真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「完熟女将 白い太股と赤い唇」(2002『四十路女将 赤襦袢をまくれ』の2009年旧作改題版/製作:フィルム・ハウス/提供:Xces Film/監督:勝利一/脚本:国見岳志/企画:稲山悌二/プロデューサー:伍代俊介/撮影:創優和/照明:三浦方義/編集:金子尚樹/助監督:加藤義一/監督助手:竹洞哲也/撮影助手:宮永昭典/照明助手:小岩強/ヘアメイク:谷村未来/出演:松山ももか・ゆき・里見瑤子・千葉誠樹・岡田智宏・岡田謙一郎)。
 和料理「古奈美」女将の四宮繭美(松山)は、自身が仲人を務めた今年七組目、通産だと四十九組目ともなる結婚式からの帰りに、若い女を作り大阪で暮らしてゐる筈の元夫・石井喬(岡田謙一郎)と再会する。慶事の繭美に対し、石井は東京出張も兼ねた、大学時代の友人の葬儀に出席して来たところであつた。帰宅後繭美と石井が案外気軽に元夫婦生活を展開してみせるのは、当人同士の勝手と突き放して済ますとしても、グルッと一周して最早愛嬌すら感じられるレベルに到達した松山ももかの、たどたどしい台詞回し以前にといふか加へてといふべきか、この人誰かと瓜二つなんだけどなあ、ともどかしく観てゐたところ、ほどなく自分の中で判明、

  岡本信人と同じ顔だ。

 不完全無欠ともいふべき、喘ぎ声までぎこちない岡本信人に腹かあるいは頭を抱へさせられつつ、事後二人が余韻に浸つてゐると老舗団子屋「白玉屋」若女将の静枝(ゆき)が、回覧板を届けに訪れる。末広がりの八組目、そしてトータルでも区切りの五十組目を目指す繭美は交際相手もゐるといふ静枝に秘かに目をつけるが、元来奥手の静枝は、どうにも煮え切らなかつた。石井も手伝ふのか冷やかすのか、兎も角繭美が開けた「古奈美」に、勿論仲人は繭美が務め寿退職した元アルバイト店員の明日香(里見)が、血相を変へ飛び込んで来る。夫の青木(岡田智宏)が、浮気したとやらですは離婚だといふのだ。そこに青木も嫁を追つて現れ、石井に追ひやられた奥の間にて何といふこともない誤解を解く返す刀で、他人の店だといふのに一戦交へ人騒がせなヨリを戻す。ところで「古奈美」の、カウンター席に見切れる都合二組のカップル客の内、二組目の男の方として、何故か(?)丘尚輝が横顔をさりげなく見せる、その他の面子は不明。既に肉体関係も持つといふ、静枝の意中の相手にして布団のセールスマン・中村(千葉)の話を聞いた繭美は、ひとまづ中村と一回会つてみることにする。ところで中村のアフレコは、千葉誠樹本人ではなくどういう次第か竹本泰志がアテてゐるのだが、思ひのほか違和感はない。
 といふ訳で、布団に興味があるフリをして繭美が中村を自宅に招く件が、今作の明後日なハイライト。一旦寝室に通し今使つてゐる布団を見せ、遅ればせながら茶を出す素振りを匂はせた繭美に中村が固辞したタイミングで、清々しい大根演技を暴発させ「ああ!」とよろめき貧血と称して布団に倒れ込んだ繭美は、そのまま中村の手を自らの体に引き寄せるとあれよあれよと―もしくはあれまあれまと―蓋然性の微塵も感じられない絡みに突入。出鱈目なメソッドで、若い色男を誑し込む熟女といへば、容易に一人の映画監督の名前が代表格として想起されよう。

  小川欽也かよ!

 この底の抜けたシークエンスのためだけに、わざわざ竹本泰志にアテレコさせたのかといふのは絶対に頓珍漢な考へ過ぎに違ひあるまいが、始末に終へぬ主演女優にいつそ開き直つたか、今作の勝利一はアグレッシブな馬鹿馬鹿しさに狙ひを定めるが如くに、ファニーな濡れ場を連発する。繭美V.S.中村戦に続き、床での女の作法を指南するだとかで静枝V.S.石井&繭美の元夫婦連合戦。そもそもさういふ状況が成立してし得るのかといふ点から、現実的にも、静枝のキャラクター造形を踏まへた上でも無防備な飛躍が甚だしいが、挙句にそそくさと自分から服を脱いでしまはうとする静枝を制した繭美が自身の和服の裾を乱し足を覗かせての、「チラリズムよ」の間抜けなアドバイス― いふまでもなく、大絶賛棒読み―も、小粒とはいへピリリと笑かせる。再び明日香が働き始めた「古奈美」を訪ねた青木は、繭美の不在をいいことに、余所様での劇中二度目の夫婦生活を敢行。したはいいものの、エッサカホイサカ佳境に入つた絶妙のタイミングで繭美登場。呆れ顔も見せる繭美に気付いた青木は、「済みません、最後までヤラして下さい」。果てると、少しションボリとして「終りました」。わはははは!何だそりや。実は何時まで経つても大阪には帰らない石井の処遇に関して、最終盤には勝利一らしいロジカルな冴えを見せ、残りのキャストも概ね完璧な仕事ぶりを披露するのだが、そんなこんなも、全ては逆の意味でスリリングな岡本信人が一昨日にケシ飛ばしてのける。かといつてそれも逆手に取れば、別の意味での見所と思へなくもない抱腹絶倒作である。別に、今作を通らなくとも特段困りはしないであらうが、一旦観始めてみたならば、暫く我慢してゐると意外と楽しくなつて来る。

 改めて感じたことだが、岡田謙一郎の安定感は、もつと評価されてもいいやうな気がする。とんと新作に於いてお目にかかれないのは、全く以て寂しい限り。尤も、考へてみれば潤沢に旧作に触れられもするといふことは、実はそれはそれとして豊かなことである、ともいへるのかも知れない。


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コメント
 
 
 
ユニバーサルソルジャー リジェネレーション (竹内です)
2010-06-30 00:21:48
ついにバンダム&ラングレン再タッグ作品公開が始まりました。とは言え、順次公開が故にウチの県ではまだ未定。九州では福岡のみとなってます。

ドロップアウト氏にも是非観てきて頂きたいです。
 
 
 
>ユニソル (ドロップアウト@管理人)
2010-06-30 00:55:38
 ユニソルですよね。ツイッター上でのリュックとスコットの激闘も面白いし、
 凄く観に行きたいのですが、今足が無い上に日々の糧を食む為の雑業が忙しくて、
 身動き取れないんですよ。何とかしたいところです。
 ヒットして続映と上映館数増加希望(;>Д<)
 
 
 
>>ユニソル (ドロップアウト@管理人)
2010-07-08 00:11:02
 観て来ました。
 ドルフ・ラングレンの色気に、JCVDのエモーション。
 それに“ザ・ピットブル”アンドレイ・アルロフスキーの半端ない戦闘力。
 地味なのかも知れないけど、期待以上にいい映画でした。
 客入りは、私が観た回は貸切でしたが(;´Д`)
 
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