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煩悩を解脱した前期高齢者男のぼやき

“極端”例に本質を探る

2014-01-19 00:15:28 | 健康・病気

肥満は公衆衛生上の大きな問題である。
しかしそれを阻む安全で決定的な抗肥満薬はいまだない。
そこで、肥満が主症状となる極端な疾患をもとに
肥満全体のメカニズムの解明を
目指そうと考える人たちがいるらしい。

1月14日付 New York Times 電子版

Seeking Clues to Obesity in Rare Hunger Disorder 空腹感異常をきたすまれな疾病に肥満の手がかりを探る
By ANDREW POLLACK,

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Kristin Tremblay さんはフロリダ州 Gainesville の自宅で夕食を作るのを手伝っている。彼女には抑えきれないほど空腹となってしまう病気がある。

 Lisa Tremblay さんは、野外のクックアウトで娘の Kristin さんが残飯から蟻まみれになったホットドッグをひっぱり出してまさにそれを食べようとしていた時のことをいまだに恐怖を感じながら思い出す。
 Kristin さんには絶え間なく抑えきれない空腹感がもたらされるまれな遺伝性の疾患がある。Prader-Willi syndrome(プラダ―・ウィリー症候群)というこの病気を持つ人の中には胃が破裂するまで食べて死ぬものもいる。そして当然のことながら患者の多くは肥満である。
 「彼女はドッグ・フードやキャット・フードを食べたこともあります」とフロリダ州 Nokomis に住む Tremblay さんは言う。現在28才の Kristin さんが子供のころ、彼女がひどく空腹であることを訴えるため食事を与えられていないのではないかと近所の人が考えて社会福祉当局に電話をかけたことがあるという。
 かつては良くわからず注目されていない疾患だったこの Prader-Willi 症候群は、ある単純な理由から研究者や製薬会社から多くの注目を集めるようになっている。過食や肥満といったはるかにありふれた公衆衛生上の問題の手がかかりが得られる可能性があるためだ。
 「これらは重症の肥満の素晴らしい人間モデルなのです」と言うのはルイジアナ州 Baton Rouge にある Pennington Biomedical Research Center の元専務理事で教授の Steven B. Heymsfield 博士である。「これらのきわめてまれな疾患の発症機序を解明すれば通常のタイプの肥満解明のヒントが与えられることになるでしょう」
 肥満の人たちの体重を減らすために開発されているある薬が Prader-Willi 症候群の患者で一応の成功の兆しを見せている。この beloranib(ベロラニブ)という薬は、脂肪合成を抑制し、脂肪の利用を促進することで効果を発揮すると考えられている。この薬の開発を行った Zafgen 社によると、小規模なトライアルで体重と体脂肪を減らし、食べ物を求める衝動を低下させたという。
 「Prader-Willi 症候群の患者で実際に試みられとりあえず成功を見たのはこれが最初です」と University of Florida の小児内分泌学の准教授でこの臨床試験の治験主任者である Jennifer Miller 医師は言う。
 Prader-Willi 症候群と一般的な肥満との関連について慎重になるべき理由が存在する。それは両者の背後にあるメカニズムが十分に理解されておらず異なっている可能性があるからである。
 しかし Prader-Willi 症候群の患者運動団体は、同症候群と一般的な肥満の問題とを関連づけることが彼らの疾病に対する学術的ならびに製薬業界的研究を呼び込むことになるという願いからその関連性を積極的に推し進めている。
 一方、Zafgen 社の結果について慎重になる理由も存在する。このトライアルにはわずかに17人しか含まれておらず、その主たる部分はわずかに4週間しか続いていない。また体重減少というこの試験の重要な測定値を含めた一定の尺度では、この薬剤とプラセボの間の差は統計学的に有意ではなかった。
 それでも、Zafgen 社の最高経営責任者の Thomas E. Hughes 氏は、この結果は十分に強力であり同社は Prader-Willi 症候群の治療に beloranib が承認されることをめざすさらに規模の大きい臨床試験を行う予定であると語った。
 「私たちには、治療が間違いなく最も困難な疾病で私どもの薬の有益性を立証する手段が与えられているのです」と彼は言う。
 別の会社、Ferring Pharmaceuticals 社は、同社の薬剤 carbetocin の試験をまもなく開始する予定である。本薬剤は、人間の性愛を促進することからしばしば愛情ホルモンと呼ばれるoxytocin(オキシトシン)と同じ様な働きをする。フランスでの小規模な臨床試験で、オキシトシンは本疾患に関連した行動的問題を改善させるだけでなく食欲も抑える可能性があることが示唆されている。
 新興企業の Rhythm 社も Prader-Willi 症候群に対して実験的肥満薬 RM-493 の試験を行う予定である。減量薬 Belviq を販売する Arena Pharmaceuticals 社も Prader-Willi 症候群は興味深い領域であると述べている。さらにいくつかの学術的試験も進行中で、並外れた活動量となっていると支持者からも声が上がるような状況が生み出されている。
 「2014年と2015年の私たちの最大の問題は試験を行う十分な家系を確保することです」と Foundation for Prader-Willi Research の科学審議会の議長である Theresa Strong 医師は言う。
 Prader-Willi Syndrome Association はこの疾患を持つ米国における患者が少なくとも8,000人はいるとみている。患者のほとんどが15番染色体のかなりの部分を欠失している。同染色体の完全なコピーを二つ持っている例もある。
 強烈な食欲がしっかり見られない場合でも Prader Willi 症候群の患者には遅延した代謝が認められており、彼らが甚だしく体重増加しやすいことを意味している。また大部分の人たちに知的障害や自閉症的行動が見られる。
 患者ならびに介護者にとっては体重を抑制することが持続的な闘いとなっている。
 「私たちは冷蔵庫にも、冷凍庫にも、さらには食糧庫にも鍵を掛けています」14才の息子 Zachary 君が Prader-Willi 症候群である、Denver に住むヘッジファンドのコンサルタント Mark Greenberg 氏は言う。
 この家族は台所のゴミ入れにまで鍵を掛けている。もし Zachary 君が家から出ようとすれば警報が鳴るようにしている。
 食欲は、それが強いことで人間が自立して生活したり仕事を持ったりすることが不可能になることから、非常に大きな問題となる。
 メリーランド州 Baltimore の Jim Kane さんは、高校の卒業証書を持つ娘の Kate さんが他の従業員の食べ物を奪うことでいくつかの職場から解雇されてきたという。
 彼によると彼女は2、3本のグラノーラ・バーを食べようとして空港で万引きをして逮捕されたこともあるという。
 科学者たちには Prader-Willi 症候群の背後にある機序はわかっていないが、強烈な食欲は、空腹をコントロールする脳の領域である視床下部の機能障害に基づいているようである。
 研究者らによると、アルツハイマー病、高コレステロールなど他の疾患におけると同じように、その最も極端なケースや最も早期に発症するケースを研究することにより多くのことが明らかになる可能性があるという。
 「Prader-Willi 症候群においてそれらが明らかにできたとしたら、食欲について信じられないほど多くのヒントがそのメカニズムから得られることになるでしょう」と National Institutes of Health の内分泌学者でこの症候群やその他のまれな摂食に関連する疾病について研究を行っている Joan Han 博士は言う。
 たとえば、彼女自身の研究では、Prader-Willi 症候群の患者の血中では brain-derived neurotropic factor(脳由来神経栄養因子)というたんぱくレベルが低いことを発見している。さらにこのたんぱくの欠損と肥満をと関連づける他の研究もある。
 しかし一部の専門家によると Prader-Willi 症候群の患者は食欲増進ホルモンである ghrelin(グレリン)の値が高いなどの点で他の肥満の人たちと異なっているという。
 「Prader-Willi 症候群には、それが肥満すべての代役、あるいはモデルとはならない可能性を示唆する特異な特徴がいくつか存在します」と Vanderbilt University の Vanderbilt Kennedy Center のセンター長である Elisabeth M. Dykens 氏は言う。彼女は発達障害を研究している。
 しかし、Zafgen 社にとっては Prader-Willi 症候群は比較的限られた投資で市場へのより早い近道となる可能性を示すものである。一般的な肥満の治療として beloranib が早期の試験で良好な結果を示している一方、その使用の承認を得るには重大な副作用を除外するために数千人の患者を対象とした臨床試験が恐らく必要となるだろう。
 一方、Prader-Willi 症候群で承認を得るにはわずかに数十人から数百人の患者での試験が求められるだけで済む可能性がある。また同疾患では治療が切望されていることから副作用に対して寛容となると思われる。さらに Prader-Willi 症候群はまれな疾患であることから、Zafgen 社はOrphan Drug Act(オーファンドラッグ法)の下、優遇税制措置や市場優先権が与えられることになり、製品に対して非常に高い薬価を設定することが可能となる。
 Zafgen 社の beloranib は酵素の methionine aminopeptidase 2(メチオニン・アミノペプチダーゼ2)を阻害することで効果を発揮する。この阻害により、脂肪の燃焼を促進し、その形成を減じるとみられている。
 Zafgen 社の試験の17人の患者はフロリダ州 Gainesville にある Prader-Willi 症候群の患者のためのホームの住人だった。そこでは食餌が厳格に管理されている。この試験期間中、毎日のカロリー摂取量は、beloranib が体重や食欲に影響を及ぼすかどうかをみるのを容易にするため50%増量された。
 Kristin Tremblay さんはこの試験の参加者の一人だった。彼女の母親は、この試験が終了してすぐにKristin が家に帰ってきたとき大きな変化には気付かなかったという。
 しかし奇妙なことに Kristin さんはサラダをたいらげるのに苦労したという。そして、この試験中カロリーが上がったにもかかわらず体重は増えなかった。
 「もう一度それを試みるつもりです。彼女に害を及ぼさなかったことは確かなのですから」と Tremblay さんは言う。

難病情報センターのHPによると
Prader-Willi 症候群は、
1956年内分泌科医のプラダーと神経科医の ウイリーによって
はじめて報告された。
内分泌学的異常として肥満、糖尿病、低身長、性腺機能不全、
などが見られ、
また神経学的異常として発達遅滞、筋緊張低下、
特異な性格障害・行動異常などが特徴的に認められる。
発生頻度は10,000~15,000人に一人で
日本国内には約4,000人の患者がいると推測されている。
本症候群は、
ゲノムインプリンティング(ゲノム刷り込み)の関与が
初めて見出された疾患で ある。
一般に哺乳類は父親と母親から同じ遺伝子を二つ受け継ぐが、
いくつかの遺伝子については片方の親から受け継いだ遺伝子のみが
発現することが知られている。 このように遺伝子が両親の
どちらからもらったか覚えていることを
ゲノムインプリンティングという。
染色体15q11-13領域に存在する遺伝子群は、
その由来が父親か母親かによって働きが異なっているため、
同じ遺伝子異常であっても、
父親由来の遺伝子群の欠失ではPrader-Willi症候群、
母親由来の欠失ではAngelman症候群という全く異なる疾患となる。
Prader-Willi 症候群は
新生児期には筋緊張低下、色素低下、外性器低形成を3大特徴とする。
筋緊張低下により哺乳障害が認められる。
色素低下が著明な場合には白皮症と誤診される場合もある。
また外性器低形成は、女児では目立たないが、
男児では停留精巣が90% 以上に認められる。
3~4歳頃から過食傾向が始まり、
幼児期には肥満、低身長が目立ってくる。
学童期には、学業成績が低下し性格的にはやや頑固となってくる。
思春期頃には、二次性徴発来不全、肥満、低身長が認められ
頑固な性格からパニック障害を示す人がいる。
思春期以降は、肥満、糖尿病、性格障害・行動異常などが
問題となる。
過食は視床下部満腹中枢の障害に起因すると推測されている。
いくら食べても満足感がなく、常に空腹を感じることから、
しばしば盗食も見られる。
年長になるにつれ性格の偏りが顕著となり、
執拗さ、頑固さ、こだわり、あるいは思い込みが強くなり、
周囲とのトラブルが増すようになる。
行動異常では、万引き、虚言癖、など反社会的行動が目立つ場合がある。
最も問題となる合併症は、糖尿病、呼吸障害、側弯症である。
基礎代謝が低く、運動能力も低いことから、体重は増加の一途をたどり、
糖尿病の発症頻度は10歳以上では30%におよぶ。
呼吸障害では、しばしば中枢性と閉塞性の混合性呼吸障害をきたし
低年齢児では突然死が起こることもある。
また、側弯症の頻度は40%を越え
治療で用いられる成長ホルモンとの関連が考えられているが、
詳細はわかっていない。
本症候群に対する根本的な治療はなく
治療指針もいまだ定まっていない。
肥満に対する基本的な食事療法や運動療法、
低身長に対する成長ホルモン投与、
性腺機能不全にたいする性ホルモン治療、
精神的問題に対する向精神薬投与、などが行われる。
糖尿病に対する治療は、摂食異常があることから
血糖のコントロールが困難なことが多い。

以上のように Pladder-Willi 症候群の患者は
激しい過食に加え、性格や行動の問題を抱えているため、
本人はもちろん、家族は苦悩の日々を
送っておられるようである。
プラダ―・ウィリー症候群児親の会HP 参照
これまで有効な治療法がなく
藁をもすがる思いで生きてきた人たちにとって
かすかでも光明の感じられる治療薬が登場してきたことは
大きな救いと思われるにちがいない。

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