真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「我慢できない女子 エロ妻・サセ妻・ヤリ妻・スケベ妻」(1996『密会の女たち 人妻から女子大生まで』の2011年旧作改題版/製作:IIZUMI Production/提供:Xces Film/脚本・監督:北沢幸雄/企画:稲山悌二・業沖球太/原案:中尾浩二 報知新聞即売面連載『実録/店外デート・女狩り』より/製作:北沢幸雄/撮影:鈴木一博/照明:高原賢一/録音:中村幸雄/編集:北沢幸雄/音楽:TAOKA/助監督:佐藤吏/監督助手:山本和弘・鈴木章浩/撮影助手:飯岡聖英/照明助手:藤森玄一郎/ネガ編集:酒井正次/協力:横浜《関内》ピンサロ『カモン』・新宿性感ヘルス『茄子がママ』・新宿イメージ性感『パパイヤーん』/出演:森下ゆうき・悠木あずみ・西山かおり・佐々木恭輔・頂哲夫・三橋里絵・佐々良淋・神戸顕一・樹かず・矢島俊一・染島みつぐ・清水昌一・ロッキー石橋、他・杉本まこと)。若干名ロストした他出演者は、本篇クレジットのみ。
 朝の山口家、夫・耕治(矢島)の腕時計の不調から金が入用であることをスマートに示す論理性が、さりげなくも光る。娯楽映画といふものは、かくあるべきであらうと感心させられる開巻。妻の幸恵(森下)は耕治を送り出すと、自らもそそくさと横浜・関内のピンサロ「カモン」に出勤する。自分の小遣ひは自分で稼ぐ、と客にはいふものの、住宅ローンの足しにする素振りも窺へぬではない、幸恵は源氏名・メグミの人妻ピンサロ嬢であつた。ここで、純然たる勘でしかないがクレジット順がそのまま登場順なのではないかと思はれる、三橋里絵・佐々良淋と清水昌一・ロッキー石橋は、それぞれホステスと客のAとB。三橋里絵と佐々良淋も、店内限定ではあるが二人ともきちんと脱ぐ。染島みつぐがMCを兼任する店長で、神戸顕一は、金に物をいはせ矢鱈と女達を「カモン」では禁止された店外デートに誘ふ、性質の悪い客・田中。一方、新宿の性感ヘルス「茄子がママ」。竹村梧郎(杉本)が真剣にナナ(悠木)を口説くが、自身が春を鬻(ひさ)ぐ女であることも弁へてしまふと、ナナはどうにも煮え切らない。ナナの、本名は不明。テンポも軽快に、今度は何処ぞの大学、連れ立つて歩く、三人の女子大生と一人の男子学生。不明の他二名と別れた、本田真智子(西山)と彼氏の江口俊夫(樹)。真智子も真智子で、こちらは新宿のイメージ性感「パパイヤーん」の、源氏名は美奈であつた。但し、確か「パパイヤーん」だけは、「カモン」と「茄子がママ」とは異なり店の表が抜かれない、プリントが飛んでゐるのかも知れないが。頂哲夫は、美奈の常連客で同じく大学生の谷島博好。親の町工場を手伝ひ得た金を、「パパイヤーん」に注ぎ込む。「パパイヤーん」ファースト・カット、アイドル歌手に扮した美奈が「私、貴方が好き」といふ同じフレーズを何度も何度も歌ひ、交互に親衛隊役の谷島が「Go!Go!Let's Go!大好き美奈チャーン!」と素頓狂にシャウトする様子を、まるでジョン・カーペンターばりに繰り返し繰り返し頓珍漢な執拗さで反復してみせるのが、妙なツボを爆突きして来る。そんな中、ポップに酔つ払つた耕次が調子に乗り家に連れて来た部下の石川正晴(佐々木)と、後日昼下がりの「カモン」で再会したメグミもとい幸恵は驚く。因みに今作中、夫婦生活が描かれることはない為、矢島俊一は濡れ場の恩恵に与り得ず。
 歓楽街で働く風俗嬢と店の外で関係を持つ、いはゆる店外デートを軸に、三人の女と客の男達との関り合ひを描いた一作。各々の連関ないしは交錯は、一切発生しない。その上で、石川から強ひられた関係も半ば悪びれることの殆どない火遊びと受け流す、幸恵こと一応ビリング・トップの森下ゆうきに関して、最もドラマ性が希薄となつてしまふ不体裁は清々しく否めない。反面、残る二パートは綺麗に充実する。竹村とナナとの、あくまで純愛物語は誠実なハンサムを好演する杉本まことの熱演と、丁寧に積み重ねられるナナの寂寥を表現する描写とに、素直に力を持つ。店に来たのに服すら脱ぎもせず、竹村が買つて来たケーキを二人で食べる件は、殊更に涙腺をチョロ負かせてやらうといふ意図も酌めぬ平温の演出ながら、それでも個人的には、何度観ても泣ける。性感ヘルスで事も致さずに女と洋菓子を食ふ、珍奇とすらいへる光景から透けて迸る、竹村の不器用な真心には何度観ても矢張り泣ける。こちらは今回再見して再認識した、真智子と谷島の一夜の物語も、肩肘張らない純情が爽やかな好篇。美奈の方から店外に誘つておいて、江口からの呼び出しを受けた真智子は、一旦はケロッと谷島をスッポかしてみせる。約束は二十一時、真智子が漸くそのことを思ひ出したのが、翌日二十六時前。そのまま江口の求めに屈し一戦交へつつ、谷島のことを捨てきれない真智子は翌朝早朝、寝こける江口の部屋から脱け出すとタクシーに飛び乗り待ち合はせ場所へと向かふ。とはいへ、人気がすつかり途絶えてからも夜通し美奈を待つた谷島の姿も、終にそこには無かつた。真智子の後悔混じりの落胆を観客にも一旦共有させたところで、呑気にサンドウィッチをパクつく谷島がポケーッと通りがかるロング・ショットが素晴らしい。どちらかといふとバタ臭い、基本オフェンシブな西山かおりと、間の抜けたディフェンシブな頂哲夫を噛ませた配役も何気なく完璧に、何といふこともないままに男と女の純情が共に麗しい、捨て難い名場面。あるいは寧ろ、進んで森下ゆうきには余裕を持たせ悠木あずみと西山かおりの引き立て役に回したとさへ捉へるならば、北沢幸雄の憎いアクロバットが決まる変則的な佳篇。穿ち過ぎであらうことならば判つてゐるつもりだ。

 その他劇中に見切れるのは、石川がピンサロ勤めの秘密をネタに幸恵を呼び出した夜、耕次の左隣に座るたんぽぽおさむ似の妙な男前と、ナナを待ち伏せる「パパイヤーん」表で、竹村と擦れ違ふスッキリして来た男。それと、最早どうでもよかないが、昨今エクセス新版公開時新題の、明後日な絶好調ぶりはもう少しどうにかならないものか。


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