真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「平成未亡人下宿 痴漢みだら指」(2006/製作・配給:新東宝映画/製作協力:/監督:愛染恭子/脚本:寿希谷健一・愛染恭子/企画:福俵満/プロデューサー:大東正雄/ラインプロデューサー:寿原健二・浅木大/撮影監督:田宮健彦/撮影助手:河戸浩一郎・花村也寸志/助監督:伊藤一平/演出助手:貝原クリス亮・佐藤しゅがー/スチール:山本千里/ヘアメイク:河野顕子/編集:酒井正次/タイトル:道川昭/タイミング:安斎公一/録音:シネキャビン/現像:東映ラボ・テック/スペシャルサンクス:川野浩司・石川二郎・武藤正人/撮影協力:SHUN SUGATA/制作協力:アクトレスワールド・FILM WORKS MOVIE KING/出演:天衣みつ・風間今日子・勝矢・佐藤良洋・寺中寿之・清原武士・愛染恭子・山科薫)。出演者中勝矢が、ポスターには勝矢秀人。
 国土山大学応援団団長・小前野精視(精視が下の名前/勝矢)、弟分で副団(?)の猿股滓夫(佐藤)、講師の尾蒲好男(山科)が下宿する桜井荘。桜井荘の未亡人管理人・桜井良子(愛染)の娘・茶美(天衣)が、アメリカの大学から国土山に編入するために帰国する。何時の間にか撮影されてゐた茶美がモデルのヌード写真集を手に色めき立つ男達は、実物の茶美を前にすつかり虜に。そのことが面白くないのは、従来学園のマドンナであつた橋本礼果(風間)。実は精視に想ひを寄せる礼果は嫉妬の炎を燃やし、茶美を陥れるべく男達を従へて策略を巡らせる。
 とりあへず手短に纏めてはみたが、結局映画の中身は以降、この基本プロットから半歩たりとて進み出ではしない。かつて夢見られた未来の筈の、21世紀も明けてもう六年にもならうといふのに月曜ドラマランドの大昔を髣髴とさせる、人を小馬鹿にしたやうなチープな効果音―音効クレジットはなし―が逐一興を殺ぐ、ストレートにルーズな凡作。愛染恭子のヤル気のなさ、あるいは最大限に履き違へたポップ・センスは凄まじく、物理的な擬音も兎も角、登場人物の心理描写を演技あるいは演出によつてでなく、間抜けなSEで片付けてのける。普通に何時も通りの仕事をしてゐる風間今日子が、有象無象の中で却つて浮いてしまふ、とかいふ妙な違和感も発生する。茶美が何故かモデルになつてゐるヌード写真集に関しても、本当はVシネとして撮影されたものからバッサリ切られたのか、とさへ思へて来るくらゐに清々しく説明不足、消化不足。勿論、展開の中で全く有効に機能してはゐない。そもそも、意匠が機能するだけの物語もへつたくれもありはしないのだが。
 茶美が帰国した夜、精視、滓夫、尾蒲の三馬鹿は茶美の歓迎会にうつゝを抜かす。その件に関して、礼果は約束があつたのに袖に振られた、とか激怒するのだが、愛染恭子はそもそも三馬鹿が礼果と会ふアポイントメントになつてゐた、ところからキチンと描きはしない。藤原健一がついてゐるにも関らず、どうして斯くも自由奔放な映画が撮れるのか。
 歓迎会にて、尾蒲が茶美に牛乳を勧める。一口口をつけるなり、茶美は「腐つてゐる」と牛乳を噴出す。思はせぶりに、尾蒲は牛乳を画面左端の別テーブルに移す。どう見ても、観客はその牛乳に何程かの秘密があると思ふに決まつてゐる。続くカットで、風呂上りの精視が―ヨーグルトだと思ひながら―牛乳を飲む。飲み干すなり、精視は物凄く臭い屁をする。勿論、ここでも成人指定の娯楽映画を何と考へてゐやがるのかと腹立たしくもなるほどの、判り易くはあれ同時に安すぎる放屁音が鳴る。精視が屁をすると、白いトランクスの尻の部分が、ホルスタイン模様に。牛乳に関してはこれで終り、それが描写の全てで、説明は一切ない。小林悟や小川欽也や新田栄や珠瑠美や・・・・(以下略)の映画を観てゐて時に思ふのが、度を越した不作為が思はず不条理の壁さへ越えかねない、正体不明の突破力に眩暈がする。
 配役残り居間時夫は応援団員の居間時夫、清原武士は同じく清原武士。団長の弟分である滓夫に対して、二人は礼果の腰巾着的なポジションにある。清原武士といふ人は、要は新庄剛志に於ける神奈月の如く、清原和博のソックリさんのやうな風貌を―清原のユニフォームを着て、バットを持つて出て来る―してゐるのだが、実際にソックリさん芸人であるのかどうかは不明。精視役の勝矢は、183cm、100kgの体躯を活かし、応援団団長を十二分に熱演。見応へのある暴れぷりは、マンガのやうな映画とはいへ適役といへよう。183cm、100kgといふスペックは、実はこの人、竹内力のリキプロジェクトの所属タレントらしく、そこの公式サイトから出て来た。因みに、そこでの名義も(秀人抜きの)“勝矢”となつてゐる、改名したのかも知れない。何処かで見覚えがあるな、と思ひ足跡を調べてみると、又野誠治の遺作「GUN CRAZY」のEP4に、ヘリコプターの操縦士役で出てゐた。
 一から十を通り越して百までボーン・トゥー・ビー・ルーズな今作にあつて、唯一の救ひは漸く観念して下さつたのか、愛染恭子の濡れ場がない点。終盤滓夫が良子と絡むフラグが立ちかけた描写があり、一瞬本気で肝を冷やしたが、すんでで助かつた。危ふく、終に殺人的な映画にすらなるところであつた。終始割烹着姿の愛染塾長は、心なしか頬の肉が落ち、さうすると元々胡坐をかいてゐた鼻といひ、何だかまるで全盛期のドリフ長屋に於けるいかりや長介のやうだ。

 だとか何とか文句ばかりいひつつも、天衣みつの電車―セット―内での集団痴漢や、ラストでのなし崩し的に風間今日子も交へる乱交シークエンスには、普通に大満足する己の弱さに心底嫌気が差す。仕方もないか、にんげんだもの。


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