人妻悲恋 巨乳みだれ泣く

　「人妻悲恋　巨乳みだれ泣く」（2009/製作：多呂プロ/提供：オーピー映画/監督・出演：荒木太郎/脚本：荒木太郎・三上紗恵子/撮影・照明：飯岡聖英：編集：酒井正次：助監督：三上紗恵子/監督助手：金沢勇大/撮影・照明助手：橋本彩子・河戸浩一郎/郎音楽：宮川透/ギター演奏：平木由起夫/協力：佐藤選人・ドンキー宮川・ペジテ/タイミング：安斎公一/出演：はるか悠・淡島小鞠・佐々木麻由子・光田圭亮・縄文人・牧村耕次）。を拾ひ損ねる。
　土工の北田守（牧村）は、現場の一同で通ふ食堂「いづみや」の巨乳従業員・りん（はるか）と結婚し、仲間も羨む新婚生活を送る。バレーボールを二つボガンボガンと胸につけたかのやうなはるか悠の見事なオッパイは、全く以て実に羨ましい限りだ。「いづみや」で普段は口にせぬ酒を飲み、潰れて眠り残された守とりんとが初めて結ばれる夜は、ジングルベルが鳴つてゐたところをみるとクリスマスか。意外なのか当然予想される範囲内なのか、ピンク映画がクリスマスに触れることは実は滅多にない。ところがある日、守に抱かれるりんが絶頂の瞬間に別の男の名前を叫んでしまつたことから、二人の幸せは壊れる。守は暴力的に問ひ詰めるが、その最中は忘我状態にあるらしきりんには何の事だか全く判らない。心の隙間を埋められぬまま、ユニックを用意した守は車持込の建設現場での出稼ぎに、りんを残し大阪へと旅立つ。
　ヒッピー姿が麗しく様になる淡島小鞠は、守が道すがら拾ふ、守命名によるトラックジプシーのナオミ。ぼちぼちの関西弁を駆使する出身は広島県の佐々木麻由子は、大阪で守と結婚すら見据ゑる程の仲になる建設会社社長の娘・珠子。流石に、もう“令嬢”が通る歳でもとうにないか。荒木太郎は、守に事実上捨てられたりんが関係を持つ、現場監督の田島。濡れ場に与ることはないがいい芝居を見せる光田圭亮は、守を兄貴と慕ふ歳の離れた弟分・中川。縄文人は、田島とも別れたりんとの不倫にこちらも濡れ場の恩恵には与ることなく溺れ、全てを失ふ関根運送元従業員・福原。ニコニコのヒゲ面が画面に映えるドンキー宮川も、土工仲間として見切れる。
　大雑把なアプローチを取ると、今作は三部に分けることが出来ようか。ひたすらにりんと守の頑丈な濡れ場で偏にもたせる、新婚夫婦の幸福を描いた第一部。ナオミと珠子に―ナオミに関しては、厳密には半分正確ではないのだが―犠打を打たせ、東京を離れ大阪で暮らす守を描いた第二部。珠子のことも再び半ば捨て、りんとの関係にケリをつける為に守が中川を頼り東京に戻る第三部。今回、荒木太郎・三上紗恵子（＝淡島小鞠）のコンビは敢て物語の始終を全て描いてみせることをせずに、はるか悠と牧村耕次とに映画を委ねる作戦を展開する。それが賢明な戦略なのか、単なる結果論的な横着なのかは判別しかねるのでひとまづ兎も角。その為、第三部に於けるハードボイルド調は荒木太郎の手には最終的には余るやうな気もしないではないものの、派手に仕出かしてしまふこともなく、近作の中では最も比較的に充実したまま一作を観させる。十全なロケを張るバジェットなど初期設定で望めぬ中、守と福原の対峙や、殊に臍を曲げるナオミの傍らで守が静かにギターを爪弾く場面に際しての、見事なロケハンは手放しに光る。尤も、実は守がナオミを拾つたのは、守が大阪から東京に戻る最中の話であつたにも関らず、守の大阪行きの決意と、大阪での守の生活との間に挿み込まれるナオミ初登場のタイミングは、劇中時制を徒に混乱させるだけでしかないのではないか。東京に向かひたい筈のナオミを大阪に向かふ守がどうして拾ふのか、一体守は何処から大阪を目指してゐるのかと不思議に思へたものだ。一旦はりんを捨てた守に、即座にフラワーな淡島小鞠でアクセントをつけようとしたとも思しき意図は、酌めぬではないのだが。更に第三部の肝心要を、縄文人に委ねてしまふのもどうしても猛烈に苦しい。引いたままのカメラに画的な問題はないものの、台詞の方は大いにさうは行かぬ。さういふあれやこれやの不備と、管制塔は満足に機能しないままに単独飛行を展開する牧村耕次に、「あんたとなら、死んでもいい」とまでいふほどの情念は、演出の軽さもあらうが特には感じさせないながらに、映画をひとまづ支へ得るはるか悠の立派な肉体。何れに重きを置くかはその時々の気分と体調にも左右されようが、今回個人的には、牧村耕次と光田圭亮との非常にいい感じのツー・ショットにも背中を押され、概ね満足して小屋を後にしたものである。