日刊イオ

月刊イオがおくる日刊編集後記

朝日バッシング

2014-09-12 09:00:00 | (瑛)のブログ
 朝日新聞へのすさまじい攻撃が続いている。

 ことの発端は、朝日新聞が発表した「吉田発言の撤回」だ。「吉田発言」とは、戦時中に山口県労務報国会下関支部の動員部長だったと語る吉田清治氏(故人)が、日本の植民地だった朝鮮の済州道で、「慰安婦」にするため女性を暴力的に無理やり連れ出したと講演や著書で証言したことを指す。朝日新聞は、吉田氏の発言を記事やコラムで取り上げてきたが、1997年に「真偽は確認できない」との記事を掲載し、今年8月5日には「慰安婦問題を考える」という特集を組み、再取材の結果、「証言は虚偽だと判断し、記事を取り消します」とした。

 「吉田発言」の撤回後、官民あげてのバッシングが始まった。自民党の国会議員はもちろん、菅官房長官にいたっては、5日午前の記者会見で、日本政府に対して元日本軍「慰安婦」への謝罪や賠償を求めた国連人権委員会の「クマラスワミ報告」について、「その報告書の一部が、先般、朝日新聞が取り消した記事の内容に影響を受けていることは間違いないと思う。わが国としては強制連行を証明する客観資料は確認されていないと思う」とのべた。

 誤報は訂正されるべきだが、性奴隷問題の否定に朝日新聞の「吉田発言撤回」がまんまと利用されている。安倍政権が得意とする「問題のすり替え」が、じわじわと世論に浸透し、「朝日が日本を貶めた」かの様相だ。

 しかし、日本政府がただの一度でも、朝鮮の女性たちを性奴隷にしたことを、みずから反省し、調査したことがあっただろうか。日本政府は、敗戦後半世紀近くもこの問題への関与を否定し続けた。この問題に光をあてたのは他でもない、当の被害者たちだったことを今一度、想起したい。

「民間業者が従軍慰安婦を軍とともに連れ歩いた」(1991年6月6日、労働省局長、参議院予算委員会)との発言を聞いた韓国在住の金学順さん(故人)は、同年8月に日本軍「慰安婦」だったことを名乗り出た。被害者の勇気ある訴えがこの問題を大きく動かしたのだ。その後、国内外から非難が続出するや、日本政府は官房長官談話で政府の関与を認める(92年7月)に至り、93年8月の「河野談話」で、慰安所の設置や管理、「慰安婦」の移送に「旧日本軍が直接、あるいは間接に関与した」と認めた。

 国連からもクマラスワミ特別報告官らが直接日本に足を運び「日本軍性奴隷制度」という言葉が国連の正式用語となり、日本政府に賠償、謝罪を求める勧告が出されたが、日本政府は1995年に民間基金を発足させただけで、国家、法的責任は果たしていない。朝鮮民主主義人民共和国に暮らす被害者にいたっては証言の聞き取りすらしなかった。

河野談話が生んだ民間基金は、日本政府の法的、国家的な責任を回避する不十分なものだったが、それでもこの「談話」や基金は、日本政府が被害者の声を受け止め、やっとたどり着いた「到達点」だった。

 胸にとどめるべきは、被害者が声をあげなければ、世界にこの問題が知られることはなかったという事実だ。

 今年に入ってイオで始めた連載「日本軍『慰安婦』の肖像」では、来週発刊される10月号まで含めると、20人の女性の証言が載っている。朝日バッシングとともに、思い出したくもない過去を語り続ける被害女性への圧力も増している。

 性奴隷被害の全貌を明かすべき責任は、一にも二にも、日本政府にある。それは、当時の日本政府と日本軍が慰安所の設置を発案し、設置に直接関わり、多くのアジア女性の人生をむちゃくちゃにしたからだ。

 週刊新潮や週刊文春に加え、大手新聞までもが鬼の首を取ったかのように「朝日叩き」に加わる日本。マスメディアは権力と一体となり、侵略の過去をないものにしようとしている。(瑛) 
コメント (1)
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