真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「痴漢変態電車」(昭和60/企画・製作:小倉プロ/配給:大蔵映画/監督:北見一郎/脚本:萩原新八/撮影:伊藤英夫/照明:石部肇/編集:室田雄/製作主任:綾瀬直子/演出補佐:成瀬正行/音楽:大蔵笑美子/音響:平田靖/効果:高野藤次/録音:ニューメグロスタジオ/現像:ティー・ビー・エス・エイガ/出演:田口あゆみ・山村裕美《新人》・大田夏実《新人》・ 梓葉子・川倉慶三・吉田純・松本嘉・左甚太・池島ゆたか・坂本昭)。純然たる当てずつぽうでしかないのだが、北見一郎作にのみ脚本を提供してゐる萩原新八といふのは、たとへば小川欽也と水谷一二三の如く、どうも北見一郎の変名臭い気がする、ググると出て来る宇宙友好協会との関係は完全に不明。
 木の枝越しに覗いたグラウンドの俯瞰、バレーコートに寄りかけて、グラウンドを見下ろす高台に三人とも大学生の、女二人と男一人。小説家志望の三郎(川倉)は、彼女・夕子(田口)のルポライター志望に“人の裏表をスッパ抜くやうな職業”と難色を示し、夕子の友達の秋子(山村)が適当に間に入る。どうでもよかないのが田口あゆみは若いころから田口あゆみとして完成してゐて、くたびれた三十路前ホステスのやうな山村裕美といひ、ビリング頭二人が鮮やかなほど女子大生には見えない。兎も角、映画を観に行くといふ三郎にはついて行かず、何となくその場は別れた夕子がぼんやりすると、陸橋を通過する電車のロングにタイトル・イン。役名を併記して呉れるクレジットに、本気で救済された。
 大して混んでもゐない電車に乗る秋子が、下村(池島)の痴漢を被弾。その近くに乗り合はせた夕子は、二人のすぐ横からマイクを向け音声を録音する。何だこれ、画期的なまでに無造作なシークエンスに度肝を抜かれた。帰宅後、録音したテープをオカズに全裸自慰に耽る―秋子は友達ぢやないのか―夕子は俄かに催し、卒論テーマに頭を悩ませる三郎を燃えてるのと電話で呼びつける。“燃えてるの”と来たもんだ、発情した女のダイアローグに、昭和を感じさせる。さて措き、事後三郎に降つて来た卒論のテーマが、「女の性と愛は何処までが真実か」、散文詩でも一節打つつもりか。それを聞かされた秋子の反応がケッサク、「女の性と愛なんて女性週刊誌読んだ方が早いはよ」。脊髄から鼻に抜ける、突き放した秒殺ぶりが笑かせる。
 配役残り坂本昭は、夕子に電車痴漢を仕掛ける三田。ホテルにまでは連れ込むも、チンコを掴まれ逃げられる。結構な山の中にまで足を延ばし下村と青姦を楽しんだ秋子は、自身を見殺しどころか出汁にした夕子に対する報復を依頼。とかいふ次第で下村が頼る吉田純が痴漢の師匠筋のバー店主・矢島で、山村裕美共々まるで新人臭のしない大田夏実は矢島の情婦・美子、松本嘉はチーム矢島の四番手・北島。ラストの電車に藪蛇気味に飛び込んで来るa.k.a.梓ようこの梓葉子とa.k.a.左陣太の左甚太は、夕子が再び目撃する痴漢される女・リカと、痴漢する中村。
 昭和末期の十余年大蔵でローテーションを守つてゐた北見一郎のピンクが、バラ売りDMMで一本だけ見られるのに辿り着き買つてみた昭和60年第二作。因みに当年全十作、どころか、昭和53年から60年まで毎年十本前後大蔵から公開されてゐる。量産型娯楽映画を、現に量産してゐた様はひとまづ麗しい。そして北見一郎といふのは、製作プロダクションにもその名を冠す小倉泰美の変名。といふか、キャリアの大半が北見一郎名義である以上、ex.小倉泰美、小倉泰美が北見一郎に改名したものと捉へるのが、実質的にはより相当であるやうにも思へる。もうひとつの名義とされる氏家彰に関しては、そもそも何処で氏家彰を名乗つてゐたのか判らん。
 映画の中身的には、吉田純や坂本昭が個性的な面構へで画面にアクセントをつける、男優部はそれなりに顔ぶれ豊かな反面、薹の立つた女優部がただでさへ緩々の物語を支へきれず、直截に片付けるならば面白くも何ともない、直截にもほどがある。箸にも棒にもかゝらぬ一山幾ら感が兎にも角にも強く、さうなると寧ろ紛ふことなきプログラムピクチャー・オブ・プログラムピクチャー加減が清々しいとでもいつた以外に、立つ瀬の欠片も見当たらないかに一旦思はせて、一筋の光明が。jmdbで田口あゆみの項に行くと今作は脱けてゐて、北見一郎次作「SM緊縛飼育」の記載はある。となると、消費財としてのポップ・カルチャーの宿命にある意味最も苛烈に殉じ、正直この辺りは最早確かめようにもその術がないとはいへ、「痴漢変態電車」が、田口あゆみの大蔵デビュー作となる可能性はなくもない。少なくとも、「SM緊縛飼育」よりは早い。


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