真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「巨乳2 はちきれさう」(昭和62/製作・配給:新東宝映画/監督:細山智明/脚本・美術:秋山未来/撮影:志賀葉一/照明:守田芳彦/編集:金子尚樹《金子編集室》/音楽:MAJIN STUDIO/助監督:鬼頭理三/監督助手:土屋尚彦・田村良夫/撮影助手:中松俊裕/照明助手:祖師ヶ谷大蔵/プロデュース:白石俊/スチール:田中欣一/録音:銀座サウンド/効果:工藤効果/現像:東映化学/撮影協力:ビデオクールミント/出演:黒沢ひとみ・志方いつみ・三沢亜也・池島ゆたか・おじじ・久須美欽一・山本竜二・中野D児・平地宏士・橋本杏子・津田まさごろ・秋山未来)。撮影の志賀葉一は、清水正二の変名。
 まさかの映画でなく新東宝ビデオ開巻、濡れ場に際しては巨大なモザイクが入る。女二人でオープンカフェにてお茶、同僚・いちご(橋本)の突然の結婚報告―相手は元客―に驚いた、ホテトル嬢・メロン(黒沢)のポケベルが被弾。いい加減な社長(久須美)は、常連客の予約が入つてゐるメロンを別の客の下に向かはせる。一旦席に戻つたメロンが、いちごに煽られ何時までも続けられる仕事でもないことを、何となく噛み締めてタイトル・イン。一見の影田(池島)と一戦交へたメロンは、改めて立川(おじじ)と二連戦。ここで現代の感覚では衝撃的なのが、当時も今も大定番のマーガリンのブランド名を堂々と出した上で、一物に塗らせた立川が尺八に喜悦する件。いふに事欠いて「矢張りラー○ソフトはいいなあ」と来たもんだ、流石にそこは、リーバ怒鳴り込んでいいぞ。立川から、あるいは立川も、客と嬢としてではない関係をメロンに求める。事務所に帰還、仲良しのりんご(志方)と飲みに行つたメロンは、二人が義務教育を受けてゐた頃からのベテラン・オレンジ(三沢亜也/現:しのざきさとみ)が、社長と男女の仲にある事実を耳にし目を丸くする。りんごもりんごで愛人オファーを受けてゐることに胸騒がされるメロンは、以来繰り返し指名して呉れるやうになる影田からも、結構ストレートに求婚される。浮き足立つ季節、自身の誕生日でもある十二月二十五日に、メロンは時間差で影田と立川にカマをかける。
 配役残り秋山未来は、メロンがよく使ふ―りんごやオレンジも行く―オープンバーのボーイッシュなバーテンダー。山本竜二は何と公園で事に及んだ挙句に、口唇性交から放尿しりんごを激怒させる変態客。原色ファッション含め、貫禄の山竜仕事ではある。津田まさごろは素頓狂なホテトル嬢・チェンジ、もといチェリー。仕方がないから風俗で筆を卸すかと嬢を呼んでみたところ、チェリーちやんが現れたといふシチュエーションは乙であるやうな気もせぬではない、何の話だ。フラワーな中野D児と禁煙トランクスの平地宏士はメロンとリンゴと、乱交に至るのではなくあくまで二つの一対一を併走させる二人客、中野D児が対メロン。
 関根和美や旦々舎にばかり偏つてゐるのも何なので、たまには違つた毛色をと選んだ細山智明昭和62年第一作。因みに結果的にはキャリアを考へる上でも問題の「レズビアンハーレム」の前作に当たり、“巨乳2”と唐突にナンバリングされるからにはファースト巨乳―何だそれ(´・ω・`)―は、三作前の「菊池エリ 巨乳」。無論、真綿色したシクラメンよりも清しくふたつの物語に、連関は一欠片たりとてない。周囲の影響込みで、あれやこれやと揺れ動く出張風俗嬢の女心。絡みは基本スタンダードなものであることと、丁寧に一幕一幕を積み重ねる始終の軸がしつかりしてゐるだけに、珍奇なロケーションや横断歩道に赤電話―しかも何気にワイヤレス―を置いてみたり、強烈に居住性の悪さうな自室にて召集のポケベルが鳴つたメロンが、階下を覗くとそこに影田が入つて来るやうな奇を衒つた演出も、印象的なスパイスの範疇に止(とど)まる。特筆すべきは、オレンジが社長との拗らせた腐れ縁を、滔々とメロンに語る長台詞。筆を滑らせるとしのざきさとみはこんなにお芝居上手かつたかなと面喰はされる、突発的な名場面。何より素晴らしいのは、クリスマスに正面戦を挑むピンクは案外少ない中、奇想天外なロマンティックを振り抜く、一撃必殺のラスト・シーン。寂しい夜に小屋で観て、人知れず憚ることなくダダ泣きしたくなる一作。嘘でいいんだ、今既にある現し世の臭ひが嗅ぎたくて、木戸銭を落とす訳ぢやない。

 ところで、snailmind―“カタツムリの心”を意味する造語―なるユーザー名から御本人作成と思しき、凄いチャンネルに出くはした、一体九ヶ月前に何があつたのか。日芸映画学科の卒業制作が、小川欽也のラインで大蔵から配給されたデビュー作「実録・桃色家族性活」(昭和59)は見たいけれど、ディレクターズカットといへば聞こえがいいものの、要は上げられる尺に刈り込んだダイジェスト版だからなあ。


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