Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

スダーン/東響

2023年12月17日 | 音楽
 桂冠指揮者スダーンの振る東響の定期演奏会は、シューマンの交響曲第1番「春」のマーラー版とブラームスのピアノ四重奏曲第1番のシェーンベルク編曲という、一見オーソドックスだが、ひねりの利いたプログラムだった。

 スダーンは東響の音楽監督在任中にシューマンの全交響曲のマーラー版を振ったそうだが、わたしは聴かなかったので、今回が初見参だ。マーラー版といわれると、身構えてしまうが、佐野旭司氏のプログラムノートによれば、それほど警戒(?)すべき版ではないらしい。以下、引用すると――

 「マーラーの編曲は基本的に原曲に忠実である。しかし、例えば第1楽章の冒頭(トランペットとホルンのユニゾン)でホルンの数を増やしたり、また第2楽章の冒頭主題は本来第1ヴァイオリンのみで奏されるところを第2ヴァイオリンを加えたりと、随所で細かい変更を加えて、旋律を際立たせている。」

 たぶんシューマンの交響曲は演奏の現場では多くの指揮者が多少なりとも手を加えていて、そのマーラー版が残っているということだろう。スダーン指揮東響の演奏を聴きながら、そう思った。マーラー版の意識から逃れられないので、細かい点に注意が向きがちだが、演奏全体は逞しかった。わたしはその演奏からマーラーが指揮したシューマンの演奏を想像しようとしたが、さすがにそれは難しかった。

 プログラムの後半。ブラームスのピアノ四重奏曲第1番のシェーンベルク編曲が始まったとき、わたしは意外にも安堵した。これほど大胆に編曲されると、原曲との違いなど気にならなくなり、思い切りの良さが爽快ですらある。3管編成の大編成のオーケストラが演奏するブラームスの室内楽は、シェーンベルクの難解なイメージにとらわれずに、極上のエンターテインメントとして楽しむべきだろう。

 演奏はシューマンよりも切れ味がよかった。ピッチがぴったり合い、強靭な弦の音が鳴り渡った。加えて、コントラバスの音がドスを利かせた。随所に弦楽器各セクションの首席奏者たちのソロが飛び交う。木管、金管の好プレーは枚挙にいとまがない。グロッケンシュピール、シロフォンなどの各種の打楽器は、突出せずに、全体のアンサンブルの中に収まった。一言で言って、シェーンベルクの編曲のおもしろさが全開した。

 この編曲は指揮者の演奏意欲をそそるらしい。今まで数多くの指揮者で聴いてきたが、スダーンの演奏はその中でもトップクラスのおもしろさだった。東響のメンバーがスダーンを信頼してのびのびと演奏しているように見えたことも印象的だ。
(2023.12.16.サントリーホール)

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