北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

【防衛情報】アメリカ陸軍協会2022年度年次総会のOMFV有人戦闘車両計画とAMPV装甲多目的車両量産

2022-12-27 20:21:44 | 先端軍事テクノロジー
■特報:世界の防衛,最新論点
 アメリカ陸軍協会年次総会に関する話題です。

 アメリカのアメリカンラインメタル社は10月10日から三日間にわたり行われたアメリカ陸軍協会年次総会にリンクス装甲戦闘車を展示しました。リンクス装甲戦闘車は増加装甲で50tの戦闘重量を有する恐らく世界最高度の防御力を有する装甲戦闘車であり、ドイツ連邦軍に配備されているプーマ装甲戦闘車をも上回る防御力と戦闘重量を有している。

 OMFV有人戦闘車両計画として、アメリカ陸軍は1980年代より運用されているブラッドレイ装甲戦闘車の後継車両を模索しています。開発当時は23tという戦闘重量は以前に導入されていたM-113装甲車を大幅に上回るものですが、増加装甲の装着により戦闘重量は30tを越えているものの、これ以上の防御力強化は懸架装置等の面で限界を超える事になる。

 リンクス装甲戦闘車は50mmCTA機関砲と対戦車ミサイル搭載した無人砲塔型がアメリカ陸軍へ提示されていますが、OMFV有人戦闘車両計画はアメリカンラインメタル社の他、ジェネラルダイナミクスランドシステムズGDLS社やBAEシステムズ社とオシュコシディフェンス社など5社が参加し、2027年までに選定し2030年から量産を予定しています。

 アメリカのジェネラルダイナミクスランドシステムズGDLS社は10月10日から三日間にわたり行われたアメリカ陸軍協会年次総会においてストライカーX将来装輪装甲車の概念実証車輛を発表しました。ストライカーXはハイブリッド動力方式を採用し、静粛性と高い監視能力及び歩兵分隊へより大きな収容能力や各種端末用電力供給能力を有しています。

 ストライカー装輪装甲車は戦車旅団と軽歩兵旅団の中間を担うミディアム旅団構想として1998年に当時のエリックシンセキ陸軍参謀総長が進めた緊急展開能力に長けた機械化部隊という概念の具現化であり、新しい装備に思われるストライカー装甲車も、元々は1980年代に形作られたLAV3シリーズ、従って2020年代の装輪装甲車と比べて見劣りします。

 LAV3シリーズ、この原型となったピラーニャシリーズは既にピラーニャⅤが量産されており、二世代ほど古く特に防御力の面で近年の装輪装甲車は正面装甲が大口径機関砲に耐える等の高い水準となっています。この為、ストライカーXは動力体系を近代化するとともに防御力なども強化されており、MUM-T有人無人協同戦闘にも対応する装甲車となります。

 アメリカ陸軍はブラッドレイ装甲戦闘車後継車両に高度なAI人工知能搭載を希望しています。OMFV有人戦闘車両計画にはAI 対応のターゲティングとナビゲーションの二要素が不可欠である、とさえ発言があったのは、アメリカ陸軍協会年次総会の装甲戦闘車分科会における次世代戦闘車両開発調整部の統括官を務めるジェフリーノーマン少将の発言だ。

 AI対応のターゲティングとナビゲーション、これは主砲やミサイルなどの目標識別とともに歩兵の下車展開や脅威情報を瞬時に選別し歩兵の生存性を確保すると共に主力戦車の支援を行う、また必要だと判断するならば自動運転により回避行動や戦術機動を行うなど、装甲戦闘車に求める能力そのものが変化している事を反映させるものとなっています。

 アメリカ国防総省はAI人工知能開発へ多額の研究予算を割いており、2021会計年度では25億ドルが投じられ685の研究プロジェクトが推進中です、これは2016会計年度のAI関連研究予算の6億ドルをはるかに上回る水準であり、これらの研究プロジェクトの内232は陸軍のAI開発とされ、所謂産業分野に留まらずAI人工知能の有用性を認識しています。

 アメリカ陸軍はAMPV装甲多目的車両の量産を加速する方針とのこと。AMPV装甲多目的車両は長らく運用してきましたM-113装甲車の後継として、ブラッドレイ装甲戦闘車の車体部分を共通車輛とする多目的装甲車で、BAEシステムズ社がアメリカ国内において生産し供給しているもの。当初は年間生産数を削減する計画でしたが、逆転したかたちです。

 AMPV装甲多目的車両の量産を加速する背景には、ロシア軍のウクライナ侵攻を受けアメリカが行った多数の武器援助の中にM-113装甲車が多数含まれていた点で、少なくとも200両がウクライナへ渡され、特に錯綜地形や泥濘地における歩兵の機動用に重宝、当初は第三世代戦車に随伴できない機動力などアメリカでの低い評価を一新する働きをみせている。

 M-113装甲車のウクライナ供与による減勢を受け、しかし当初はCOVID-19新型コロナウィルス感染症による生産能力低下などを受け、AMPVの年間生産数を減らす計画であり、計画当初の年産190両の調達計画を年産131両まで下方修正されていました。この計画を当初の190両以上まで増強できないかを、アメリカ陸軍はBAE社と交渉中とのことです。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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台湾海峡の緊張,中間線付近中国軍演習と尖閣諸島領海侵犯に沖縄近海中国空母-同時並行の事象を全体像で考える

2022-12-27 07:00:18 | 国際・政治
■臨時情報-台湾海峡情勢
 物事は全体像で見ると印象が一新する事が多い。

 クリスマスに世界中がにぎわう頃の25日、中国人民解放軍は台湾の台湾を管区とする東部戦区部隊を中心に大規模な軍事演習を実施、26日までの24時間で、台湾海峡の中間線付近を71機の軍用機が飛び交い、うち60機が戦闘機であったとのこと。台湾海峡の緊張、少なくない可能性として演習に見せかけた奇襲の準備とも受け取れる故に緊張するのです。

 中国政府は、今回の軍事演習について、アメリカと台湾が挑発行為を行ったためといわれていますが、アメリカ軍と台湾中華民国軍の合同演習は1970年代以降実施されておらず、この挑発行為というものは昨今の中国政府による台湾武力統一に関する公言を受けてのアメリカ議会での100億ドル規模の台湾援助にかんする法整備を示していると考えられます。

 防衛省の発表では、中国海軍航空母艦が沖縄周辺海域を遊弋するとともに120回以上の艦載機発着訓練を実施していて、また同じ時期に中国公船による沖縄県尖閣諸島への72時間以上にわたる、過去にない異例の長時間にわたる領海侵犯事案が発生、ひとつひとつの事案をみますと過去の延長に見えるものですが、繋ぎますと異常な事態の全体像が浮かぶ。

 台湾海峡、この重要性については改めて示すまでもありませんが、日本と東南アジアとの多国間国際分業による製造業サプライチェーンの骨幹を担っています。ただ、日中関係についても貿易関係において切れない関係がある。他方で、貿易関係が太くとも有事というものは起こる際には起こるというのが、第一次世界大戦のころから続いている現実です。

 難しいのは、大きな損耗を受けるために相手が有事という軍事行動に出ることを躊躇、論理が抑止力として機能するという期待があったのですが、国運をかけてという優先度で国家の方針を画定する場合、ロシアのウクライナ侵攻、いたや日本が真珠湾を攻撃した際の政策決定過程をみればわかるのですが、常識を度外視して一線を越える例があるのですね。

 台湾海峡での大規模演習、またかと思う。公船の尖閣諸島領海侵犯、またかと思う。中国空母の南西諸島近海での訓練、またかと思う。こうなるのかもしれませんが、数年前であれば一回行われるだけで大騒ぎしていた事案が頻度が高くなり、そして同時期に平行して発生する、日米を沖縄と九州南方で遮断しつつ台湾に侵攻、この訓練と思えなくもない。

 周辺事態、かつてはこうした定義で日本周辺の有事について考えられていましたが、台湾有事について、アメリカ軍がとるであろう行動はいろいろと認識されていますが、日本は憲法上の集団的自衛権公使の制約から、そのときを想定しての日米共同訓練を実施できていません。そして、台湾とアメリカについても起こるまでわからない状況がある。

 戦争を回避することは必要なことであり多くのかたの願いですが、戦争の起こる要員と、本腰を入れて戦争を回避する努力、回避する努力だけでは相手の国運をかけてでも開戦するというような意思を押さえられない場合は相応の覚悟で封じ込める覚悟がなければ、回避したいと考えていたことは現実のものとなる、こうした認識が必要なのかもしれません。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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