真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「バイブ屋の女主人 うねり抜く」(2007/製作:旦々舎/提供:オーピー映画/監督:浜野佐知/脚本:山邦紀/撮影・照明:小山田勝治/撮影助手:大江泰介/照明助手:塚本宣威/助監督:加藤義一・新居あゆみ/協力:横江宏樹/音楽:中空龍/ロケ協力:ラブピースクラブ/キャスティング協力:株式会社スタジオビコロール/出演:北川明花・風間今日子・荒木太郎・吉岡睦雄・平川直大・久須美欽一《声の出演》・安奈とも)。
 “オンナによるオンナのためのセックスグッズストア”を謳ふ、実在する大人のおもちや屋「ラブピースクラブ」。北原みのり代表と浜野佐知との、シネマアートン下北沢公式サイト内に見られる2004年に行はれた対談の中では、自作の劇中に登場するバイブを、浜野佐知が以前から実際にラブピースクラブの通販で求めてゐることも語られる。劇中オーナーのジェーン(北川“新体操の方”明花)は、バイブを自ら試してみながら「いい使ひ心地ね・・・」、「女が作つて、女が使ふ、女の為だけのバイブよ・・・」と悦に入る。開巻即ち、女帝節絶好調である。翻つてみるならば、この好調は今作を通して維持される。一方「人体華道」を提唱し、自らの女陰に花を活けた(自称)アート写真を撮る蘭子(安奈)。蘭子の芸術観の中では、女性器は花を活ける壷であると同時に、花そのものでもあつた。いはんとするところは判らぬでもないが、少なくとも今作中の出来上がりとしては件の人体華道が即物的なヌード写真に過ぎない点に関しては、ひとまづさて措く。恋人で植木職人の匹夫(吉岡)は尻フェチで、観音様ばかりで菊座を等閑視する蘭子に不満を覚えるが、蘭子は肛門にも花を挿すことには、どうにも抵抗を禁じ得なかつた。
 沼の中から姿を現すウィラード大尉よろしく(どうせ無関係か>だからなら書くな)、荒木太郎がベランダの手摺外からアップでせり上がりながら登場すると、デスク・ワーク中のジェーンを急襲する。役者としての荒木太郎の、登場忽ちシークエンスを支配する決定力は未だ衰へてはゐない。日本古来の張形―と春画―を愛好する晴喜(荒木)は、ジェーンの売る西洋風のバイブに対し冒涜であると、お門違ひに思へなくもない激しい敵意を燃やす。こちらは夫婦の寝室で、麻奈(風間)がラブピースクラブのバイブ・カタログに目を落とす。そんな妻の姿に、感興を覚えた目を判り易く輝かせた夫の波男(平川)から「欲しいの?」と振られると、麻奈は一笑に付す。「生・イズ・ベスト」が信条の麻奈は、バイブなど寂しいオナニストの玩具に過ぎないと斬つて捨てる。肉食獣のやうに夫の生の男根を貪る風間今日子は、実にハマリ役。女同士の対決の従順な傍観者たる、平川直大も控へめながら安定してゐる。
 週刊誌に人体華道を酷評された蘭子は、匹夫の勧めでマンネリを打破する為にとラブピースクラブを訪れてみることにする。蘭子はジェーンのバイブの園に、人体華道の新たなフロンティアを見出す。
 と、いふ訳で。肛門性行を推す匹夫×頑強な抵抗を禁じ得ない蘭子。日本古来の張形を愛好し、西洋風のバイブを敵視する晴喜×オンナによるオンナのためのバイブを作り販売するジェーン。生の男性器一辺倒で、バイブを軽視する麻奈×ジェーン。三本の対立軸が、構成も鮮やかに並び立つた。それでは、そこから物語が如何に展開して行くのかといふと。ネタバレにもなつてしまふのは恐縮だが、全て<「挿れてみたら気持ち良かつた☆」>の一点突破で押し切つてしまふのには畏れ入つた。最早清々しさすら感じさせる。小馬鹿にされてゐるやうな気もしないでもないが、同時に、ある意味それはそれとしての潔い真実だとも思へなくもない。山邦紀の確信的な豪腕と、自身の固い信念にジャスト・フィットしたプロットを手に、生き生きと戦闘力の高い濡れ場濡れ場を連ねる浜野佐知の歯車とが上手く噛み合つた快作である。
 片手で二穴責めが可能となるやうに、リスト・バンドから生えた形のアナル・バイブ(手首から先で女陰に挿入する主バイブを操る)や、単独での二穴責めを可能とするやうにと、太股に装着する形のアナル・バイブ。そんなことをするくらゐなら普通に交合すればいいやうな気もするが、いはゆる男が使用するオナホールの先端で、上から跨れば女性器も刺激出来るやうになつてゐるジョイ・トイが登場。世の中こんなものもあるのかと、勉強になる。
 大胆不敵な物語の畳み方に関してはひとまづさて措くと、バイブに関して、決して男性自身の模造品としてだけではなく、女による性の自由を勝ち得る為のアイテムである。といふ視座は、常日頃ピンク映画のフィールドにあつて、男からの女の性の商品化に甘んじることなく、女の側からの、女が気持ちよくなる為のセックスを描きたい、といふ浜野佐知の正しく面目躍如ともいへよう。

 実際に“(声の出演)”とクレジットされる久須美欽一は、剪定の最中も蘭子にうつつを抜かす匹夫に苦言を呈する、クライアントの声役。劇中どうしても必要なピースにも思へない為、正直どうしてわざわざかういふ形で登場してゐるのかよく判らない。徒に想像力を駆使するならば、当初晴喜役にキャスティングされてゐたものの撮影には参加出来なかつた久須美欽一が、アフレコにはどうにか加はつたものであるのやも知れない。


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