真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「美人家庭教師 欲しがる下半身」(2002/製作:ニューエンタテインメント?/提供:Xces Film/監督:工藤雅典/脚本:橘満八・工藤雅典/プロデューサー:西川友吉/音楽:たつのすけ/撮影:井上明夫/照明:奥村誠/録音:野田正則/ヘア・メイク:MASAMI/編集:南三郎/制作:ピュア/出演:上村ひな・永井真希・速水今日子・片岡命・清水健二・井田延・拓植亮二・なかみつせいじ/友情出演:町田政則)。を、コンマビジョンより2008年にリリースされたDVD題「女子大生教師 不倫の代償」の形でDMM戦。ゆゑにピンク版のクレジットなりビリングとは、あちこち異なるやも知れぬ。土台、助監督や各部セカンド始め、致命的なのは現像のクレジットがない。
 DVDタイトルで見たとはいふものの、開巻即座に愕然とする。なかみつせいじが横たはる上村ひなに無造作に札片を捨てるが如く切る、オープニング・シークエンスの無体さに対してではない。何だこりや、

 ビデオ撮りかよ

 こんなの観たかいな?リアルタイムは素通りしたのかまるで覚えがないが、兎も角話を戻すとデザイン事務所を経営する寺崎磐(なかみつ)が白樺女子大生のアルバイト、兼不倫相手の桐原優香(上村)に投げたのは、退職金名目の手切れ金。口をパクパクと覚束なく絶句する優香の泳ぐ視線が、寺崎家の家族写真を捉へたところでタイトル・イン。そこに至るまでの段取りは豪快に割愛し、タイトル明けると優香が車庫にはロメロも停まる寺崎邸を訪ねる。寺崎を急襲すべくいきなり本丸に乗り込んだ、訳ではその時点では必ずしもない。寺崎の娘で白樺女子を志望する琴美(永井)の家庭教師の座に潜り込むことに何時の間にか成功した優香を、妻の恵里子(速水)が迎へる。だからどうといふ特徴も見当たらないのだが、因みに今作が速水今日子にとつてピンク初陣。恵里子の隣で所在なさげにポケーッと座る琴美の成績は、夏から急降下してゐた。そんな琴美が優香のイヤリングに注目し表情を緩めかけたかに見えるカットは、永井真希の心許なさに伏線認定の半信半疑以前に、結果的には一欠片の意味もありはしなかつた。大丈夫かな、この映画だかVシネ。以降幾度と繰り返される優香の寺崎との回想と、無言電話をかけ続ける―着拒すれば済む話だろ―現況。速水今日子唯一の濡れ場となる短い夫婦生活と、根暗な童貞臭をボサッと爆裂させる琴美の弟・健太(片岡)の顔見せ挿んで、出し抜けに登場し通り過ぎて行く清水健二は琴美の凶悪な彼氏・京介で、井田延と拓植亮二は京介が琴美を物のやうに宛がふ悪友二名。何故かそのレイプ現場に居合はせたのだか尾けてゐたのだかは語られない以上俺は知らんけど、兎に角助けもせずに見てゐた優香はボロボロの状態で帰宅した琴美を素知らぬ顔で保護。百合の香も漂はせながら体を洗つてやる様子を、更に超絶のタイミングで帰宅した健太に覗かせる。ぼちぼち本気を出し優香は加速、恵里子には内緒話を厳命した上で琴美が寺崎の浮気を目撃したとの嘘情報を吹き込み、意図的に前乗りした寺崎家で健太を首尾よく捕獲すると、適当に誘惑した上でパンティをプレゼント。後に姉の家庭教師風景を再び覗かせては、コッソリ自ら裸の尻を晒す、コッソリ尻を出せるのかといふ疑問を持つのは禁止だ。
 工藤雅典ピンク映画第七作、若干超過して総尺も六十三分強だけど、ピンクでカウントしていいんだよね?詰まるところはただならぬ諜報能力を誇るスーパー女子大生が一家丸ごとに仕掛けた、女の武器も駆使しての復讐譚。あ、大事なことを忘れてた、ところで家庭を顧みない寺崎は連夜帰りが遅く、家に出入りする優香の存在をそもそも知らないといふ大方便。バーホーベンな大方便、何となく思ひついたままに書いてみた。そこかしこでK点越えの直截には藪から棒な大飛躍をカッ飛ばし、クリシェばかりの展開にも一旦は唖然としかけたものの、よくよく考へてみると紋切型を排するなり逸脱しようとする無駄な色気のないだけに、案外ひとまづひとつの物語として纏まつてはゐる。指導報告書といふ名の爆弾を軸にしたサスペンスは、順調に導火線を消化した後に綺麗に爆発―有刺鉄線にダイブする大仁田厚よろしく、なかみつせいじの被爆ぶりも絶品―し、まさかのカメオで町田政則が、全てを失つた寺崎に止めを刺しに飛び込んで来るサプライズも嬉しい。ビデオ画質に目を塞がれると見失ひがちになつてしまふのかも知れないが、これでもひとまづひとつの物語として纏まつてゐる分、まだマシな部類であつたのだ。今回で目下全十六作をコンプした格好につき、勢ひに任せ筆を常にも増して滑らせてのけるが、第二作の「美人取立て屋 恥づかしい行為」(1999/主演:青山実樹)と第四作「美人おしやぶり教官 肉体《秘》教習」(2001/主演:岩下由里香/脚本は二作とも橘満八との共同脚本)はいはば紛れ当たりで、残りは第十二作「おひとりさま 三十路OLの性」(2008/主演:友田真希)で幾分以上持ち直したほかは押並べてへべれけかそれ以下の木端微塵。無冠の帝王・新田栄の名前すら既にない、昨今の激減したエクセスの新作製作体制の中にも生き残り、その名前を聞くと何となく有難く構へる空気もあつたやうに見受けつつ、ハッキリいふが実は我々は大概、工藤雅典といふ映画監督を過大評価してゐたのではなからうか。

 ついでに、工藤雅典で逆の意味で一番面白いのはこちらもカテキョものの前作「美人家庭教師 半熟いぢり」(2001/主演:加藤由香)。全篇ボロボロなのだが、ツッコミ処の破壊力が徐々に増して行く一昨日な奇跡が明後日に素晴らしい。


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