好色エロ女房

　「エロ女房VSエロおやじ」（1997『変態熟女　裏わざ表わざ』ではなく『好色エロ女房』の2006年旧作改題版/製作・配給：新東宝映画/監督：深町章/企画・脚本：福俵満/撮影：清水正二・飯岡聖英/照明；伊和手健/編集：酒井正次/スチール：津田一郎/助監督：高田宝重・佐藤吏/録音：シネキャビン/現像：東映化学/出演：林由美香・青木こずえ・しのざきさとみ・相沢知美・池島ゆたか・神戸顕一）。PG誌公式サイト内ピンク映画作品データには、「エロ女房VSエロおやじ」は「変態熟女　裏わざ表わざ」の旧作改題とある。
　まづ初めに、ピンク映画作品データの誤りに関して。近年の新作ならば兎も角、このくらゐ古い映画ともなるとスタッフ・キャストの詳細なデータがネットの中の何処かに存してゐるか、事前に一応チェックする。見つからない場合は、映画を観ながら自力でメモを取り拾つて来なければならないからである。jmdbのデータにはしばしば抜け落ちてゐる部分や、時に誤記があり、俳優部の劇中での役名に関しては、記載されてゐない場合の方が圧倒的に多い。
　さてそこで、こちらがjmdbの「変態熟女　裏わざ表わざ」の項目で、そしてこちらが「好色エロ女房」。スタッフ・キャストとも重複してゐる部分が多いため一見判り辛いが、八幡から殺暑にすつかり屈しながら帰宅後、改めて「変態熟女」のデータを開いてみたところ、どうも腑に落ちない。何処に引つかゝつたのかといふと、助監督。広瀬寛巳ではなかつた、確かにクレジットには高田宝重―とセカンドが佐藤吏―とあつた。そこで深町章前後の近作を当たつてみたところ、それらしき「好色エロ女房」が出て来た。その上で、「変態熟女」と「好色エロ女房」それぞれについて、何か内容に触れた記述が出て来はせぬかとグーグル先生にお尋ねしてみたところ、「変態熟女」に関しては簡単なレビューが、「好色エロ女房」についてはAVの配信サイトから、同じく簡単なストーリー紹介とが出て来た。その、AV配信サイトのストーリー紹介が、今作の内容に全く合致してゐる、といふ次第である。

　ペンネームは六ならぬ団鬼八こと官能小説家の浦月（池島）は稼業のポルノ小説にすつかり厭き、念願である純文学の執筆に取りかゝるべく、進行中の仕事も全て放棄し御馴染み水上荘に篭つてゐた。そんな浦月が、執筆の方は全く進まないまゝに、あつちの女こつちの女とめくるめく情事を重ねるコメディ発中途半端で乱雑なサスペンスである。
　神戸顕一は水上荘の主人、“亭主”と浦月からは呼ばれる。浦月と亭主の軽妙な掛け合ひは、特に中身は全くないのだが息は合つてをり、熟練したベテランの妙手によりそれでも何となく魅せられてしまふ。イナゴ獲りに精を出す亭主と、そこに通りがかつた浦月とのロングショットの一幕などには、何ともいへない風情がある。しのざきさとみは、これまた水上荘映画の劇中何度か観た覚えのある、座敷に囲炉裏があつらへてある居酒屋の女将・カヨコ。鬼八のファンで、自ら浦月に積極的なモーションを仕掛け懇ろになる。相沢知美は、不自然極まりないが一人旅の女子高生・ユリ。山中の神社の境内で浦月と擦れ違ひ、衝動的に欲情した浦月に犯される。後に宿にまで浦月を押しかけ、改めて男女の仲になる。何故か荷物に持つて来てゐたのか、再登場時にはセーラー服姿で現れるに至つて不自然さは加速するが、野暮はいふまい。それはセーラー服を着た若い娘のM字開脚ならば、ピンクに於いては有効であるがゆゑに、不自然を有用性が凌駕するギミックであるに決まつてゐる。撮影当時の実年齢が幾つであるのかは知らないが、相沢知美のあどけないファニーフェイスには、セーラー服がよく似合ふ。而して、そんなユリの正体は実は・・・・？
　青木こずえは、浦月を追ひ駆けて来た女房・妙子。レズビアンである妙子の浮気が発覚し、それ以来夫婦はすつかり疎遠に。浦月は、女房を女に寝取られたことにショックを受けてゐた。結局何だかんだといつて浦月とも事に及ぶ点を鑑みるに、、妙子は正確には両刀といふべきなのかも知れないけれど。林由美香は、同じく浦月を追ひ駆けて来た鬼八の編集者・美稀子、妙子の浮気相手でもある。半ば強引に浦月に迫られセックスしたのち、浦月に鬼八の名義を譲渡するやう迫る。
　と、美稀子が浦月に対し鬼八名義の譲渡を持ちかける件が、起承転結でいふと転部。ここまでは、スムーズに物語が流れてゐたのだが、そこから以降、美稀子が浦月に鬼八を放棄させるべく巡らせる計略が粗雑、映画が乱れる。ラストは、結局団鬼八の名義は失ひ、かつ依然小説の方は一行も書けずじまひの浦月が、何故か帽子を被つたまゝ風呂に入り、カメラに尻を向け浴場の窓から仁王立ちで外の景色を眺めるショット。ガッチャガチャにトッ散らかつた映画を、ある意味豪快な画で無理矢理畳んでのける辺りは、流石歴戦のつはものである、とでもいふべきか。