人妻とOL あふれる愛液

　「人妻とOL　あふれる愛液」（2006/製作・配給：新東宝映画/監督：佐藤吏/脚本：福原彰/企画：福俵満/プロデューサー：深町章/撮影：長谷川卓也/編集：酒井正次/録音：シネキャビン/助監督：茂木孝幸/スチール：津田一郎/現場応援：広瀬寛巳・田中康文/監督助手：金沢雄大/撮影助手：馬路貴子・成田源/協力：志賀葉一・小川隆史・小林徹哉・オオバカオリ・セメントマッチ/現像：東映ラボ・テック/出演：薫桜子・平沢里菜子・青山えりな・佐々木基子・岡田智宏・本多菊次朗・三浦英幸・千葉尚之）。脚本の福原彰は、企画を務める福俵満の変名。協力の中から志賀葉一は、御馴染みの名前でいへばa.k.a.清水正二。一般映画を撮影する際は概ね志賀葉一名義であるやうだが、何れの名義が本来なのかは知らん。セメントマッチは、池島ゆたかの制作プロダクション。
　下元哲の十八番を狙つた―違へよ―のか、斜のかゝつた幻想的な情景。何本か杭の立つ砂浜に、横山光夫（岡田）が俯せに横たはり死んでゐる。虚ろな表情で、妻の久恵（薫）がそれを見下ろす。久恵のモノローグ、「最近よく見るの、その夢を」。
　若くして住宅建設販売会社の経理部長に抜擢された光夫は、久恵の夢であつた海辺の一軒家を中古ながら購入、幸せな日々を送つてゐた。だが光夫の出世は、社長・富樫繁（本多）の指示のまゝに欠陥マンションの販売と、会社の脱税とを取り仕切つてゐたからであつた。光夫に想ひを寄せる、部下の川上伸子（平沢）からは会社の秘密を出汁に強引に言ひ寄られ、光夫は徐々に追ひ詰められて行く。
　真綿で首を締めつけられるが如く現実的な描写と、予知夢の能力を持つといふ設定の久恵が繰り返し見る幻想とにより、緩やかにではありつつも確実に物語がバッド・エンドを迎へる構成は実にしつかりしてゐる。次第に光夫が壊れて行く過程は、よくぞ抽斗の少ない、といふか殆どひとつふたつしか持ち合はせまい岡田智宏から、これだけ引き出したものだと見応へもある。それは、それとして。この手のお話の異能力者の描かれ方の常として、久恵を何処かしら病的ですらある脆弱なキャラクターとして設定、したつもりなのではあらうが。正味な話、福々しい薫桜子ではどうにもかうにもさういふ柄には見えない。こゝは、麻田真夕か藍山みなみ辺りの役ではなかつたか。加へて、かういふ幻想譚を形にする場合、何処かで全体的なバランスも失する覚悟で、美しさのアクセルを目一杯踏み込んで来る必要もあつたのではないか。幻想パートの描写が終始一本調子で代り映えしないゆゑ、活きがよく手数にも富んだ現実パートに負けてしまひ、オーラスに於ける全体的な作品世界の完成が、若干強度を落とした風にも見受けるものである。
　青山えりなは社長秘書の池内真理、純然たる濡れ場要員として贅沢に登場。佐々木基子は陽気な隣家の富子、脱ぎはしない。三浦英幸はチンピラなのかパンクスなのか微妙に判然としない、伸子の彼氏・浦山哲夫。夫の秘密を知つた久恵は何処行く当てもなく街に彷徨ひ出、酔ひ潰れる。千葉尚之は、介抱するふりをしてホテルに連れ込んだ久恵を犯す渡辺。
　社員要員その他四名と、制服私服の官憲計二名が見切れる。社員の一人は御馴染みグレーの一張羅の広瀬寛巳で、刑事の方は小林徹哉。

　伸子が夜の社内で初めて光夫に迫る件、意図が汲めなくもないのだが、淫らにガチョーンガチョーンと前後左右に動くカメラは一体何なのか。長谷川卓也の手によるものではないのか、それとも佐藤吏のトチ狂つた指示なのか？それと、渡辺が久恵に尺八を強ひるシークエンスで、何を考へてゐるのだか渡辺のチンコ―の根元―視点のカメラといふのは更に全く理解出来ない（笑