真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「やればスッキリ生尻娘」(1998『生尻娘のあへぎ汁』の2009年旧作改題版/製作・配給:新東宝映画/監督:深町章/脚本:武田浩介/企画:福俵満/撮影:鈴木一博・宮川幸三・馬場元/編集:酒井正次/助監督:高田宝重・中野敏寛/スチール:津田一郎/録音:シネキャビン/現像:東映化学/出演:西藤尚・東夕巳・相沢知美・熊谷孝文・池島ゆたか・佐野和宏)。なほ今作、2002年に「うづく制服 快感汁」といふ新題で既に一度新版公開されてゐる。
 開巻は、廃バスでタバコを燻らす女子高生。タイトル・イン明け、背負つた見事な鳳凰を披露すべく、天井から抜いた女が上になつた画で始まる濡れ場。因みに東夕巳(=小室芹奈)の刺青は、故向井新悟さんのものと同様、本物である。天一会若頭・間島(佐野)は敵対する村山組幹部狙撃後逃亡、情婦・咲江(東)を伴ひ隠れ家の安アパートに身を潜めてゐた。間島の行方を探ることを命ぜられた弟分の崎山(熊谷)は、組への忠義と、兄弟の仁義との狭間で揺れる。一方、母親は三年前に亡くし、証券会社に勤める父親・昭一(池島)と、女子高生の娘・奈緒(西藤)の二人きりの森原家。複雑な年頃に片親の親子仲は上手く行かず、さういふ家庭環境も影響してか、奈緒は普通に制服を来て家を出るものの不登校といふ設定ではあるのだが、それにしては奇異に見えるのが朝の風景。不自然にも家の中に一枚きりしかないのか、昭一がネクタイの結びを整へる鏡に、髪型を直す奈緒が父親を押し退け割り込んで来る。ここは関係の冷却した父娘にしては、明らかに距離感が近過ぎる。奈緒は同級生の亜紀(相沢)と同性愛の関係にあり、それはそれとして援助交際に精を出す亜紀は、その人とは知らず森原と関係を持つ。例によつて学校にも行かず、未成年の癖に慣れた手つきで火を点けたタバコを母親の墓に手向けてゐた奈緒は、今の自らと崎山と同じ立場にあつたかつての兄貴分の墓参りに、訪れてゐた間島と出会ふ。共にメインストリームからは外れた者同士とでもいふ訳でか、二人は何となく意気投合する。
 主演の西藤尚、ピンク映画的には、実働は主に1998年から2000年にかけての三年間。監督としては今作の深町章や渡邊元嗣の映画を主戦場に当時ピンクス(ピンク映画愛好の士、の意)の間でアイドル的な人気を博し、PG誌主催の1998年度ピンク映画ベストテンに於いても、今作他の功により女優賞を受賞してゐる。とはいへ、相変らず恣に筆を滑らせ仕出かしてのけるが、個人的には、リアルタイム当初から一貫して、この娘の何処がいいのかサッパリ判らなかつた。締りのない笑顔を振り撒くばかりが関の山の、抽斗は少なく垢抜けないイモ姉ちやんとでもしか思へなかつたのだ。世評も高かつた今作に挑むに当たり、西藤尚ルネサンスの幕が遅ればせながら―遅れるにもほどがある―開くものかあるいはと思ひつつ小屋の敷居を跨いだものではあつたのだが、残念ながら今回も、私には西藤尚の壁を越えられなかつた。依然、印象は一切変らず。零れ落ち気味の少女と生粋のアウトサイダーとの、出会ひと別れの一幕を描いた青春映画、といふ趣向は勿論酌めぬではないものの、殆どデフォルト感覚でもある間島らが辿る凄惨や小室芹奈の本物が持つ迫力と、主演女優の硬度不足との間に生じる齟齬の前に、形にはならなかつたといふ感が強い。要は、それをいつてしまつては万事それまででもあるともいへるのだが、西藤尚の載つたスクリーンにキラキラとした輝きを感じられるか否かで、評価を全く異にする一作といつたところか。その限りに於いては、確かに主演女優が映画を支配してゐるともいへる。

 よくよく考へてみると、女の子同士で情を交しつつも、亜紀は森原相手に援交し、奈緒も奈緒で間島に藪から棒な恋心を、それはそれとして少女の直情さを以てして燃やす。二人ともバイだから、といつてしまへばそこで特に問題もなく成立する話なのかも知れないが、そもそも、奈緒と亜紀の百合は、別に不要であるやうな気も残らぬではない。
 咲江への対抗心から奈緒が訪ねる刺青師は、体格からして高田宝重に思へなくもないが、画面が暗過ぎて判別しかねる。


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コメント
 
 
 
俳優 池島ゆたか 再認識 (右近)
2016-01-31 09:04:38
昨日、京都本町館にて鑑賞
本目的は池島監督作原題名「memory」鑑賞のためでしたが、これはひろいものでした。

初見、西藤尚は、ピンクファンのサイトでは評判良し、しかし何がいいのか、まったくわからず・・。

俳優 池島ゆたか、哀愁のあるオヤジ役を見事に表現。

間島の最後のシーン等は演出のまずさですっきりせず

女優の刺青の、りっぱさには脱帽(生唾もの)
 
 
 
>俳優 池島ゆたか 再認識 (ドロップアウト@管理人)
2016-01-31 22:48:08
 西藤尚は今でもナベや荒木太郎の新作にチョイチョイ出て来ますが、
 顔の線がリファインされて今の方が寧ろいい印象です。
 私も当時は一貫して理解出来ませんでした。
 
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