僕の家内は招き猫が好き

個人的なエッセイ?

小さな箱

2018年06月02日 | Wish
母親は、可愛い色をした、小さな箱のふたを開けました。

私は、その小箱を見つめながら、
手を合わせて、お経を読み始めました。

5月25日に、嫁いだ娘さんをガンで喪った、檀家さんが、
「娘のために、お経をあげてください」と、私に言いました。

お葬式は、福岡で行いました。
けれど、実の親として、娘の生まれ育った家で、冥福を祈りたい。

親としての、自然な感情でした。

仏壇には、笑顔の写真。
そして、お骨を入れた、小箱がひとつ。

「お願いをして、分骨してもらいました」
分骨の是非は、私には言えませんでした。

お経の後、ご両親とお話をしました。
お父さんが、娘さんの最後を看取ったそうです。

「亡くなる前日まで、果物を食べていました。
 おいしいって、喜んでくれました。

 子供に戻ったように、お父さんって、甘えるんですよ」

それが翌日、目の焦点が合わなくなり、
気が付くと呼吸をしていませんでした。

酸素吸入をしたのですが、手遅れでした。

娘さんが入院をして、初めて病室に泊まった、お父さん。
娘さんの最後を、ひとり見つめていました。

「こうして少しずつ、娘のことを忘れていくのでしょうね・・・」

『そんなことはありません』
口からこぼれそうになる言葉を、私は飲み込みました。

その言葉に、込められた思い。
娘を喪った人にしかわからない、感情。

「決して弱音を吐かない娘が、
 死ぬのが怖いって、泣きながら言った姿が忘れられない」

大切な子供。

仏壇に置かれた小さな箱に、私は万感の思いを込めて、手を合わせました。




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