚の掟(4)~
【佐藤優】競争の土俵に上がらない  ~官僚の掟(3)~
【佐藤優】自殺の大蔵、汚職の通産、不倫の外務 ~官僚の掟(2)~
【佐藤優】『官僚の掟』の目次



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