真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「不倫女将 濡れた失楽園」(1999『未亡人旅館 したがる若女将』ではなく1998『いんらん旅館 濡れ濡れ若女将』の2008年旧作改題版/製作・配給:新東宝映画/監督:深町章/脚本:周知安/企画:福俵満/撮影:清水正二・飯岡聖英/照明:伊和手健/編集:酒井正次/助監督:高田宝重/出演:しのざきさとみ・相沢知美・西藤尚・杉本まこと・熊谷孝文・池島ゆたか)。脚本の周知安は、片岡修二の変名。
 悦子(相沢)は夫(全く登場せず)にリストラの不安を感じ、家計を助ける為に旅館「偕楽園」でアルバイトする。偕楽園を取り仕切るは社長の松原(池島)と、妻で女将の凛子(しのざき)。冒頭大した意味もなく偕楽園の紹介がてら三組の夫婦客が登場、一組目の旦那は深町章で、三組目の福々しい巨漢が高田宝重、風呂に浸かりながらの抜群の笑顔も見せる。二組目の若い男は飯岡聖英か?三組何れも背中しか見せない妻役は、背格好から多分相沢知美。悦子は実は松原とは男女の仲にあり、関係を持つ度にバイト代―の値上げ―をせびつてゐた。
 当初予定を早めた、隆司(熊谷)・聖子(西藤)の若夫婦が偕楽園を訪れる。特に根拠もないままに、悦子は二人が失楽園カップルではないかと、即ち情死の場を求めて偕楽園にやつて来たものではないのかと邪推する。一方、続けて久木(杉本)が一人で偕楽園に現れる。「役所広司より、あんな男と失楽園したいなあ・・・」と悦子は色めきたつが、実は久木は、不倫相手の凛子を追ひ宿泊客を装つたものだつたのだ。因みに渡辺淳一の『失楽園』がブームの頂点を迎へてゐたのは、旧版封切りの前年1997年である。
 悦子が隆司・聖子夫婦に向けるいい加減な失楽園疑惑が、実際の凛子・久木の不倫関係と十字に交錯する勘違ひドタバタ。ここで勘違ひといふのが、悦子の隆司・聖子夫婦に対する勘違ひと、夫婦客の失楽園疑惑を取り沙汰する悦子と松原に対し、凛子は自分達の不倫がバレてゐるのだと勘違ひするといふ、重層的なものである点が秀逸。二人シャワーを浴びる隆司と聖子に、悦子と松原は聞き耳をたてる。「キスマークだね」といふのを「失楽園だね」と聞き違へるといふのは些かぞんざいな気もするが、後に悦子が「聖ちやんカリ舐めて」といふ隆司の睦言を、「青酸カリ舐めて」と凄まじく豪快に誤解する件には、あんまりも通り過ぎて紙一重を超えた破壊力が漲る。とはいへ総じては展開の細部細部を無理や破綻が生じないやう丁寧に扱ひつつ、何れも充実した濡れ場濡れ場の重ね撃ちの末に、騒動を<ウンコネタ>でオトす作劇は実は一貫して論理的で、完成度は何気なくも高い。そのまま<凛子の脱糞>でヤリ逃げしてしまふ終幕もスラップスティック、あるいはコントとしてはアリかとも思はれるが、地に足を着け直した日々の描写を挿み、何故か魔法少女よろしく箒に跨ると「エイヤッ☆」とジャンプした相沢知美を、真下から捉へた画といふオーラスは、今となつてはそれはそれとして甘酸つぱくもある。

 改めて顧みると、簡潔の極みにして本篇の内容にジャスト・フィットした新題も、中々以上の出来栄えである。


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