真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「覗かれた不倫妻 主人の目の前で…」(1999/製作・配給:新東宝映画/監督:榎本敏郎/脚本:井土紀州・榎本敏郎/企画:福俵満/撮影:斉藤幸一/照明:金子雅勇/音楽:竹原健志/編集:酒井正次/録音:シネ・キャビン/現像:東映化学/助監督:小泉剛・吉田修/撮影助手:三浦耕/応援:横井有紀/協力:小川智子・菅沼隆・大西裕/出演:伊藤猛・川瀬陽太・木全公彦・小林節彦・沢田夏子・さとう樹菜子・伊藤清美・泉由紀子・岸加奈子)。出演者中、泉由紀子がポスターにはいずみゆきこ。撮影助手の次に、ポスター・スチール:元永斉
 汗ばんだ伊藤猛のアップ、玄関先に滴る鮮血。血塗られた箸を抜いて、タイトル・イン。さとう樹菜子と川瀬陽太の絡みを挨拶程度に挿み、よくいへば寡黙な警備員・内藤幸雄(伊藤猛)の、直截に鬱屈した日常。バンドマンの同僚・田村信二(川瀬)を相方に日々の業務をルーチンにこなす内藤は、コンビニに立ち寄り、独居の戸建に明け方帰宅。缶ビールを開け、侘しい食事。室内には遺影なのか、表情は笑顔なものの、映りが陰鬱な岸加奈子のスナップが。一眠りしたのち目覚めた内藤は、カーテン越しに開けた窓の外、室内を窺ふ泉由紀子(連れの女は不明)の気配に気づく。後に明らかとなる泉由紀子の立ち位置は、内藤がゴミの分別をキチンとしないのに、目くじらを立てる御近所。人の家を無闇に覗き込む方が、余程罪が重いやうにしか思へないのだが。どうやら、肉体に影響を及ぼすほどの精神的な問題を抱へるらしき内藤は、昔の彼女・中居か中井か仲井朱美(沢田)と十年近くぶりに偶然再会する。以降も内藤の消耗は進行し、終に行き倒れるやうに崩れ落ちたところに、再び上手い具合に朱美の車が通りがかる。そのまゝ内藤家に運び込まれ、回復した内藤と朱美は、手掴みでケーキを食し汚れた内藤の指を朱美が舐めがてら、焼けぼつくひに火をつける。実に不自然で不愉快なシークエンス、嘘であるのは構はんが、もう少し上手くつけないものか。ところが、沢田夏子を相手にしながら、内藤は勃たなかつた、重ね重ね全く以てけしからん。田村と彼女・マキ(さとう)の二回戦噛ませて、内藤は精神科医・有沢祐子(伊藤清美)のカウンセリングを受ける。その過程で、明らかとなる内藤の過去。内藤の妻・和恵(岸)は、結婚前妻子ある男(小林)と不倫関係にあつた。清算した筈であつたが、それを小林節彦は許さず、結婚後も逢瀬は継続する。それを知つた内藤は、さりとてどうすることも出来ず、何時しか和恵と小林節彦の情事を覗き見るのに快感を覚えるやうになる。更にそれを知り心を病んだ和恵は、内藤は頑なに事故と思ひ込み認めないものの自死する。カットから察するに、浴槽内で手首をカッ切るのが、どうすれば事故たり得るのか。ともあれ以来、内藤は他人の視線に実際の有無も問はず病的に怯えてゐた。
 配役残り、少し遡つて木全公彦は、見られると興奮するとかいふマキに招聘され二人のセックスを覗き、気づいた田村にシメられる、マキのパート先同僚。
 矢張りシリアスな前作「喪服姉妹 タップリ濡らして」(1999/主演:伊藤清美)との間に、渡邊元嗣の「女痴漢捜査官2 バストで御用!」(1999/脚本:波路遙/主演:工藤翔子)に於ける助監督担当も挿んでゐたりする辺りはお茶目な、榎本敏郎1999年第二作。忘れられもしなければ昇華も叶はず、未だ哀しくも屈折した過去に囚はれる男寡が、無造作な泉由紀子には火に油を注がれた挙句藪から棒極まりない主演女優の去就に止めを刺され、苔生したメソッドの中で勝手に追ひ詰められた末に、最終的には暴発する形で自爆する。救ひの欠片もない物語は、清々しく停止する中盤も兎も角、無理気味に起動する終盤が展開の段取りから然程満足ではなく、そもそも、濡れ場に際してノルマごなしを開き直るかのやうな姿勢は、ピンク作家として大いに誠意を欠かう。望まぬならば、撮らねばよい。シネフィルでない我々は、裸映画に木戸銭を落としてゐるのだ。尤も、何も彼にもさて措き伊藤猛映画と割り切つてしまへば、これが案外どころではなく存分に戦へる。薄汚れた小屋のヤニで煤けた銀幕で、カッコよくくすんだ伊藤猛に見惚れる。劇映画本体の出来不出来からは最早独立した、映画用35mmフィルムの消滅と共に喪はれてしまふさういふ愉悦は、それはそれとして以上に捨て難い。表情のみならず抜群に長い手足も猛烈にスクリーンに映える、伊藤猛の佇まひを捉へ倒した画調も味はひ深いショットの威力だけで、十分元の取れる一作である。
 但し、過去パートであるといふ顕示性を狙つたものとはいへ、岸加奈子と小林節彦の出番を全てキネコで処理してしまつた点は、折角の映画の色にミソをつける格好となり、大いに惜しい。

 それもそれとして、先月設備を改善したはしたで、それまでモコモコくぐもつてゐた音が基本大きくなつたのはいいとして今度はバリバリに割れてみせるのが仕方ない、小倉名画座の残念な上映環境にも足を引かれ、細かい台詞が結構悉く聞こえない、電話越しの会話など壊滅的。然し、ただでさへ滑舌に難のある伊藤猛と小林節彦に限らず、加へて割れずとも聞こえ辛い箇所が散見ならぬ散聞されるゆゑ、元々の音響設計から、必ずしも親切なり十全なものではなかつたのかも知れない。

 再見後の付記< 有楽で観ても、電話の会話は矢張り全然聞こえねえよ、結論としては論外だ


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