日刊イオ

月刊イオがおくる日刊編集後記

流言ふたたび

2014-09-02 09:00:00 | (相)のブログ
 先週、広島と福岡へ出張した。
 ちょうど広島に滞在している間に、20日に同県北部を襲った豪雨による土砂災害と関連してネット上で流言飛語が行き交った。現地で避難者の留守を狙った空き巣が発生したとの報道を受けて、TwitterなどのSNS上で犯人を「朝鮮人」「中国人」だと決めつける発言が拡散されたのだ。さらには、現地で「自警団」を結成し「空き巣=在日朝鮮人を駆除する」というツイートまで流れた。これらの書き込みに対しては、事実無根だと非難する声がすぐに上がり、広島県警も26日、「外国人の犯罪という情報はない」と噂を否定したことで、一時の騒ぎは沈静化されつつある。
 何か事件が起こるたびに、「在日」を犯人視するのはネット上で半ば様式化している。同様の流言飛語は2011年3月の東日本大震災の時もあった。今回、被災地の治安悪化を思わせるようなニュースが伝わった時、「ああ、またデマが飛ぶかも」という確信めいた予感はあったが、それにしても、だ。
 空き巣発生のニュースにネット上の「在日のしわざ」という悪意ある書き込みが加わり、まとめサイトが「広島の被災地で在日韓国人が火事場泥棒開始!」という扇情的なタイトルで報じる。根拠がまったく示されていないにも関わらず、一部の人々の間ではそれが「事実」として広がった。

 91年前の9月1日に起きた関東大震災の被災地域では、「朝鮮人が井戸に毒を投げ入れた」「放火や強盗をしている」といった流言が広まった。各地に組織された自警団が大勢の朝鮮人を虐殺したことが知られている。
 自然災害などの混乱時における流言やそれを拡散する行為は冗談や遊びでは済まされない。ましてやそれが特定の民族や集団に対する暴力を扇動する内容であるなら、犯罪に等しい行為ではないだろうか。
 昨年の9月にも同じようなことを書いた記憶があるが、今年も書く。警鐘は何度でも鳴らされるべきだろう。1995年の阪神淡路大震災、2011年の東日本大震災の時にはかつての悪夢が繰り返されることはなかった。しかし―。91年前、デマに煽られ自身の差別意識をむき出しにした民衆が官憲とともに朝鮮人や中国人に対する虐殺に手を染めた過去を総括せずにきたこの国で、再び同様の惨劇が起こらないと誰が断言できようか。(相)

コメント (4)
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