北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

航空宇宙自衛隊の宇宙戦争能力【2】宇宙作戦群人員僅か70名,情報収集衛星無し宇宙教育基盤無しで人員不足

2022-12-15 20:11:41 | 国際・政治
統合運用と宇宙方面隊が必要
 指揮官1佐で人員70名というとウルトラ警備隊やMAT怪獣攻撃隊ならば成立つ任務かもしれませんが。

 宇宙作戦群、航空自衛隊は2022年の改編で従来の宇宙作戦隊について増強を行い、第一宇宙作戦隊と第二宇宙作戦隊を隷下とする宇宙作戦群を創設しました。これは宇宙分野への第一歩と考えられたのですが、宇宙作戦群司令は1佐が補職されていて、人員規模名70名です。もちろん増員はするのでしょうが、名称が一人歩きしているとの印象が拭えません。

 宇宙方面隊を創設し、独自の情報収集衛星を運用するとともに広範囲の宇宙空間を監視するレーダー施設や光学監視施設を、市街地などの光の影響を受けにくい小笠原諸島や南西諸島に配置した上で航空宇宙自衛隊とする、名称だけというのは順番が逆なのではないかな、と考えます。それとも政府は宇宙要員について大幅な増員を考えているのでしょうか。

 欧州はじめ航空宇宙軍の実例はある、しかし日本との違いで、航空宇宙軍を創設した諸国は独自の人工衛星を有しているとともに、核兵器国など事実上の核保有国であり、宇宙空間へ長らく関与してきたという実例があるのに対して、日本は情報収集衛星を政府として運用はしているのですが、運用は内閣衛星情報センターが統括、自衛隊は運用していない。

 宇宙を目指すのはよいですし、名称を改称して意気込みを新たにする、という気概は評価されるべきなのかもしれませんが、人員規模4万7000名の航空自衛隊にあって、宇宙関連の専門部隊人員は70名、人工衛星も宇宙監視施設もなし、宇宙方面隊や宇宙集団のような機能もありません、大幅な改編を行うなら兎も角今のところ名称のみという点が気になる。

 問題は更に、装備の面があります。宇宙軍を空軍から独立させたアメリカ宇宙軍では宇宙旅団が創設されていますが、装備についてペトリオットミサイルの一部を陸軍から移管したものの、宇宙領域と防空領域の中間で装備の区分に苦労しているようです。ただ、ミサイル防衛など大量の予算と人員を食う任務を集約できるならば、話は違ってくるでしょう。

 ミサイル防衛を例えば弾道弾について航空自衛隊の所管とし、イージス艦をミサイル防衛から艦隊防空任務へ回帰させられるならば海上自衛隊としては賛成するでしょう、またイージスアショアの運用と警備を所管として提示された陸上自衛隊も中止されているイージスアショアが仮に再開された場合でも所管は航空自衛隊ならば、賛成するかもしれません。

 逆の視点に立ちますと、宇宙分野は元より自衛隊の統合運用を不十分のまま宇宙は航空宇宙自衛隊の所管だと決定しますと、航空自衛隊の責任と任務に海上自衛隊と航空自衛隊の宇宙分野を押し付けられる懸念があるのです。それよりも先にアメリカの統合軍方式の、本土防衛司令部や太平洋防衛司令部と極東防空司令部のような常設司令部を置く方が先だ。

 情報収集衛星を内閣府から自衛隊に移管、人員を十分確保しその上でミサイル防衛も大半を航空宇宙自衛隊に移管する、かつての海上自衛隊プログラム業務隊のような大規模なプログラミング専門部隊を航空自衛隊隷下に構築し、衛星管制運用能力を高める、そして硫黄島や沖之鳥島、宮古島などに宇宙監視施設を新設する、理想としてはこうしたところか。

 70名規模の宇宙部隊、実のところ問題となるのは人材の確保でしょうか。日本は宇宙開発分野が停滞していますので、宇宙人材は大学で養成されていても宇宙産業という受け手が無い状況です。ただ、問題は肝心の防衛大学校において宇宙人材は教育していませんし、また宇宙人材であっても航空自衛隊が専従で宇宙関連の人材を集めているわけでもない。

 人材の獲得と施設及び装備の強化が重要です。これは例えば防衛省のサイバー人材獲得の失敗、求める能力水準の高さに対して低すぎる俸給を提示し失敗したことを受け、宇宙教育隊など宇宙分野の人材養成を自前で行う覚悟も必要です。そこまで覚悟はあるのか、と。自前で人材を養成しないのであれば現在の自衛官の待遇で宇宙人材は集まるのか、とも。

 宇宙の名称を加えることについて、実態を伴う程度に人員と装備を拡充するならば問題はない、しかしキラー衛星などの運用を考えず、そして内閣府から情報収集衛星の移管も行わず、また航空自衛隊独自の情報収集衛星や宇宙監視施設の創設を行わないのであれば、民間人材の登用を念頭に内閣府隷下に"宇宙保安庁"を創設した方がよいのかもしれません。

 防衛費GDP1%からGDP2%へ拡大する流れとともに、航空宇宙自衛隊という理念先行の組織が構築されようとしているのですが、宇宙分野は陸海空が関与しており統合運用が未着手の現状では理念が先を行き過ぎている、そして衛星も何も持たず人員70名の宇宙作戦群だけで航空自衛隊全体で宇宙作戦準備の受け皿が無い、この解決が重要となるでしょう。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
(第二北大路機関: http://harunakurama.blog10.fc2.com/記事補完-投稿応答-時事備忘録をあわせてお読みください)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

海底戦争!イギリス-深海6000m海底警戒監視能力整備へ,ノルドストリーム2攻撃事案により認識される新戦場

2022-12-15 07:00:17 | 防衛・安全保障
■狙われる海底通信ケーブル
 auの今年夏の大規模通信障害は当日富士学校祭ということで東京の友人と合流しようとした際に大変なこととなりました、現代は何もかも通信によりなりたっている。

 深海は新しい防衛の最前線となりつつある、現在政府は宇宙領域を新たな戦場と認識し航空自衛隊を航空宇宙自衛隊へ改称する準備を進めています。しかし、宇宙と共に深海が次の戦場として強く認識される可能性があります、何故なら太平洋や大西洋にインド洋、深海には各国を結ぶ光ファイバー通信網が整備され、情報通信の可否を左右するためです。

 海底通信ケーブル、海中の任務であれば海上自衛隊のP-1哨戒機や護衛艦あさひ型の対潜戦闘能力の高さで対応できる、こう思われるかもしれませんが深海となりますと対潜魚雷の射程外とともに、恐らくソナーも数千mの深海を探索する能力は想定していません。そして深海調査は自衛隊の任務ではなく、想定されていない戦域、というべきでしょう。

 フンガトンガフアパイ火山、2021年にトンガにおいて発生した大規模火山噴火は、噴火丘はもちろん火山島そのものを吹飛ばし、強烈なブラストは遠く日本へも衝撃波による気圧変化という過去にない条件により津波を発生させ、到達するところとなりました。しかしそれ以上に、巨大噴火はトンガ海底通信ケーブルを遮断、二週間に渡り通信不能となった。

 世界は2021年の火山噴火と云う自然災害によるものとはいえ、海底通信ケーブルの遮断が国家単位での通信不能の要因となり、一方先進国であっても衛星通信が発達した今日に在ってなお大容量通信の海底通信ケーブルへの依存度の高さを認識した一方、ノルドストリーム2欧州ガスパイプライン破壊工作事件、こうした事案は2022年9月に発生しました。

 イギリス国防省、ロシアが深海調査艇による海底通信ケーブル攻撃の懸念を、ロシア軍ウクライナ侵攻とともに日欧米などが一致し経済制裁を実施した際の激しい反発を受け、海底通信ケーブルへのロシアが攻撃能力を有する点へ警鐘をならしていましたが、今回そのイギリスが2400万ポンドを投じて海底警戒監視能力の構築に着手したという出来事が。

 空母クイーンエリザベス随伴艦となる補給艦一隻の建造を中止し、2億5000万ポンドの建造計画を変更、二隻の海洋観測艦を中古船舶の改装により取得する検討が為されており、これたの海洋観測艦により、大洋底の、6000m程度の深海までを無人深海調査艇により警戒監視し、海底ケーブル付近での不審な深海調査艇などの有無を警戒するとのことです。

 防衛予算の際限なき拡大に連日反論する論点で掲載している北大路機関ではありますが、仮に日本と各国を結ぶ海底通信ケーブルなどへ脅威が及んだ場合には、対応するのは海上保安庁か海上自衛隊か。相手が軍艦であれば海上自衛隊の任務となるのですが、軍事作戦ではなく特殊作戦、非対称型の戦いとして行われるのが海底施設への攻撃、所管は何処か。

 非対称型の戦いとなりますと、これはノルドストリーム2破壊工作などを見ても分かる通り、防衛出動命令か海上警備行動命令がなければ行動できない海上自衛隊の所掌ではないのかもしれません、しかし所管がどこであれ、海底通信ケーブルは例えば夏のau携帯電話大規模通信障害よりも遥かに深刻な状況となります、この戦場を認識する事が、必要でしょう。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
(第二北大路機関: http://harunakurama.blog10.fc2.com/記事補完-投稿応答-時事備忘録をあわせてお読みください)
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする