真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「教育実習生 透けたブラウス」(2003/制作《オープニング・クレジットまま》:加藤映像工房/提供:オーピー映画/監督:加藤義一/脚本:岡輝男/撮影:創優和/照明:野田友行/編集:フィルム・クラフト/音楽:レインボー・サウンド/助監督:竹洞哲也/監督助手:今村昌平・宇野寛之/撮影助手:山口大輔/照明助手:深澤修司/タイトル:巨匠/出演:佐倉麻美・しのざきさとみ・酒井あずさ・流章一郎・丘尚輝・なかみつせいじ・JYUKITIROU・KYOSYOU・風間今日子・しらとまさひさ)。サード助監督が宇野寛之で撮影部セカンドが山口大輔といふのは、逆ぢやないか?
 念願叶つての母校での教育実習初日、真部位(漢字が全然判らん)女子大教育学部の安西桃子(佐倉)はいきなり寝坊してしまふ。慌ただしく身支度を済ませ飛び出す桃子は、一体この大事な一日に、どうして寝過ごしてしまつたりなんかしたのか。前日、母校に恩師・油谷満次郎(なかみつ)を訪ねた桃子は驚愕する。桃子が大学に通ふ四年の間に、共学であつた高校は男子校「池照男子学園」へと様変りしてゐたのだ。男子校に女の教育実習生はマズいといふ油谷に、桃子はスカートを自らたくし上げつつ卒業出来ぬと泣きつく。別に母校に拘らずとも、別の高校に行けばよいだけの話ではないか、などといふ至極妥当なツッコミはひとまづ控へよう。桃子はそもそも四年前に、矢張り卒業単位目当てで油谷に体を任せてゐた。同構図からカット変ると桃子の衣装を女子高生の制服に替へ、同じパートできのふのことから四年前への、二段構への回想が綺麗に決まる。関根和美に、加藤義一の爪の垢でも煎じて呑んで欲しい。
 前日の油谷との情事でクタクタになり、結果遅刻した桃子は再び驚かされる。実習の監督官として桃子を待ち受けてゐたのは油谷ではなく、高校時代から苦手だつたハイミスの科学教師・神崎真知子(しのざき)、油谷は交通事故で入院したとのこと。何のことはない、油谷は桃子と別れた後、今度は出会ひ系でゲットした人妻・山本慶子(酒井)とホテルで一戦交へ、帰途慶子に尺八を吹かれながら車を運転してゐたところ、ハンドル操作を誤り事故を仕出かしてゐた。といふ一幕を潔く駆け抜ける、酒井あずさの濡れ場要員ぶりには戦慄を禁じ得ない。さて措き、明白な敵意を剥き出しにする真知子に、桃子は三年Z組を受け持つことを厳命される。Z組は、問題児ばかりの学内のお荷物クラスであつた。桃子が戦々恐々Z組に入ると、御挨拶にもいきなり四人の生徒が雀卓を囲んでゐた。ハーフの二卵性、キクとイサム(JYUKITIROUとKYOSYOU)のロバート兄妹に、ロック好きの不良・星川清(流)。薄くなり始めた頭頂部を気にし何時も何かしらを被つてゐる、留年十年(大笑)の沢田正浩(丘)。留年十年の高校生役に丘尚輝、開き直つたカウンターを放つにもほどがある。そこに遅れて、代議士を父に持つ、自閉気味で出席日数も足りない梶原裕二(しらと)が現れる。教壇に立つ桃子に誰も関心を払はず早速崩壊したクラスに、桃子はヤケクソといつた風でもなく大胆奇抜な一計を案じる。再び自らスカートをたくし上げ、パンチラを披露するつもりだつたのだが。朝寝坊し慌てて飛び出して来た桃子は、何とノーパンであつた!目を丸くする一同、「イヤーン」とポップに赤面する桃子。ふざけた沢田が水鉄砲で桃子を撃つと、

 桃子のブラウスは透ける。

 馬鹿馬鹿し過ぎさの紙一重も超え、ここに至ると寧ろ鮮やかですらある。天才とまではいはぬが第六作にして、早くも加藤義一は渡邊元嗣の領域に手を届かせてみせたのか。加へて、間に桃子の対油谷戦、油谷の対慶子戦と二つ絡みも経てのことであるから結構遠く遡るが、開巻のバタバタした朝の様子の中に、桃子がパンティを履き忘れるといふ描写は実はキチンとなされてある。馬鹿馬鹿し過ぎさの為に、一手一手の論理的手続きを周到に積み重ねる。プログラム・ピクチャーといふ判り易過ぎるくらゐがちやうどいいともいへる娯楽映画の領域にあつて、かういふ加藤義一の姿勢は正しく至誠といへるのではなからうか。
 一方真知子は姦計を練る、Z組の生徒を―梶原を除き―全員退学させ、全校での大学進学率を上げる。そのことで学内を牛耳り、イケメン生徒ばかりを入学させ逆ハーレムを築かうといふのだ。まづ校内で喫煙してゐるところを捕まへ、キクとイサムを葬り去る。続けて沢田と星川の弁当にこれを混ぜろと、フラスコに入つた如何にも怪しげな薬品を梶原に渡す。梶原は一年の頃に万引きを揉み消して貰つて以来、真知子のいはば性奴隷の状態にあつた。早弁してゐた沢田と星川は豹変すると、授業中の教室で桃子を犯す。それが真知子の薬品の効果であり、教師といふ夢を諦める桃子と、桃子に訴へられた沢田と星川、一石で三鳥を落とすことを狙つた卑劣な計画であつた。ところが、良心の呵責とほのかな恋心とに屈し、梶原は桃子に真相を白状する。俄かに意を固くした桃子は、真知子への対抗意識も顕に、残つたZ組の生徒を全員卒業させることを誓ふ。部活動その他一芸に秀でた生徒には卒業が認められるといふ方針を盾に、桃子は高校時代自らも汗を流したチアリーディングに三人を誘ふ。男がチアリーディングかよと臍を曲げる沢田らではあつたが、眩しい桃子のチア姿にも心をくすぐられ、Z組はやがて団結して行く。
 とかいふ訳で、マチコ先生×スクールウォーズとでもいふべきお話ではあるのだが、惜しむらくは、既に語られてゐることでもあるがさういふメイン・プロットが漸く完成するのが、尺も折り返しを遠く通り過ぎた殆ど終盤に差しかゝつた地点であるといふ点。その為、桃子とZ組の生徒の学園生活の描写は、何れも断片的なものに終始する。とはいへこれが、細切れに止(とど)まる分カテゴリー上不可避な安普請にも然程阻まれることなく、桃子とZ組の生徒との交流の瑞々しさが純化されたまま残る、といふ逆説が成立してゐるといへなくもない点が面白いところ。それが何れも、たとへ紋切り型にステレオタイプに過ぎなくとも。何とも温かな肌触りの心地良さ、それこそが加藤義一映画の肝ではないか、改めてさう思はされた。かつての同級生で今は身重の妻を抱へる沢田はアルバイトをしなくてはならず、交通整理のバイトをしながらチアの動作を練習するカットや、特訓の成果を披露する当日、にも関らず四人揃はなくてはならない筈が三人しか居ない教室での沢田の姿には、役者としての丘尚輝に初めて真つ直ぐなエモーションを感じた。儂の映画の観方は、九州の醤油よりも甘いぞ。
 何だカンだとありつつ、新しい、だけれでも同時に変らない日常が幕を開けるラスト。再び透け、させられた桃子のブラウスの胸元をアップで抜いて「イヤーン」と幕を引くオーラスは、メイン・プロットの完成をさて措いたとて延々尺を費やし描いた一度目のブラウスが透けるまでが、構成として決して無駄ではなかつたのかとも、思はず錯覚させられる。鑑賞後の心持ちも全く爽やかな、青春ピンクの佳篇といへよう。

 風間今日子は、星川が憧れる女子大生。ポップ・センスの本格投手加藤義一にあつても、かき上げた髪をそよがせる風間今日子を憧れのマドンナとしてスローモーションで撮るといふのには、些か無理があつた。それと同じく佐倉麻美主演の前作で感じた濡れ場に際しての何ともいへぬ生々しいいやらしさは、今回は感じられず。それが映画の違ひなのか、フィルムとプロジェク太といふ上映方式の優劣によるものなのかは、ひとまづ決しかねる。
 劇中星川が好きなロックといふことで都合二度流れるバンド・サウンドは、確かクレジットにはなかつたやうな気がするが、Sheher Tonightの音源であると思はれる。他で全く見かけない星川役の流章一郎は、誰かの変名かとも思つたが、見覚えなく全く手も足も出なかつた。とはいへキクとイサム役の他二名とは明らかに異なり、何れにせよカメラの前に立つことに覚えがあるやうには見えた。


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