真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「柔肌天使 今夜も抱いて」(2001/製作:小川企画プロダクション/提供:オーピー映画/監督:小川欽也/脚本:水谷一二三/撮影:図書紀芳/照明:岩崎豊/音楽:OK企画/助監督:寺嶋亮/出演:今井恭子・小川真実・坂井真弓・竹本泰志・なかみつせいじ・小泉博秀・平川直大・樋口大輔・横須賀正一)。脚本の水谷一二三は、小川欽也の変名。
 自室に課長の小島(なかみつ)を招き、エッサカホイサカお盛んな啓子(坂井)、三番手女優の濡れ場で幕を開ける。ケーキなんか片手に、呑気に啓子の部屋へと向ふ彼氏・武(竹本)は、「大事な話つて何だらう?」。あれ?啓子は只今小島と真最中の筈だ。武が啓子宅の合鍵を持つてゐることを観客にキチンと提示しつつ―全く当たり前の手続きでしかないが―案の定、武が部屋に入るとベッドの中の二人を前に正しく桃色の修羅場。顔面蒼白の武に対し啓子は、「貴方にはもう飽きたの。鍵を置いて早く帰つてよ!」。何とも暴力的に無体なオープニング・シークエンスである。今作、小川欽也はさりげなく最後までこのビートを持続する。逃げ帰るやうに武が啓子の部屋を出て行くと、啓子はのうのうと小島に「ねえ、今夜は泊まつてつてえw・・・」。それを受けて小島、「ああ、潮を吹かせてやるよ」。中学生でも書かないやうな脚本ではあるが、安い台詞は安く極める、なかみつせいじの変幻自在の至芸には評価を促したい。なかみつ節のポイントは、「ああ、」の後で更に一呼吸置くところ。武が部屋を後にしたところで、厳密にいへば啓子の役割は既に終つてゐる。にも関らず、それ以降も延々小島との濡れ場が引き続く辺りに関しては、まあピンク映画なので仕方がない。
 武は、バーでヤケ酒をあふる。判り易く訳アリ気味の武に声をかけて来るゲイボーイ役で、横須賀正一がこのカットにのみ贅沢に登場。普通に男前のバーテンダーは誰なのかは不明、出演者クレジットも一切見当たらない。ガード下で客を待つ、街娼のおフェラのお京(小川)と妹分のエンジェル彩(今井)。かつて夢見られた筈の21世紀に逆の方向に時空を超えた、小川欽也の破滅的なアナクロニズムについては、初めからツッコむだけ無駄だ。客が待つといふ電話にお京は出撃、一人残された彩は、傷心を抱へトボトボと歩いて来た武を拾ふ。
 “エンジェル”の異名は、天国気分を味はつた客達によつて名付けられたものだつた。彩の心尽くしに、武は啓子のことも忘れ、一夜限りの恋人気分を満喫する。失恋男・ミーツ・ガード下のエンジェル、ションベン臭い小屋に集ふ男達を慰撫すべく、ある意味百点満点といへば百点満点のプロットではあるのだが。
 一方お京は、暴走族の祐介(小泉)とカズオ(平川)との3Pに挑む。商売女を物のやうに扱ふ性質の悪い客に、お京は酷い目に遭ふ。次の朝武と別れた彩は、家に戻ると傷だらけのお京の姿に激昂。落とし前をつけるべく、お京の制止も聞かずに祐介とカズオの下へ向かふ。樋口大輔は、原宿駅前でたむろする祐介とカズオの、更に舎弟格。“ダイスケ”と呼ばれてゐたやうな気もするが、あまり自信がない。
 結局三人にまんまと拉致られた彩の、辿る運命と迎へる結末は無惨、の一言に正しく尽きる。一月(ひとつき)の間に四十九日が経過してしまふアバウトさは最早さて措き、武がお京から事の顛末を知り愕然とする結末には一見、実も蓋も、一欠片の救ひもないやうにも見える。だが然し、「彩は本当に、エンジェルだつたのか・・・?」と武がガード下に供へた花束に、何者かが舞ひ降りたかのやうに照明が当てられるラスト・ショット。実は大人の御伽噺を誠実に志向した、小川欽也の意思は明確に看て取れる。だからどうした、といはれてしまへばまるで返す言葉もない。確かに返す言葉もないが、当サイトとしては、無下なく断罪し斬り捨ててしまふことも些か躊躇はれる一本ではある。さういふ自らの嗜好が、どちらかといはなくともどうかしてゐることは、一応自覚してはゐるつもりである。ただ判り易さといふものは、一応は娯楽映画のメイン・ウェポンのひとつではある筈だ。


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