真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「いんらん民宿 激しすぎる夜」(2000/製作:小川企画プロダクション/配給:大蔵映画株式会社/監督:小川欽也/撮影:図書紀芳/照明:岩崎豊/助監督:寺嶋亮/音楽:OK企画/編集:フィルムクラフト/スチール:津田一郎/脚本:清水いさお/撮影助手:すえよしまこと/照明助手:酒入康之/監督助手:躰中洋蔵/録音:シネキャビン/効果:東京スクリーンサービス/現像:東映化学/タイトル:ハセガワタイトル/出演:野村しおり・森口千絵・工藤翔子・篠原さゆり・中川大輔・平川ナオヒ・久須美欽一・石原亮次郎・加山洋三)。
 大学生の北村(中川)は自室でカノジョの京子(森口)とベッド・イン、さあて一戦交へるぞといふ段で、実は童貞で婚前交渉にも抵抗を持つ北村は、ついつい二の足を踏む。気まずい雰囲気となり、京子は出て行く。そんなタイミングで、北村に社会人の先輩・西川(平川)から連絡が入る。仕事の休みを取つたので、何処か田舎の方に車で旅行に行かないか、といふのである。さういふ次第で―西川の―オンボロ車で旅に出た二人組が、行く先々で女と出会ひ、セックスして、別れたり別れなかつたりする、基本線としては一応ロードムービーである。
 配役残り野村しおりは二人が最初に拾ふ、家出娘の真理。女優が何故か豪華四人も登場する―全員濡れ場あり―今作の、ビリングが体を現し実質的にも女優メインである。演技は決して達者な部類には入らないにせよ、今でいふツンデレ風な、それはそれとして通用力の高い魅力も備へてゐる。車を運転する西川は、故障したと山中で車を停める。ほんの少し前に、真理を拾ふ前のカットでは入念な日々の整備を北村に自慢してゐた筈なのに。まあ小川欽也の映画なので仕方がない、と観てゐたところ、これが珍しく仕方がなくもなかつた。故障したといふのは、実は西川の策。助けを呼びに北村を走らせ、その隙に二人きりの車中で真理をオトすつもりであつたのだ。とはいへ真理は激しく拒み、車外に飛び出す。泣きながら途方に暮れ暮れ歩いてゐると、再び北村と出会ふ。僕が―西川から―守つてあげるといふ北村と、真理は俄かに距離を近づける。工藤翔子は、車が本当にガス欠で停まつてしまつたのを、助けて呉れた農家の豊子。若い女に寝取られた夫が姿を消して以来、熟れた体を焦がしてゐた豊子は西川に目をつける、勿論手もつける
 豊子の下も後に、一行は再び三人で車を走らせる。篠原さゆりは、何があつたのか一欠片の説明もスッ飛ばし、DQN二人組(石原亮次郎と加山洋三/要はチーフとセカンド)に追はれ車の正面に飛び出して来たフジコ。助けようとした西川と北村は役にも立たずノされるも、取つてつけたやうに柔道の覚えがある真理が二人組を蹴散らす。フジコの父(久須美)は、旅館「権田屋荘」の主人であつた。今度はお礼の形で、三人組は権田屋に厄介になる。因みに権田屋荘は―多分―現在してをり、ロケ地は千葉県長生郡は白子。
 フジコは田舎暮らしに憧れる西川と藪から棒に急接近、工夫に欠ける展開は、工夫もないまゝに御紹介する。フジコが西川―と北村―の部屋で床を作る、そのころ北村は、真理の部屋でしつぽりした雰囲気に。掛け布団を押入れから出さうとしたフジコと、立ち上がらうとした西川がバッティング。弾みで縺れ、西川がフジコに覆ひ被さる体勢で倒れる。小川欽也一流のスチャラカ演出といへばそれまででもあれ、あまりにも絶妙な篠原さゆりと平川ナオヒのアクションが奇跡的な匙加減でシークエンスを救ふ。事に及ぶ二人、不自然なフジコの喘ぎ顔のアップ、何故だかピントもボケ気味だ。さうするとこれまた絶妙な編集で、真理と北村の濡れ場に移行。そのピンボケは、フェード・アウトの代用なのか?   >真偽のほどは勿論不明
 そんな絡みにさりげなく被さるのは、後述する必殺OKエクストリーム!これが出て来ると、どんなにのんべんだらりとした映画にさへ、どうしても騙される。娘と西川が睦み合ふ声に、不意についつい部屋の外から耳を傾ける久須美欽一の小芝居にも、普段は殆ど気づかされない秘められ気味なベテランの地力が垣間見える。
 北村と西川と真理、それぞれが何とはなくそれぞれの道を歩んで行きつつ、調子のいい物語は何ともなく幕を閉ぢる。何時もの他愛もないルーチンワークにしか過ぎないやうな気がしながら、それでゐて鑑賞後の安定感は妙にしつくり来る辺りが不思議。もう、小生の脳細胞はすつかり桃色に腐りきつてゐるゆゑ、あまり真には受けられぬやう。

 後述注:勝手に命名した“OKエクストリーム”とは。(主に)ウッドベースとフルートと木琴とで渋い旋律を聴かせた後、サビに入るとトランペットが♪パパパーパーパパー♪―これだけで伝はる人間が、この星の上に何人ゐるんだ―とド真ん中のエモーションを炸裂させる、OK企画が有する必殺音源。これが流れ始めると、どんな駄作でもついつい錯覚させられる劇伴界のリーサル・ウェポン。


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