真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「変態肉濡れバイブ」(2000/製作:旦々舎/配給:大蔵映画/脚本・監督:山邦紀/撮影:小山田勝治・新井毅/照明:上妻敏厚・河内大輔/助監督:加藤義一・竹洞哲也/音楽:中空龍/制作:鈴木静夫/出演:上原めぐみ・望月ねね・村上ゆう・杉本まこと・中村和彦・柳東史)。然しまた、ストロング・スタイルにもほどがあるタイトルではある。これが全く過不足なく内容に即してゐる辺りが、恐ろしくも素晴らしいところでもあるのだが。
 鏡の前、パン一で竹刀を振るふ彩花(上原)の姿で開巻。彩花は、自分の女陰には角が生えてゐる、とかいふ幻想に囚はれてゐた。・・・ええと、ちやんとついて来て呉れてゐるかしらん。この映画、これからもつともつと、俄然あるいは轟然とグングン飛ばして行くからね。
 彩花は高校時代の恩師、にして初めての男(杉本まこと、以下役名は失念につき杉本先生と仮称)と剣道の稽古をする。道場を借りることが出来なかつたのか、胴着もバッチリ着用した上で剣道してゐるのが何処ぞのビルの、物置に使用してゐるだけのやうに思しき何の変哲もない部屋であることに触れるのは禁止だ。
 彩花はキャッチの河本(中村)に捕まる。キャッチに付き合ふ気は毛頭ないが、頼みがある、と彩花は河本を人気のないビルの階段の踊り場へと連れ出す。“文化人類学でいふところのフィールドワーク”と称してトマトジュースを口に含んだ上で河本に尺八、いはゆる魚拓ならぬチン拓を取る。フィールドワークのテーマは、“男性器、特に陰茎の機能と形状、及びその個体差”。バカか天才か、その全くどちらかで一切構はない。中間地点でお茶を濁す気などさらさら持ち合はせぬであらう、山邦紀の潔さが清々しい。
 河本は彩花を口説いてゐることを、ボス(村上)に電話報告する。ボスの傍らには、真金髪に髪を染め上げた「鉄のチンポを持つ男」こと通称“アイアンペニス”(柳)。キャッチとしては人が好く、まるで要領を得ない河本をボスがどやしつけてゐるとアイアンペニスは、(河本が彩花をオトすことは)メリーゴーランドで蝶々を捕まへようとするやうなものだ、と。どういふことだい?とボスに尋ねられたアイアンペニス、「自分の軌道でしか動けない馬に乗つて自由に飛ぶ蝶々を捕らへようとするやうなもの、確立は万馬券以下。天文学的数字で、無理!」。ボス「あんたの譬へは当たり前過ぎて詰まらないねえ」。拙筆では全く伝はつてをらぬやも知れないが、この、ボスとアイアンペニスの遣り取りが殆ど漫才で面白い。彩花・ドナ(望月ねね/後出)・杉本先生(仮称)が好き勝手に大暴れして、木端微塵なくらゐに自由な山邦紀のセンス・オブ・ワンダーにあつて、映画の足を巧みに地に着ける。
 彩花を口説き落とす為に、河本は既にモデルとして活動中のドナと引き会はせる。ところが彩花とドナは、彩花は自分の女陰には角が生えてゐる、ドナはドナで自分の女陰の中にはペニスを噛み切る牙が生えてゐる、と互ひの持つ奇妙な幻想からすつかり意気投合する。河本による第一次、ドナを遣はせた第二次と彩花攻略に失敗したボスは、終にアイアンペニスを出動させる。イマジネーションを好きなままに狂ひ咲かせると同時に、このやうに展開自体はオーソドックスに纏め上げ決して映画がトータルとして霧散してしまひはしないやうに、押さへ処はキッチリと押さへておく。山邦紀の夢幻とその裏に隠された冷静な論理とに対しては、何時もながらに脱帽である。
 自慢の剛刀で彩花を陥落させるも、彩花から“形作つて魂入れず”、“お前のチンポには品がないんだよ!”と論破されたアイアンペニスは、すつかり自信を喪失しインポになつてしまふ(大笑)。完全に意気消沈した風のアイアンペニスと、一体どういふ女なんだい!?と電話で河本を再びどやしつけるボス。変幻自在である、山邦紀は本当に面白い。
 河本は杉本先生(仮称)の存在を突き止める。ボスは将を射らずんばまづ馬よりとばかりに、今度はドナを杉本先生の下へと差し向ける。ここから先ラストは、書いてしまひたいのは山々であるがあへて今回は書かない。山邦紀のアクロバティックなロマンティックは更に一層、それこそ他の一切の映画作家の追随を許さないほどに再加速、最加速する。そして何と、エンディングはガールファイト映画として着地してみせるのである。夢幻、奇想、浪漫、そして表面的にはひた隠された、それら全てを統べる冷徹な論理、山邦紀は矢張り最強である。この人を超える存在は、少なくともピンクのフィールドには存在しない。


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