hiyamizu's blog

読書記録をメインに、散歩など退職者の日常生活記録、たまの旅行記など

東野圭吾『人魚の眠る家』を読む

2017年09月14日 | 読書2

 

 東野圭吾著『人魚の眠る家』(2015年11月20日幻冬舎発行)を読んだ。

 

 宣伝文句は以下。

娘の小学校受験が終わったら離婚する。そう約束した仮面夫婦の二人。彼等に悲報が届いたのは、面接試験の予行演習の直前だった。娘がプールで溺れた――。病院に駆けつけた二人を待っていたのは残酷な現実。そして医師からは、思いもよらない選択を迫られる。過酷な運命に苦悩する母親。その愛と狂気は成就するのか―。

 

『ラプラスの魔女』に次ぐ、東野圭吾作家デビュー30周年記念第2弾。

 

 ミステリーではない。脳死、臓器提供の問題を提起した重たい小説だ。

 

 

 薫子が和昌に、四つ葉のクローバーを見つけたときの瑞穂の言葉を伝える。

「『瑞穂は幸せだから大丈夫。この葉っぱは誰かのために残しとくといって、そのままにしておいたの。『会ったこともない誰かが幸せになれるようにって」

 

 

 諸外国では心臓が動いていても脳死になれば死と認められるが、日本では臓器提供を承諾しない場合は、脳が機能停止していても心臓死して初めて死とされている。

 脳死に関する日本の判定基準(竹内基準)は、人の死かどうかは関係なく、実際には、臓器提供に踏み切る境界を決める基準で、ポイント・オブ・ノーリターン――この状態になれば蘇生する可能性はゼロという点だという。

・・・子供の長期脳死の例は多い。でも脳死判定後に人工呼吸器から離脱したとか意識を回復したといったケースは、過去に一例たりとも認められておらず、結局は脳死状態が持続した上で心停止に至っています。長期脳死の存在は、臓器提供を前提として脳死判定そのものに影響を与えるものではありません、たとえ背が伸びていようとも。

 

 

 この作品は書下ろし。

 

 

私の評価としては、★★★(三つ星:お勧め)(最大は五つ星)

 

 脳死をテーマとしているが、同時に論理で割り切れない母親のエゴ、業を描いているとも言える。

 

 

 脳死状態にあるのに心臓を機械で動かし続けることは、私には人間に対する冒とくと思える。回復の見込みがないのに人工呼吸器で呼吸させるのも疑問があるが、この小説のように横隔膜ペースメーカーで脳死者の手脚を動かすなどおぞましく、意にかかわらず動かされる脳死者には侮蔑以外のなにものでもないと思う。

 この部分を読んだときは母親の精神が異常になったと思い、これからどうなってしまうのか、先を読むのがいやになった。しかも、母親が包丁を持って錯乱する場面に至り、ハチャメチャだと思った。しかし、さすが東野さん、事態を上手くまとめた。私などの反応は計算づくなのだろう。

 

 以下の出来事が臓器提供を拒否するようになるきっかけになった。

「オネエチャン」生人が小さな声で呼びかけた。

 その時だった。和昌の手の中で、瑞穂の手がぴくりと動いたように感じた。・・・和昌は薫子の顔を見た、すると彼女も、驚いたような表情で彼を見つめていたのだった。

 この部分で思い出した。TVで、放送作家で直木賞受賞の景山民夫が同じようなことを話しているのを聞いたことがある。彼は、おふざけが過ぎるし、幸福の科学に入信するなど私にはあまり良い印象はない。

 しかし、彼には生まれつき寝たきりで何の反応もない子供がいた。いつものように、その子の握った拳の中に指を入れて話しかけていたら、ある時、ちょっと指を握り締めて来たという。彼にはそれが嬉しくて、嬉しくてと、熱っぽく話していた。この話を聞いて、やはり人の親とは、と嬉しく、また哀しくなった。

 

 

 

以下、メモ

 

東野圭吾の履歴&既読本リスト

 

 

 

登場人物

播磨薫子(かおるこ):和昌の妻、瑞穂と生人の母、36歳

播磨和昌(かずまさ):薫子の夫、(株)ハリマテクス社長、薫子とは別居中

播磨瑞穂:薫子と和昌の長女

播磨生人(いくと):瑞穂の弟、薫子と和昌の長男

播磨多津朗:和昌の父、元(株)ハリマテクス社長、75歳

美晴:薫子の妹、若葉の母

千鶴子:薫子と美晴の母

茂彦:薫子と美晴の父

 

新藤:脳神経外科の医師、40代半ば

武藤:看護師

星野裕也:(株)ハリマテクス開発者、32歳

川嶋真緒(まお):星野の恋人、30歳、動物病院の助手

浅岸:横隔膜ペースメーカーの開発者、慶明大学医学部呼吸器外科の准教授

 

新章(しんしょう)房子:特別支援学校の教師で瑞穂に本を読み聞かせる、40歳、表情が乏しい

米川:特別支援学校の教師、30代半ば、瑞穂の世話に心優しく奮闘する

 

門脇五郎:江藤雪乃の心臓移植手術費用募金活動のリーダー、江藤の親友、食品会社社長

松本恵子:江藤雪乃の心臓移植手術費用募金活動に協力

江藤哲弘:雪乃4歳の父、かって門脇五郎とバッテリーを組んだ投手

江藤由香里:雪乃の母、哲弘の妻

 

神崎真紀子:(株)ハリマテクスの和昌の秘書

榎田博貴:薫子のメンタルクリニックの医師

宗吾:不思議とお屋敷に興味をひかれた小学

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