Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

トロイラスとクレシダ

2015年07月23日 | 演劇
 世田谷パブリックシアターで「トロイラスとクレシダ」が公演中だ。シェイクスピアの中ではマイナーな芝居だ。どんな芝居なのか、この機会に観てみたいという興味もあったが、じつはもっと直截には、2009年の新国立劇場での「ヘンリー六世」3部作のときのスタッフとキャストが再結集することに惹かれた。

 初めて観るこの芝居、トロイ戦争の一時期を扱っている。長期にわたってダラダラと続く戦争の、中だるみして厭戦気分が漂った時期だ。トロイの王子パリスが、スパルタ王メネレーアスの妃ヘレンを誘拐したことで始まった戦争。そんなバカバカしい戦争に、なぜ多くの犠牲者を出さなければならないのか。両軍ともそう思っているのに、止めることができずに、いつまでも続く戦争。

 人心は荒廃する。トロイの王子で末っ子のトロイラスは、神官カルカスの娘クレシダと恋をする。若い2人は情熱の高まりを抑えきれずに、密かに結ばれる。

 「ロミオとジュリエット」と似た展開だ。でも、そこからが違う。神官カルカスはギリシャ側に寝返っている。娘かわいさの気持ちから、ギリシャ側の総大将アガメムノンに、捕虜と娘クレシダとの交換を願い出る。アガメムノンは認める。

 ギリシャ側に連れてこられたクレシダは、将軍ダイアミディーズに見初められる。最初は拒んでいたクレシダも、心を動かされ、唇を許す。ギリシャの陣営を訪れていたトロイラスは、物陰からそれを見て、自暴自棄になる。

 こんな展開は、悲劇というよりも、反・悲劇だ。グロテスクな現実。生きるためには仕方がない。皆そうやって生きている。笑ってしまう。いや、笑うしかない。

 終わらない戦争とこの展開。なんだか現代的だ。今もどこかで起きている気がする。不可解で不条理な現実。でも、それが現実だと皆知っている。

 英雄的な人物も登場する。トロイの王子で長男のヘクターだ。ギリシャ側に一騎打ちを申し込む。ギリシャ側は、他の思惑も絡んで、右往左往する。ヘクターはぶれない。自分の意思を貫く。だが、この英雄は、崩壊し、かつ荒廃した世界にあって、一人浮いている。ほとんどパロディーのようだ。

 トロイラスは浦井健治、クレシダはソニン、ダイアミディーズは岡本健一。皆さん「ヘンリー六世」のときのキャストだ。ヘクターは吉田栄作。好演だ。トロイ王プライアムには江守徹。さすがの存在感だ。
(2015.7.22.世田谷パブリックシアター)

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