真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「三浦あいか 痴漢電車エクスタシー」(2001/製作:フリーク・アウト/提供:オーピー映画/監督:国沢実/脚本:樫原辰郎/撮影:鍋島淳裕/照明:森下彰三/音楽:黒澤祐一郎/助監督:城定秀夫/監督助手:伊藤一平/出演:三浦あいか・里見瑤子・間宮結・田嶋謙一・近藤友弥・山口未知・田中護、他)。ポスターのみ、出演者がもう一人吉崎優子。
 カットの合間合間を小刻みに飛ばしながら、通勤電車の中を乗客を押し分け圧し分け画面奥から手前へと逃げて来る男、白地にシンプルな黒字のタイトル・イン。電車の汽笛に乗つて、タイトルは今度は画面奥にフェイド・アウトして行く。短い時間ながら、この頃の国沢実の充実ぶりを感じさせる、さりげなくもテンションの高いイントロダクションである。
 男は、都庁に勤務する鶴田(田嶋)、痴漢を趣味にしてゐる。絶対に相手に不快な思ひを与へないことを都合のいい信条に、巧みなテクニックも誇り、これまで一度としてお縄を頂戴することもなくその趣味を楽しんで来た。鶴田を追ふ女は栄子(三浦)、廃スナックに鶴田を追ひ込んだ栄子は、痴漢現場を押さへた証拠写真と不意を突いた色仕掛けとで、鶴田を攻略する。鶴田は栄子に、大学院生の清一(近藤)の下へと連れて行かれる。「日本人の性犯罪とその文化」といふ研究テーマで民俗学を専攻する清一は、札片を切り、鶴田に痴漢の指南役になつて呉れることを求める。清一は、大手スーパー・チェーンのフキヤグループの御曹司で、栄子はその侍女のやうな女であつた。清一の高慢な態度に一度は断りつつも、痴漢の証拠写真も盾に、鶴田は渋々話を受ける。清一のことは兎も角として、鶴田には栄子のことが、心の片隅にどうしても引つかゝつてゐた。
 痴漢電車といふ容器に、実直な痴漢師と高慢な御曹司の指南物語を盛り込んだ一作。一にも二にも今作の特徴は、メイン・キャストである三浦あいかと近藤友弥の大根振り。殊に三浦あいかはスレンダーな体躯とメガネも合ひ俟つてまあ見てゐられなくもないのだが、近藤友弥は最早偉大とすらいへる破壊力。とはいへそれでも、初見の時から一貫して、何度観ても愛らしい映画ではある、あくまで個人的には。
 里見瑤子と間宮結は、インカム・マイク装着といふこの上なく怪しい扮装で鶴田の指南を受ける清一が、電車内でそれぞれ痴漢する女。里見瑤子の際には、加熱気味にも何とか鶴田のコントロール下にあつた清一ではあつたが、対間宮結時には完全に暴走する。激しく抵抗する間宮結に万札を握らせると、清一は自室に連れ込む。事に及ばうとしたところを、「舐めんぢやないはよ!」と頬を張られ、完全なる拒絶に遭ふ。すると激昂した清一は薬で間宮結を昏睡させ、手篭めにする。室内にバラ撒き、舞ひ落ちる札束の中で高笑ひしながら清一が間宮結を犯す。スローモーションで描かれるそのシークエンスはまるで、ジョージ秋山のマンガのやうだ!
 続けて清一は、うつかり囮捜査中の女性警官(後述)に手を出してしまふ。鶴田の助けもありどうにか逃げ切るも、清一と鶴田は手錠で繋がれる。手錠で繋がれたまま交互に用を足しながら、清一が―鶴田と栄子と―三人で外国にでも行つて暮らさないか、だなどとガキのやうな薄つぺらい夢を口にする件にも、何といつたらいいのかよく判らないが、作為には欠いた青春映画の、微笑ましい儚さが垣間見える。祖父の権勢を傘に着る清一の、とはいへ傘に着る権勢以外にこれといつた内実も持たない空虚さが、ステレオタイプでしかないといへばそれまででもあるのだが、よく現れてゐる。近藤友弥の堂々たる大根が、却つてその空虚の表現に効果的に作用してゐるとまでいふのは、些か好意的な評価に過ぎるであらうか。
 配役の内、田中護以下他―五人分男の名前がクレジット―は電車内の男性客要員。結局度を越したお痛の末に、清一は祖父から匙を投げられる。南米の大学に無理矢理留学させられることになり、拒む清一は、薬で眠らされ男に連行される。顔の映らない清一を拉致つて行く男は、背格好からすると国沢実か?最後に鶴田は栄子ともう一度寝る。鶴田が目を覚ますと、部屋の中はもぬけの殻であつた、祭りは終つたのだ。山口未知は、職を失ひ、男娼に身をやつした鶴田を買ふデブ年増。ユーモラスに描かれるそのラストも、まるで松田優作の「遊戯シリーズ」のエンディングのやうな味はひである。

 囮捜査中の女性警官といふのが、実は工藤翔子なのだが、クレジットの中には何処にも名前は出て来ない。代りに、ポスターにはクレジットには見当たらない“吉崎優子”なる名前が記載されてゐるのだが、それが変名といふことなのか?


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