真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「痴漢蚊帳の内 茄子と四十路後家」(2008/製作:フィルム・ハウス/提供:Xces Film/監督:坂本太/脚本:蒼井ひろ/企画:亀井戸粋人/プロデューサー:伍代俊介/撮影監督:創優和/撮影助手:丸山秀人/照明助手:宮永昭典・小松麻美/助監督:加藤義一/監督助手:小山悟/スチール:阿部真也/メイク:篠原ゆかり/編集:有馬潜世/制作協力:フィルムハウス/出演:竹内順子・倖田李梨・杉本愛理・岡田智宏・成田渡・小林三四郎)。
 蚊帳の中、肌蹴た乳房を自ら揉みしだく女。家々を回る、営業の男。女が女将を務める小料理屋に入つてタイトル・イン。
 松本美和(竹内)の夫・真介(成田渡/遺影としてのみ登場)は四年前、不倫相手との交際のもつれを苦に、橋から身を投げ自ら命を絶つ。美和が営む小料理屋「ひなたびより」、美和が表の鉢植ゑに水でもやるかとしたところに、訪問リフォーム業者の高沢春彦(小林)が通りかかる。高沢は立てつけの悪い入り口の引き戸を直すと、日を改めた来店を約しひとまづ立ち去る。「ひなたびより」には、けふも常連客の酒屋二代目・渡辺孝司(岡田)と純子(倖田)夫婦が訪れてゐる。孝司が最近界隈で噂の、目星をつけた女を薬で昏睡させ事に及ぶ、「水のないプール」な痴漢氏の話を切り出すと、純子は藪から棒に、自分はその男に犯されたのかも知れないだなどと箆棒なことをいひ出す。血相を変へた孝司は慌ただしく純子を連れ帰ると、手篭めにでもするかのやうに女房を抱く。その夜、生前の真介に一度茄子を入れられたことを思ひ出しながら自慰に耽り床に就いた美和は、夢の中で孝司の噂話通りの謎の男に抱かれる。それは果たして、夢なのかそれとも現実なのか。主演の竹内順子は、“T○F元バックダンサー”とかいふ経歴に、訴求力があるのだかないのだかよく判らないAV女優、ナルトの中の人とは全く別の人。迫力のある肢体が見映えはするものの、横になつた際の乳房の張り具合には、一抹以上の疑念を拭ひ切れない。不美人といふ訳でも決してないが、表情は終始乏しく、硬い。
 杉本愛理は、真介が身を投げた橋の袂で、姿を消した父親を探す高沢優奈。明確に義姉に想ひを寄せる真介の弟・真二(成田渡の二役)は、それを真介の不倫相手と誤認し喰つてかゝる。真二が美和に渡した、優奈から借りて来たといふ父親の写真は、高沢のものだつた。
  前作以来、凡そ丸二年ぶりともなる坂本太のピンク復帰作は、気負ひが過ぎたのか、余計な色気が消化不良を残す結果に終つてしまつた。蚊帳といふATフィールドを挟んでの、“待ち続ける女”と“逃げ続ける男”とのメロドラマは、脚本の薄さ以前に、小林三四郎も兎も角として、竹内順子にはどうにもかうにも手に余る。そこを強引に乗り越えて行く強靭なドラマ演出も、坂本太の本分ではなからう。加へて、美和が高沢と暮らし始めた途端に蚊帳を片付けてしまつては、女の姿としてはリアルさも感じさせるが、それでは蚊帳が映画全体に於ける鍵として如何せん機能し難い。優奈と真二のファースト・コンタクトへの布石の置き方の丁寧さは買へるが、優奈の濡れ場を真二相手に展開するに際して、「もう一度生まれ変りたい」。同じ言葉を残しての、兄を喪つた男と、今将に父を喪はんとしてゐる女とが、同じ場所に居るだの居ないだのといつた事の運び方は、藪から棒にもほどがある感を禁じ得ない。意欲が窺へぬでもないものの、素直にエクセス本流の、そして元来坂本太が十八番とするところの実用性の一点突破に潔く徹してゐれば良かつたものを、即物的な煽情性には富んだ筈の主演女優を擁してゐながら、全般的には生煮えに終つた印象が強い。ラストの刹那の凶行は、らしくないといへばらしくないが、ただそこへ向けての、孝司の引張り方は全く過不足なく秀逸。正攻法のドラマ志向を横好きと無下に斬つて捨てるには流石に少々吝かだが、折角久方振りの坂本太には、メロドラマなどではなく、好調時にはポップ感も心地良いエロドラマを、矢張り見せて貰ひたかつたところではある。


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