真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「巨乳熟女 とろける手ほどき」(2007/製作:フリーク・アウト/提供:オーピー映画/監督:国沢☆実/脚本:間宮結・国沢☆実/撮影:大川藤雄/照明:小林敦/撮影助手:大江泰介/助監督:高橋亮・関力男/効果:梅沢身知子/フィルム:報映産業/協力:《株》石谷ライティングサービス/出演:ささきふう香・華沢レモン・里見瑤子・中田二郎・佐藤五郎)。
 「どうして救つてあげなかつたの!」と生徒を平手打ちする、中学教師・松葉香織(ささき)の回想ショットにて開巻。
 会社員の笹原誠(中田)は同僚の三森敦子(里見)と関係を持つが、身も心も誠に捧げようとする敦子に対し、誠はといふと、体を重ねるだけで最終的には敦子の方を向いてはゐなかつた。翌朝お泊りした敦子を置き去りにして、一人さつさと出勤しようとした誠は、ゴミ出しに出る隣家の住人と鉢合せる。誠は驚く、隣家の住人は、中学時代誠が想ひを寄せ卒業式当日には手紙を渡してもゐた、担任教師の香織であつたのだ。誠らの卒業後結婚し退職した香織は夫を交通事故で喪ひ、今は一人娘の優奈(華沢)と一月前から偶々誠の隣に暮らしてゐたものだつた。早速その夜優奈は未だ帰宅しない松葉家を訪れた誠は、以後香織の趣味のビーズ細工を習ふといふ方便で、画期的な好都合で偶然隣に越して来た初恋相手の部屋に入り浸るやうになる。優奈もそろそろ親離れする年頃で心に隙間を感じ始めてゐた香織も、歳の差に抵抗は感じつつ、次第に誠との関係に溺れて行く。
 浅草キッドの二人を足して二で割つたやうな佐藤五郎は、優奈の彼氏・江崎洋介、格闘技フリークの純朴好青年をひとまづ好演。今回は決して大きな役ではない為、出来ればもつと他の映画でも観てみたいところではある。
 身勝手極まりない誠には、一切の感情移入は阻まれ。ささきふう香と佐藤五郎にも多くは望めず、里見瑤子は徹頭徹尾可哀相な役回りで不遇に手足を縛られる中、今作の決戦兵器は、当代最強のピンク五番打者である華沢レモン。子離れしない母親の新恋人の出現に、温かく見守りながらあはよくば背中も押さん勢ひで、主演の筈の二人に全く馬力は欠きながら、側面から飛び込んで来ては展開の牽引役を一手に担ふ。江崎宅から朝帰りしてみたところで、母の寝室に二人半裸で眠る香織と誠との姿を目撃するシークエンスのリアクションは絶品、映画を偶さか輝かせる。
 といふ訳で、(共同)脚本の間宮結も前回の敗戦を挽回したかと勘違ひしたのも束の間、クライマックスで、又しても映画は木端微塵に打ち砕かれる。買ひ物帰りの香織親子と誠の姿に、娘の方を泥棒猫と勘違ひした敦子が江崎と歩く優奈を急襲したところから、大胆不敵にも松葉家に全ての登場人物が揃つてしまふ。江崎は殆ど部外者として、凡そ収拾のつけやうが見付かりさうにもないグチャグチャの修羅場に一閃、十年の歳月を経て再び誠に振り下ろされた香織の平手が見事に物語を着地せしめ、たかと思ひきや。そこに続けて登場する、口では失くしたとかいひながら実は大切に保管してゐた、中学時代誠が香織に送つたラブレターが無理強ひする結末には唖然とさせられる。そのラブレターも藪から棒に飛び出て来たものではなく、御丁寧にも伏線を噛ませたものとあつては何をかいはんや、正しく開いた口も塞がらない。
 そもそも中学時代に誠が香織から平手打ちされた件も、誠が同級生の女生徒のイジメを見過ごしてゐたからだとかいふのも勘弁して欲しい。何があつたか詮索するのも最早面倒臭いが、辛気臭い個人的体験を一々商業映画に持ち込まれても閉口させられるばかりである、口を開けたり閉ぢたり忙しい。といふかこれでは最終的には、誠は中学時代の苛められてゐた同級生の女子も、敦子も共に救へなかつた救はなかつた、要はそれだけの話ではないか、無体にも程がある。二人掛かりで斯様な大穴を看過するとは、いよいよ以て頂けない。言ひ訳がましく敦子が元気を取り戻すカットも、蛇足を通り過ぎて却つて腹立たしい。華沢レモン大活躍の中盤は本当に順調であつただけに、余計に残念な一作である。

 ところで。どうにも通り過ぎることが出来ないのは、香織と誠が中学卒業以来の再会を果たすのが十年ぶり。誠卒業後の香織はほどなく結婚退職し娘を産むが、娘が五歳の時、夫は交通事故死してしまふ。そんな優奈が劇中時制現在十九歳といふのは、一体どんな時空の歪ませ方をすればさういふ出鱈目が通るのだ。誠が香織宅を初めて訪れた夜、気が付くと一々卒業アルバムを持参して行く辺りも強烈に不自然。都合のいい物語を力技で結末に導かうとするならば、尚更細部は入念に詰めておかなくてはなるまい。


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