昨年12月30日、
ミュージシャンで音楽プロデューサーの
大瀧詠一氏が突然死去した。
死因は解離性動脈瘤だったとのことだが、
解離性大動脈瘤とは報じられておらず
どの動脈の解離だったかは明らかでない。
動脈解離が大動脈や椎骨動脈に起こった場合、
死に直結する可能性がある。
しかし椎骨動脈の解離では
早期に診断されない場合も多いという。
一体なぜなのか?
Symptoms of Torn Artery Are Easy to Miss 動脈解離の症状は見逃されやすい
By JANE E. BRODY
ブルックリンに住む35才の Karin Satrom さんは妊娠23週までは体調はよかったが、ある夜、「酔っぱらっているかのように、ひどく、ひどくフラフラするように」なったという。彼女の夫は横になるように言ったが彼女は目を閉じていても部屋は回り続けた。
午前中依然として激しくめまいが続き二重に見えたため Satrom さんは主治医に電話をかけたところそのまま New York Methodist Hospital に運ばれた。彼女の症状には妊娠に関連した理由は何も認められなかった。しかし、神経内科医は脳の後半部に血液を供給する頸部の動脈の解離を疑った。
MRI でその診断、椎骨動脈解離が裏付けられ、その結果彼女が経験した一過性脳虚血発作、あるいは mini-stroke(小規模脳梗塞)による永続的な脳の損傷は残されていなかったことも明らかになった。
Satrom さんはただちに Lovenox(一般名エノキサパリンナトリウム=低分子ヘパリン)の注射を受けたが、この抗凝固薬を彼女は、3月ころに赤ちゃんが生まれるまで一日2回注射(皮下注)を続けなければならない。それから、問題の動脈が回復しているかどうかを見るために再度検査が行われることになる。
6週間が過ぎた現在、Satrom さんは「自分の頭部を回転するようなことは何もしないこと、水泳も禁止、運転も禁止」という医師からの命令を忠実に守っており、症状も認められていない。
Los Angeles の Cedars-Sinai Medical Center の神経外科医で椎骨動脈解離の専門家である Wouter I. Schievink 医師によると、Satrom さんが本格的な脳梗塞になる前に彼女の症状を起こしたこの原因に注目した洞察力を有する医師にかかったことは幸運だったという。しかしすべての人が同じように運がいいとは限らない。
解離は、大量の出血を起こすような動脈にあいた穴とは異なる。むしろ、亀裂は血管の内層の一部に生じ、脳への血管の流れを部分的に、あるいは完全に閉塞する血管壁内の血液の貯留を引き起こす。
まれに、解離は、血管の外側の壁の膨隆、すなわち動脈瘤を形成するが、痛みを伴う場合もあれば伴わない場合もある。
椎骨動脈の解離は、若年成人の脳梗塞の最も多い原因の一つであるが、最初は何ら顕著な症状を生じない可能性がある。症状があったとしても、それは頭痛あるいは頸部痛というようにしばしば特異的ではない。手遅れになるまで症状が無視されたり、間違ってはるかに深刻度の低い病気が原因とされてしまうこともある。
Johns Hopkins University School of Medicine の神経内科医の Rebecca F. Gottesman 医師と共著者による1,972人の患者を対象にした75の研究のレビューでは、Satrom さんに見られたようなふらつき、めまいが最も高頻度に訴えられた症状となっていた。めまいは同研究の患者の58%に見られており、頭痛(通常後頭部)は51%、頸部痛は46%だった。
しかし患者のほぼ4分の1は診断時に頭痛や頸部痛を訴えていなかった。
ふらつき、頭痛、および頸部痛はきわめてありふれた症状だが、そのほとんどは椎骨動脈解離に関係しないものである。しかし、そのような症状が突然起こり、それらが尋常でないような場合、遅滞のない緊急の医学的注意が求められると Gottesman 医師はインタビューで答えている。
脳梗塞の最大の危険は動脈が解離を起こしてから初めの2、3週間に訪れることから迅速な診断が重要であると彼女らは述べている。しかし、その割合は不明だが、解離の一部は症状を起こすことはなく、治療を行わなくても自然に治癒すると Gottesman 医師は言う。
椎骨動脈解離はスポーツ外傷や自動車事故で起こり得る。激しい咳やくしゃみ、嘔吐、頸部の過伸展(美容室で起こるような場合や、天井にペンキを塗ったり、ヨガを行うなどでも起こる)あるいはカイロプラクティック手技などの軽微な外傷でも解離がおこることが報告されている。カイロプラクティック手技の役割が議論されているが、それは患者が知らないまま既存の解離の症状となっている頸部痛にカイロプラスティック治療を求める可能性があるからでありそれ自体が原因というわけではない。「もし頸部痛がこれといった理由もなく突然起こったり、多少なりともいつもと違うようであれば、カイロプラクターのところに行く前に考え直すべきです」と Gottersman 医師は言う。
Gottesman 医師の研究では解離を来し得るはっきりとした外傷を訴えた患者は半数以下であり、Ehlers-Danlos 症候群や Marfan 症候群など解離のリスクが高まる結合組織疾患を持つ患者は8%以下であった。
その他の危険因子として、高血圧症、動脈壁に異常な細胞増殖を引き起こす fibromuscular disease(線維筋形成異常)、片頭痛、妊娠(妊娠は全身の結合組織を弛緩する)、および最近の呼吸器感染症などが挙げられる。
重症度は、罹患動脈が頭蓋骨に入る前に解離が起こるかそれとも入った後に解離が起こるかに依存する。後者では症例の半数以上で脳と頭蓋骨の間(くも膜下腔)に出血が起こり、はるかに予後が不良となる。現在、通常動脈構造を強調する造影剤を用いて行われるMRIが、椎骨動脈解離の診断のゴールドスタンダードとなっている。
解離の主たる危険は、血栓の形成、あるいは連続的な血栓形成であり、それが脳に運ばれ脳梗塞を引き起こす。一過性脳虚血発作は、脳梗塞が起こり得るという警告徴候であり、常に深刻に受け取るべきである。
数ヶ月あるいはそれ以上に及ぶ抗凝固薬(多くの場合ワルファリンであり、これは商品名クマディンとして知られる)による治療が、脳を障害する血栓形成を阻止するのに必要である。この治療法を正当化する比較臨床試験はないが、専門家らはその論理を立証している。(Satrom さんは Lovenox を投与されたが、妊娠中はワルファリンよりその方がはるかに安全なためである)
ほとんどの解離が自然に治癒するものの、6ヶ月間の抗凝固療法後も脳梗塞に関連した症状が持続する場合さらなる介入がしばしば必要となる。その際、損傷した動脈はステントあるいはコイルを留置する方法で治療されることがある。
もし解離動脈が完全に閉塞され、有効な抗凝固療法が行われているにもかかわらず症状が起こり続ける場合、動脈の損傷部位に代わる外科的なバイパス術が行われる。
動脈解離とは動脈の壁の内側が裂ける疾患である。
脳動脈の解離はその8割以上が椎骨動脈に発生する。
椎骨動脈は脳のおよそ後ろ3分の1に血液を送る動脈である。
この動脈は首の後側で頸椎の孔を通って頭蓋骨の底の穴から
頭蓋内に入る左右一対の動脈で、頭蓋内に入って左右が合流する。
椎骨動脈が解離を起こし破裂するとくも膜下出血を来し
激しい頭痛を生ずる。
動脈解離の300~600人に一人がくも膜下出血を起こすという。
一方、解離を生じただけでも頭痛を生ずることが多いが、
この場合程度は比較的軽く、片頭痛や緊張型頭痛などと
区別することはほとんど困難である。
また動脈壁の剥がれた箇所から枝分かれする血管の閉塞、
解離した動脈自体の閉塞、あるいは
解離した部分にできた血栓が飛ぶことなどによって脳梗塞を生じる。
椎骨動脈の行き先は脳幹、小脳のため
頭痛・めまいに留まらず、
四肢の麻痺や意識障害など重篤な症状を来すことがある。
なお解離が生じても無症状に経過する場合も見られる。
解離の原因はいまだ解明されていない。
カイロプラクティックなどの頸部への運動ストレス、
スマホなどの使用に伴う頭部姿勢維持の負担、
頭部の打撲や頸部の回旋などが誘因となることもある。
一般に動脈硬化との直接的関係はない。
出血で発症したケースでは再出血を防止するため、
開頭手術や、カテーテルによるコイル塞栓術が行われる。
出血以外のケースに対しては、
解離の状況をMRIなどで追跡しながら、
抗血小板療法や抗凝固療法が選択されるが
有効性のエビデンスはいまだ得られていない。
比較的若年者に
突然の頭痛・頸部痛・めまいなどの症状を見た場合、
本疾患の可能性を常に念頭に置いておく必要がある。
いずれにしても椎骨動脈解離の実態には不明な点も多く、
症例の蓄積が行われているところである。
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